クエスト発生

「聖騎士……見習の方ですかな?」


 ここは教会。

 神父と思しき人物に2人は今、聖騎士見習の札を見せて話を聞いていた。


「ああ、どこから見てもそうだろう」

「ハルト、流石にそれは無理があるよ」


 2人で旅を続ける中で、何度か聖騎士にあったことはある。


 いずれも、全身を覆う、輝くプレートアーマーを纏っていたり、深い紫色のローブに身をつつんで高そうな宝石がその先についたワンドを手にしていたりと、ゴージャス感がひと周り、いや何周りも自分達とは違っていた。


「余計なつっこみをいれるんじゃない、お前は。神父よ、とにかく『願いをかなえる石』とやらの情報をよこせ」

「ハルト。なんだか、その言い方ならずモノっぽいよ。神父様、この者のご無礼何卒お許しください」

「いえいえお気になさらず。私はどなたにも、ただ神に仕えるものとしてお話するだけですので……『願いをかなえる石』とはおそらく、ヘマ・デセーオのことでしょう」

「ヘマ・デセーオだと?」

「最近、この教会の最高司祭に就任されたフランシスコ様がお配りになられている石です」

「何と、ここでもらえるのか!?話が早いな」

「そうですね……ただしそれなりの功徳を成し遂げたとフランシスコ様が認められた方でないと、お会いになることすらないでしょう。何しろこの私すらも、めったにお目通りすることができない、最高司祭様ですので」

「ええっ!?どうしたらいいんですか?」


 どうやら教会も上下関係の厳しい組織のようだ。

 いや、教会だからこそ、とも言えるのかもしれない。


「そうですね……それではこうしてはどうでしょうか?最近郊外の村、メンティローサの近くで魔物が出没するといいます。かの魔物を退治することを以て功徳となされては?」

「ふん……いいだろう、それで呪いが解けるならば安いものだ」


 いつもどおり、ルインが異をとなえる隙もあたえず、勝手に決めてしまう。ルインはため息をつきながら言うのだった。


「わかったよ、ハルト。どこまでだって、ついてってやるから」


 その後、2人は教会を辞すると、宿屋探しと情報収集を兼ねて酒場へ向かった。


「ヴィノデリシオーソへようこそ」


 女性の店員が注文をとりにきた。


「ハモン・セラーノとエビのアヒージョとマッシュルームの鉄板焼きと、それから、それから……」

「いつもながらよく食べるな、お前は。いったいその、やせっぽちのどこに栄養がいってるんだ?」

「わかんないよっ、そんなこと。全部魔法に消えてるんじゃない?」

「アッハハ、仲いいんだね、二人とも」


 店員が2人のやりとりを見て、にこやかに笑った。

 彼女の言い方は感じが良いもので、ルインは悪い気はしなかった。


「あ、お姉さん。ちょっとだけいいですか?」

「何?」

「この町について教えてほしいことがあるんですけど……」

「貴方、よく見ると可愛い顔してるわね。いいわ、ちょっと待っててね。もう少しでお店の忙しいピークが過ぎるから」

「は、はい……」


 彼女は一旦2人の前をさがると、店の奥にいった。

 注文を伝えにいったのだろう。

 その後も、せわしなくお客の周りを飛び回っていたが、しばらくすると、先ほど注文した品を持って、2人の前に再度現れた。


「ええっと、たくさん食べるのね。これで、あってる?」

「俺にはもうわからん。ルイン、どうなんだ?」

「ありがとうございます。いただきます」


 それから、2人とも手を合わせると、ガッつくように目の前の品々に手を伸ばす。何と言っても育ち盛りの男子なのだ。


「あはは、いい食べっぷり……それで、聞きたいことって何なの?」

「ヘマ・デセーオってご存じですか?」


 こういうときに、ハルトは無口になる。

 情報収集はもっぱらルインの担当だった。


 ハルトが言うには、役割分担、適材適所とのことだったが、面倒なことを押しつけられているようでならない。


「ああ、あの紫色の石のことね」

「えっ!?み、見たことあるんですか?」

「ちらっとだけだけどね」


 ここから彼女は、ルインに近づくと声のトーンを少し下げた。


「……あんまり大きな声で言えないけど、うちのお店のオーナーがさ、教会に大金包んでもらったみたいでさ……」

「な、なるほど」

「しっかし、貴方、本当に綺麗な顔してるわよね。肌も、まるで女の子みたい。なんだか女の私も、嫉妬しちゃうかも……」

「お、お姉さん?」

「あははは、ちょっといじめ過ぎちゃったかな。ごめんね。それで、それだけなの?聞きたいこと」

「あとは……そうだメンティローサ村ってご存じですか?」

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