第3話


 首を360度全方向に回しても、そこはコンクリートの壁。

 まるで、大きな箱に閉じ込められているかのような感覚を思わせるが、それはまあ仕方のないことだ。

 俺の名前は、坂口歩夢。

 この見当たる限りコンクリートの場所で、たくさんの先輩方と一緒に住んでいる。

 物心を付いた時から思っていたのだが、何で俺がここにいるの?

 う~ん。考えても仕方ないか。

 人生悩み事が少ない方が、幸せだって姉さんも言ってたし。

 ちなみに俺の姉さんの名前は、坂口由紀。この日本の中で、ハンター序列3位らしい。

 3位はすごいよね。俺の敬愛する大好きな姉さんだ。

 もう俺は12歳になり、身体もガッチリしてきた。


「あっ、やばい!もうこんな時間!」


 時計に目を向けると、もう稽古の時間の2分前になっていた。

 稽古をすると聞いて、「お前脳筋か?」と思うのは、ちょっと早とちりだ。

 俺は、稽古で身体を鍛えるだけでなく、ちゃんと勉学にも励んでいる。

 何か難しい「心身学」という分厚い本も、読まされている。今後、必要になってくるらしい。

 まあ、そんなことはいい。

 急いでベッドから跳ね起き、稽古室に走る。


「稽古か。頑張れよ」

「行ってらっしゃい」

 

 部屋の外に出ると、俺の先輩たちがまるで自分の子供かのように、声を掛けてくれた。


「行ってきます!」


 意気軒昂に、返事を返してまた走り出す。 

 自堕落な自分の短所を直さないとな、そんなことを考えながら急ぐ。 

 遅れたら、アレが待ってるからな。

 アレがな。

 

「ふぅー、間に合った」

「30秒前だけどね。本来は、3分前には来て欲しいんだけど」


 自慢の100メートル11秒台の足を生かして、ギリギリ時間には間に合った。

 稽古室に入ると、姉さんが仁王立ちで待っていてくれた。

 今ではこれが、毎日恒例になっている。

 

「その暗黙ルールみたいなのやめてよ」

「毎日言ってるでしょ。3分前集合が、基本だって」


 実はこの会話も、パターン化してきている。

 もしかすると俺は、この何気ない会話をするために、ワザと遅れてるのかもしれない。

 姉さんを怒らせたら怖いことを知っているので、今日はここまでにしておくか。


「分かったよ。明日からちゃんとするから」

「本当に?」

「本当だよ」


 まったく怪しみ深いな~。

 明日からどうなるかは知らないけど。


「はいはい、分かった。じゃあ、早速稽古始めようか」


 諦めが肝心だよ。うんうん。

 俺だって、直したいんだよ。けど、ベッドと俺の間に強力接着剤が付いているかのように、離れないんだよ。

 誰か、理解してくれる先輩居ないかな。


「早く。組み手始めるから、正面に立って」

「はいはい」

「はい、は1回でしょ」


 姉さんの指示で、正面に移動して準備をする。

 屈伸や、アキレス腱を伸ばしたりしてストレッチする。

 ちゃんとストレッチしないと、ケガするからな。痛いのは嫌いだ。

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