やめルルルォ!!”タイトル”!!

ここはどこかと言われたら

『ハルバード』の外れの人が寄り付かない孤児院か


孤児院内の来客用個室では、3人の姿がある


机を挟み、2人は以前“タバコ屋“が助けた執事とお嬢さん


1人はヨボヨボの“金龍師“のティアだ


机に置いてある紅茶を執事とお嬢さんは飲み干す


「どうじゃ?“今いる世界“で1番安全な場所で飲む紅茶は」


と、言われても無言のままの2人





“タバコ屋“の噂は耳にしていた


しかし、“金龍師“まで強い繋がりがあるとは予想だにしなかったのだ


出されたものは飲む

失礼がないように


だが緊張のためか


味すらわからない


今前こんぜん世界を統べる覇者』とも呼ばれる“金龍師“を前に、平然としていられるのは心が歪んでる存在だろうな、と、執事は心で思う


思ったところで見透かされているのではないか?

疑念を持つお嬢様


「そう畏まるでない、クソ親父が救った全ての命の後処理はわしに任せられとるからの、不本意じゃが」


「そ、そうなのですね」


意を決して発言するお嬢様だが声は震え、額からは冷や汗すら湧く


「ふぅむ、少々硬すぎるな御二方、場所を移そうかの」


パチンと指を鳴らす“金龍師“に、顔を強ばらせる2人


景色が変わり、辺りを見渡すとそこは孤児院の子供が集う場所だ

“金龍師“は、2人を同時に転移魔法で移動させたのだ


移動された為、椅子がなくなったのか、お嬢様は尻もちを着く前に執事に支えられる


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「え、えぇ…何故ここに…?」


質問をするが“金龍師“はいない


辺りはお昼の食事中だったであろう子供たちが、執事とお嬢さんをじっと見つめていた


「あの人ってお客さんだったよね…?」


1人の控えめな子供がつぶやく

それに反応し、元気な子供が叫ぶ


「こんちわーっす!え、と、こういう時お茶とか出すんだよな!?」

「ちょっと!大きな声出したら驚くでしょ!」

「うるせぇ”D”!お前もでかいじゃねぇか!」

「”J”こそでかいわよ!」


きゃあきゃあと騒ぐ中、お嬢様と執事は立ち尽くす




だが、お嬢様は意を決して、両頬を叩き、自らに喝を入れる


それを見て、叩いた音を聞いた子供たちは瞬間的だが止まる


「ええ、そうよ!私はお客様!来客に対してお茶のひとつも出ないのかしら!」


「お嬢様!?」


「いいのよ、ここはもう龍の胃袋、消化されるのがオチなのだから生きて帰れるわけがないわ」


「しかし…っ!」


「見なさい、子供たちの目を、考えてる目を」


執事はお嬢様の発言を聞き、周囲を見渡す


子供たちは考えていた

己の力でどうしようかと


「やっぱりお茶は必要よね…お昼のでもいいのかな?」

「ばっか、さすがに失礼だろ…おい“F”、茶入れるのうまかったろ、やってくれよ」

「えぇ、僕うまくないよぉ?」

「いいからやれって、なんなら他の子連れてもいいから」

「なんで“J“が仕切ってんのよ!ほら!他の子達も机動かして!」


先程のきゃあきゃあとした騒ぎから一変


司令塔である活発な男子J女子Dが指示を次々と出していき、他の子達はそれに応じていく




お嬢様はそれを見てつぶやく


「すごい…子供一人一人の能力をきちんと把握して、的確な指示を出していく」


「見事です……、が、少々私は怖いですね」


「爺様、何故かしら?」


「この子達が大きくなり、敵として迫られた時を思うと…」


「それはないわね、だって“金龍師“よ?」


「ならばよろしいですが…っ!」


「爺様?どうかしたの?」


「いえ、少し“金龍師“から伝言が届いたもので…『安心せよ』との事です」


「ほらね、つまりそういうことよ」


「ですが…」


「ほら、クヨクヨしないの!それにね」


「まだ何かおありですか?」


「そう難しく考えなくてもいいのよ、蛇に睨まれているとはいえ狼に噛まれている状態なのよ?この機は逃さないわ、むしろチャンスね」


「チャンス、ですか」


「夢を語るけど独り言よ、将来私は家を出て大きくなるわ、心体、権力もよ」


「…」


「まず初めにお父様を潰すわ、そしてそこに住み着いてここの援助をする」


「……むぅ」


「貸し借り以上、そうね、信頼関係が生まれたら私を初めとして、後釜になる子達も安心できる未来が出来上がるわ」


「…様々な壁ができてきますね」


「所詮夢よ、予定は未定だから」


「ならば、まずは今の状況を打破せねばなりませぬが、声に出してる以上、聞かれてる可能性があります」


「夢なんか信じる御方でもないでしょう?子供の戯言に付き合う年頃でもないでしょうに」


「歳をとってしまわれると、そういう訳には行きませぬが?」


「あら、爺様は“金龍師“からすれば子供でしょう?それを踏まえたら私たちの言葉なんてゴミ箱に捨てられたお弁当のようなものよ」


「愛情たっぷりのお弁当でも、ですか」


「人の気持ちがわからなければ、捨てられた弁当ゴミは、ただの廃棄物よ、頂点に存在するものからすれば底辺なんて肥えた腹で見えないんだから」


「“金龍師“がそうとは限りませんが…」


「あの蛇が見ているのは、この孤児院と、子供と、狼だけよ?私達は客ではなく試されている底辺の人間、それ以上はないわ」


「…腹を括らねばなりませぬな」


「そのつぶやきすらも鼻で笑うでしょうね、満面の笑みで憎たらしく」


「…とんだ拾い物をしましたね、噂程度の捨て犬かと思われましたが」


「捨て犬を魔犬並に育てた親が、蛇以上の女だなんて誰もわかんないわよ」


2人だけの会話は子供たちには耳に入っていない


「せっかくのお茶、失礼のないように飲みましょうね」


「えぇ、貴族らしく上品に、ですね」


子供たちに招かれ、足を踏み出す2人だった



──( ゚д゚)y- ──


「ブェェェェッックシュン」


『なんですかいきなり、バッチぃですね』


「風邪かぁ?寒気はしねぇんだがな」


『我が主がヘッドギ⚫を装着している部屋の気温を確認しましたが、そこまで寒くはありません』


「なら風の噂かぁ……「あそこのタバコ屋の店主、素敵な男性なんですよ!お金振り込まないと」って感じかな!」


『絶対ないですね、そんなことがあれば、『ハルバード』の大地は豊かになり、民も幸福感を味わえるでしょう』


「何その実現しそうで無理な内容、俺をそこまで酷く言う?!」


『見えてきましたよ、あの酒場です』


「無視すんなやコラ」


指示する方向に顔を向ける


焼却工場の近くとはいえ、一種の溜まり場と化した酒場には暗い町並みでも一段と明るく存在していた


「眩しいぜ」


『我が主の命令ならば直ぐに、暗く出来ますが?』


「俺はそこまで鬼畜じゃねぇから…店ん手前で停めるぞ」


『いえ、少し離して停めましょう。我が主のことですから乱闘間違いなしで、流れ弾でバイクが壊れます』


「嫌な未来予想図描かないでくれない!?俺ってどんなやつなんだよ!!」


『………………血に飢えた狼でしょうか?』


「謎の空白やめろ!そこまで飢えてねぇから!」


『まぁ!男は狼とは言いますが!否定なさらないところやはり…!』


「うるせぇなぁお前もう!店入るぞ!」


両開きのドアを開け、ベルがカラカラと鳴り出す


店にいたマスターは俺の身なりを見てすぐ顔を下ろすが、周りはそうもいかない


「おうおうゴブリン兄ちゃん!!初期アバターでこんなとこまでよく来たなぁ!ウィルスやバグに服取られたかぁ!?ヒャッハッハ!」

「言ってやるなよバーカ!リアルラックが良いだけで偶然たどり着いたんだろ!ガキは帰んな!」

「まぁまぁ御二方、そう騒ぎ立ててはなりませんよ、素人がネギしょって私たちに寄付しようとしているのですから、クックック」

「言えてんなぁ旦那ァ!マスター!!この初期アバターにミルクでも奢ってやれよ!ハッハッハ!!」


見られるなり馬鹿にされた

いやまぁ、元気なのはいいが警戒とかしないのかね


「おいおいおい!!初期アバターのくせに肩に乗っけてんの!!レアな奴じゃねぇの!」


「ほう、あれはサポート系ナビですが…どれ」


クククと笑ってたメガネデブアバターのやつが俺の肩に乗るシロを分析し始める


まぁ分析したところで……


「おお!これは珍しい、ナビの中でも特級のAIですな!値段に換算して1000万はくだりません」


え、シロそんな安いんだ…借金返せないな


『今私を安い女と思いましたか?』


小声で突っ込んできやがった、思ったこと読み取るなよ


「なぁ初期アバターさんよォ!そいつくれたら見逃してやってもいいぜぇ!ヒャッハッハ!!」


こいつらもう酔ってんのかな?

まぁ早く用事済ませたいし、切り上げるか


「すまねぇけど無理な相談だ…ほか当たってくんねぇか?」


「おや、生意気なやつですな。少し立場を分からせないとなりませんね」


「全くだなァ!」


ヒャッハ笑いの男が殴ってくる

てか素手かよ…腰にある棍棒とか使わないんだな


酒場のマスターに目線を移すと、「やれ」って目で返してきた


殴る拳を俺の顔面の頬に当たった瞬間、俺は右手で掴み、捻る


たったそれだけでヒャッハ男の肩までが捻れ曲がる


脆すぎだろ


「あ?…アァァァァアアオアア!!」


うるせぇ…


「っ!?てめぇ!!」


ハッハ笑いの男が腰に装着している銃を抜くが


遅い


懐に接近して、伸ばしてきた腕の肘を垂直に無理やりへし折り、銃を奪わず両脚の太腿を撃たせる


「アッガァ!?」


これで2人は床にのたうち回り、強制ログアウトされた


過度な刺激をVR空間で与えられると、現実にも影響が及ぶ


そのため、⚫ッドギアの設定では強制ログアウトされるのだ


残るはデブだけか…


「ひ、ひぃぃぃいい!も、申し訳ございませんでしたぁ!!」


2人のやられ様を見て謝ってきた

プライドとか、どこかに置いてきたようだ、このデブは


「てめぇら、最近ここで悪さしてる連中か?」


最近、ログインしてないから知らんけど


「自分はあの二人の下っ端のような存在ですぅ!お許しをぉぉ!!」


「あーわかった、ならいい。マスター!」


マスターは顔をこちらに向け、俺の言葉を待つ


「このデブは不問とする、信用出来ねぇが悪さはしねぇだろうよ」


マスターは俺の言葉を聞き、やれやれとした表情の後、バックヤードに下がった


「あ、あの…今のやり取りはなんでしょうか?」


「俺はいいんだが…マスター、何考えてんだ?」


「えと、あのぉ…?」


質問の答えにならない俺の反応に戸惑うデブは、バックヤードから出てくるマスターの姿を見て驚愕する


手に抱えるのはポンプ式のショットガンだ


「“初代“、ここは俺の店だ、俺には俺のルールがある。あんたが許そうが知ったこっちゃねぇ」


「そうかい、相変わらず血が騒いでるな」


「しょ、しょしょしょ“初代“ぃぃぃ!?」


「うるさい豚が、リアルで寝ていろ」


マスターはデブに近づき顔面を吹っ飛ばした


有無を言わさず強制ログアウトした首なしデブを俺は見送り、マスターに声をかける


「報復とか怖くねぇのかよ」


「また来るなら相応の相手すればいい、それより何の用だ疫病神の“初代“様は」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る