どこにあるのかメンティローサ村

「ハルト~本当にいくの?」


 神父に教えられたメンティローサ村の方角に歩きながら、もう何度めであろうか、ルインはハルトにその意思を確認した。


 わかってほしい、何度も、ということは自分は行かない方が良いと思っているのだと言うことに。


「本当に、だと?他に選択肢ないだろう」

「だってさ、酒場のお姉さん、そんな村聞いたこと無いっていってたじゃない」


 昨夜のあの質問に対し、店員は、キョトンとした顔で言っていたのだ。知らない、と。


「バルサローナには遠くから出稼ぎで来てるとも言ってたろう。考えても見ろ、お前だって四国とか九州の県とか全部言えないだろう。そんなもんだ」

「ひどいな、四国と九州の人怒るよっ!」

「そんなことは知らん。勝手に怒らせておけばいい」

「大体、言えないのはハルトでしょ。僕はわかるもの」

「何だと!俺は九州なのになんで9県無いのかといまだに納得がいっていないというのに……」

「うん、何だかどうでもよくなってきたから、もういいや」


 確かにハルトの言うことにも一理ある。

 あの神父はこの地域の教会の所属だろうから流石に間違うということはないだろう。


 少々道が寂しくなってきた気もしなくはないが。

 いや、気のせいでは無い。

 既にだんだん道なりではあるが、森の奥深くに来ている。

 まだ、日暮れとはいかないまでも、周りの木々に日光は遮られて、とにかく薄暗い。


「でもおかしいね。神父様の話によると、そろそろついても良さそうなんだけど?」

「そういえばそうだな……むっ?」

「ハルト、今の!?」


 女性の悲鳴のようなものが聞こえた。

 この感じからすると、それほど遠くは無いが、かといってすぐ近くでもなさそうだ。

 2人は目を交わすと、声のした方向、森の奥の方へ一斉に駆けだした。


「ふん、下級の魔物か」


 まもなく2人は、粗末な服にエプロンをつけている、村娘のような格好をした女性が、禍々しい翼の生えた空飛ぶは虫類のような風体の魔物に襲われて逃げているところに出くわした。


 女性は2人の姿に気がつくとこちらに向かって助けを求めてきた。


「た、助けてください」

「もう大丈夫です。僕たちにまかせてください」


 こういうときも役割分担。

 ルインが女性を落ち着かせている横で、ハルトが魔物に向かって剣を振るう。

 しかし、相手は空を飛び、空中から変則的な攻撃を加えてくるため、ハルトは若干苦戦しているようだった。


「くっ、ちょこまか動きやがって。おい!お前の魔法でなんとかしろ!」

「はいはい、お嬢さん、ちょっと待っててくださいね」

「はい……」


 魔物を目の前に見据えると、ルインは両手の指で何かを包み込むような形をつくり、念を込める。


「草木の精霊よ。汝らの力もて、その動きを封じよ!レストリツィオーネ!」


 ルインの手の間から近くのいくつかの樹木に光が伸びる。

 光を浴びた樹木の枝は見る間に伸びたかと思うと、かの魔物の翼に絡みついた。

 魔物は抵抗しようとしたものの枝の力の強さに次第に動きをとめ、巻き付いた枝が樹木から離れた途端に、地面に落下する。


 剣術のレベルこそハルトに劣るものの、ルインは多彩な魔法を使いこなすことができた。そうはいっても、あの妖精には、この世界の中級魔道士程度とはいわれたが。しかし、このように上手く使えば敵を完封することも可能なのだ。悪くは無い。


「容赦ないな、お前は。まあ、こいつらに情けなんていらないか……何っ?」


 剣を振り下ろそうとして、ハルトは固まった。

 よく見ると、いやよく見なくても、そこに魔物の姿は無く、20代くらいの人間の男性である。


「ベルナルド!」


 さっきの彼女が男性に駆け寄る。


「どういうことだ?」

「さぁ……でもレストリツィオーネで落下した後、もう男の人になってたよ」


 そうこうしている間に、どうやら、男性に意識が戻ったようだったので、2人は、彼と彼女に尋ねることにした。


「私たちはこの近くの村のものなのですが、近くを通りかかった商人風の方に、綺麗な石を、もらったんです」

「石……だと?」

「そこに転がっているその石です」


 男が傍らを指さした。

 そこには紫色に輝く石が落ちていた。


「ハルト、これって……」

「その石をじーっと眺めているうちに、なんだか、隣にいるアンナ、ああ、こいつ私の女房なんですが、そのこいつがとても美味しそうに見えて……そこまでは覚えているんですが、そこからの記憶がなくて……」

「読めたぞ」

「えっ!?ハルトどういうこと」


 尋ねるルインを「少し黙っていろ」と制して、ハルトは続けた。


「ちなみにベルナルドとやら、お前達の村はメンティローサというのか?」

「いえ、ラベルダー村といいます」

「やはりそうか、ちなみに、村の他のものもその石を受け取っていたか?」

「綺麗な石ですから、それはもうみんな喜んで」


 パリン。

 ハルトが傍らに落ちていた紫色の石を剣で砕いた。

 

「囲まれているな。おい、その2人に守りの魔法を」

「えっ、うん、わかった」


 ルインは、急いで手の平を2人の男女に向けてかざし、神の守りデフェンサの魔法を唱えた。


「倒してはいけないというのがやっかいだな……」


 ハルトはそう言って唇を噛んだ。

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