「あの話、どう思う」

 早苗ちゃんがカウンターに戻って早速、海斗は隣に置きっぱなしだった漫画を手に取ってぱらぱらめくる。

「なにかの勘違いじゃないかな。少なくともあの世と繋がるトンネルじゃないはず。警備員さんじゃない?」

「夢がないなあ」

「実はなんとかでした、みたいに自分で心霊現象の謎が解けたら面白いだろうとは思うけど」

 そういった瞬間、海斗の目が輝いた。開いたばかりの漫画も閉じる。

「いいじゃん!」

 その笑顔にちょっと嫌な予感がする。

「何が」

「解明しようぜ!」

 僕は心底嫌そうな声が出るよう意識する。

「えーそういうなの首突っ込むと碌なことないって言うよ?」

「じゃあさっきの台詞はなんだったんだよ」

「さっきのは、面白そうだなってだけで本当にやろうとは」

 海斗は僕の言い分を遮る。

「いいじゃんか。俺もやってみたかったんだよ。お前らの反応見る限り、早苗さん本人の話なんだろ? ほら、謎解きよりずっと別の道から学校通ってるほうが大変だろ? 夏休みだから一ヶ月学校来ませんなら怖いのも忘れるだろうけど、吹部は毎日だし、別の道ってことは遠回りってことだし」

「まあ、確かに」

 謎解きの方が楽かはともかく、返事をしなければ彼の言い分は止まりそうにない。

「よし! 行くか」

 海斗は本棚に漫画を戻した。

 うきうきしている海斗に僕は言う。

「宿題はいいのか?」

 宿題をやりに来たと言ってたが、漫画を読んでいるか怖い話をしているところしか見ていない。一応、机には数学のプリントが一問だけ埋められた状態で放置されている。僕もやらないと。

「開始十分でやる気なくしたから大丈夫」

「あーだから」

 僕が来たときにはすでに漫画コーナーにいたのはそういうことだったのか。そして、暇を持て余しているのだろう。たった十分で帰るのが嫌な気分はわかる。

「いいんだよ。休みまだ一ヶ月はあるし。お前こそいいのか? 何しに来たのか知らないけど」

「いい。読書感想文で指定されてた本借りるつもりだったけど、みんななかった」

 早苗ちゃんが入ってきた僕を見た途端そう教えてくれた。こんな時にしか図書室に来ないのがばれている。

「それは遅かったな」

 これなら去年みたいに夏休み前に借りて置けばよかった。今年は忘れていたのだ。

「そうだね。これで借りられたら宿題の計画、順調に進むつもりだったのに」

 とはいえ八月に入った頃にその計画はいつも無茶苦茶になる。それがちょっと早まっただけだ。

「本は何とかなるって。それより、善は急げだから行くか」

「善……になればいいけど」

「なにかがわかったら言えばいいじゃん。何もなかったら何もしなかったことにしよう」

「おっけー」

 プリントを片付けるために立ち上がった海斗の後姿に返事をした。

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