第2話


 もう空は明かりを失い、すっかり静かになった頃。

 ある裏路地を、1人の女が歩いていた。

 年齢は、20歳に届くか届かないといった所か、きちんと整えられた軍服を身にまとい、ゆっくりとした足取りで歩いていた。

 この女がなぜ、こんな路地裏に来たかというと、仕事をするためだ。

 国家公認ハンター、これが女の仕事の名前だ。

 つまり、タイムイーターを狩りに来たのだ。

 

 5分ほど経ったくらいか、景色が一変とまではいかないが、少し変わる。

 

「これは酷いな・・・」


 さっきまではただただ暗いだけの、気味が悪い景色だったが、今は目の前にスラムのような景色が広がっていた。

 道端に積まれた大量のゴミ。

 思わず鼻を覆いたくなるほどの異臭が、ゴミから放たれている。

 そのことから、捨てられたゴミが長時間放置されていることが分かる。

 女は眼を顰め、耳を澄まして辺りに緊張感をもつ。

 

「ここには、居ないようだな」


 女は安堵の様子で、体の力を抜く。

 が、その時、


「おぎゃー!」


 赤ん坊の泣き声が路地裏に響いた。


「!?、何だ?」


 体全体に力を入れ直して、戦闘態勢に入る。

 あまりに唐突だったことに、女は冷や汗をかく。

 ・・・・・・・・。


「おぎゃー!」

「!?、・・・・・。赤ちゃんの泣き声?」


 女は再び上がった音に、肩をビクッとさせながら、冷静に呟いた。

 泣き声がした方向に、慎重に足を進める。


「これは、捨て子?」


 女が見たものは、段ボールに入れられた赤ん坊の姿だった。

 赤ん坊の柔肌は、タオルに優しく包まれており、赤ん坊自身は聞こえるか聞こえないかの小さな音で、寝息を立てていた。


「紙がある」


 赤ん坊の、腹の上に置いてある半分に折られた紙を屈んで手に取る。


『私には育てられません。名前は歩夢。誰か、この子に夢を持たしてやってください』


 女は赤ん坊の顔を見ながら、ボヤッと言う。


「身勝手な親だ。で、私はどうしたらいいんだ?」


 何をしたらいいか分からず、困惑する。

 取り敢えず、思考力を上げるために腰を上げて立つ。

 

「どうしよう、どうしよう。どうしよう、どうしよう」


 女は、考えるポーズをとりながらその場をグルグルと回る。

 10分、30分、1時間が経ちそうになった時だった。


「あっ! 寮に持って帰ったら誰かが面倒見てくれるよね、うん。そうしよう!」


 何かを思いついたかのように、女は眼を見開いた。

 そして、スキップに似たような足取りで、段ボールを持って去っていった。

  

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る