阿鼻叫喚

 過去には、とある国の首都であったこともあり、今は交通の要衝であることから、変わらず栄華を誇る街バルサローナ。


 その街のところどころから、火の手があがっていた。


 そして禍々しい翼の生えた化け物がその上を何体も飛び回っていた。

 ハルトとルインが街に戻ったときには、もうそんな手の施し様のない状態になっていたのだ。


「くっ、遅かったか」

「これは……どうすれば」

「考え込んでいても仕方ない。お前はとにかく手当たり次第にカンセラスィオンを唱えておけ」


 あの森での戦いで、多くの魔物を相手に戦った結果、魔法効果を打ち消す魔法カンセラスィオンの魔法が最も効果があることを2人は学んでいた。ただ、飛行しているだけに、なるべく相手が襲ってきたときなどにかける必要はあるが。


「わかったよ。できるだけ、がんばる」


 通りを走りながら、ハルトが剣を振るって魔物の注意を惹き、ルインが魔法を唱える。こんなときでも、2人のコンビネーションは完璧といってよかった。


「ハアハア、ゼエゼエ……結構、僕ら、がんばってるよね」

「弱音を吐くな。俺だって、疲れて無くは、ないんだぞ」

「珍しいね、ハルトがそんなこと言うなんて」

「それは言うだろう。人間だからな!」

「あー、君たちだったんだね」

「そうですよ、僕たちですよ……えっ!?」


 声のしたほうをふり向くと、いつぞやの酒場の店員の女性だった。


 しかし、あの時とは何かが違う。

 彼女は純白のローブをまとい、手には輝く白銀の杖を持っていた。


「お姉さん……まさか聖騎士どうぎょうしゃ!?」

「ご名答!」

「な、なんだと~~~」

「私も例の石の話で、この国に来たんだけどね。ほら、なんだか素敵な街じゃない。服とかも着てみたくってさ、それで酒場の募集に上手く乗っかったってわけ」


 彼女はウィンクしながらVサインをする。


「まあ、丁度いいか。ここを頼む。聖騎士なら残りを片付けることは造作も無いだろう」

「そうね、ただ、怪我させちゃうといけないから、カンセラスィオンで地道にがんばるのは貴方たちと変わらないかも。加勢はできないわよ」

「それでいい、こっちも俺たちだけで十分だからな」

「どういうこと、ハルト」

「察しが悪いな、お前は……俺たちは教会へいく」

「そっか、あの神父!」

「そうだ、奴が全ての元凶に違いない」


 そして、2人はお姉さん聖騎士にその場を託すと、教会に向けて走ったのだった。


「忌々しいガキどもが」


 教会に入ると、そこは血だまりの、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 あの神父はその中央に陣取り、入り口の2人を見据えていた。


「な、なんてこと……罪のない人々を」

「人間なんぞ、我々妖魔にとっては食事にすぎぬ。お前達人間だって牛や豚は食べるだろう?そのときに何か気にするか?それと同じだ。文句を言われる筋合いはないな」

「くっ……」


 ルインは、神父の語るその理屈に対し、何か言おうとしたが、言い返せるものを自分の中に見いだせなかった。


「馬鹿野郎、納得するんじゃない」


 そんなルインに対し、隣のハルトが叱咤する。

 ハルトは神父、いや妖魔の方を向くと啖呵を切った。


「妖魔の理屈等知らん。だから俺も聖騎士として気にせずお前を倒す!」

「ほざけ~~~~」


 言いながら神父の体が膨張してはじけ飛んだ。

 中から湧き出す混沌の渦。

 それはどんどん広がり、そして一つの形をとった。


 その姿は2つの頭をもつ巨大なカラス!

 その翼を振るうと、風の刃が2人を襲ってきた。


 ハルトとルインは、かろうじてそれを避ける。

 その隙に妖魔は、上方に飛ぶと、2つの口から火炎を吐き、教会の壁に穴をあけた。


「あ、あいつ外に出る気だ」

「追いかけるぞっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る