封印、解いちゃった?

「いててて……あれ?陽人?」


 見回す。


 どうやら自分は洞窟のようなところにいるらしい。土の匂いがするし、何より壁は土そのものである。

 なぜ、わかるかというと、脇に火のついた蝋燭が立てられていたからだ。そのおかげで辺りは薄暗いながらも、なんとなく様子はうかがえた。誰がつけたのだろう?そんなことを考えながらも、瑠衣は陽人の姿を探した。


 いない。


 よく見ると、壁の一方に道があるようだ。

 瑠衣は他にすることもないので、とりあえず道に沿って歩くことにした。

 どのくらい歩かなければいけないのだろう?

 グルジアにあるという世界で最も深いといわれる洞窟は全長15キロ以上とか、何かでみたような気がする。

 ただ、自分達が落ちたのは所詮学校の裏山の神社のところであり、そこまであるとは思えないし、そう信じたくあるのだが。


 幸運なことに、瑠衣の心配事は杞憂だったらしい。

 いくつか曲がり角を曲がった後、行き止まりだったのだから。

 そして、その行き止まりのところに、陽人はいた。


「よう、遅かったな。待ちくたびれたぞ」

「陽人?何だか嫌な予感しかしないんだけど……」


 2人の目の前には、祭壇のようなものが設えられており、そこには何か棒のようなものが2本突き立てられていた。


「丁度2本、俺とお前に抜けっていってるようなもんだよな。俺右利きだから右側いっとくんで、お前左な」


 そんなことを軽く言う。


 確かに自分は左利きだ。

 でも、そういう問題ではないと思う。

 けれど、反対してもきっと陽人は剣を抜いてしまうだろう。

 それなら、一緒に抜いてみせるのが友だちとしての自分の役目……なのかな。


 そんな葛藤を続けている瑠衣に対し、陽人はいきなり瑠衣の近くに寄ってくると、彼の手をいきなりつかんだ。


「は、陽人っ?!」


 様々な可能性を考慮し、なぜかパニックになって瑠衣がドギマギしている間に、手に剣のつかを握らされる。


「は、ハハッ、で、ですよねー」


 気がつくと陽人も、もう配置についているようだ。


「いいか、1、2の3の3で抜くんだぞ。抜かなかったら許さないからな」

「わ、わかったよ……」

「しかし、男的にそそるよな。騎士王になっちゃうかもしれないぞ俺たち」

「もういいから早く抜こうよ」

「よし、1、2の」

「3!」


 その瞬間、あたりを目映い光が覆った。

 そう、2人が同時に抜いた剣それぞれが発光していた。


 陽人の剣は、赤くたぎる、まるで炎のようなオーラを発していた。

 対して瑠衣の剣は、青白く静かに輝く、水面のようなオーラ。


「は、陽人……これって」

「ははは、聖剣っていうやつか、これ。たぎるぜ、コンチクショウ」


 手に持つ剣の不思議さのあまり、少々怯えている瑠衣に対し、逆に興奮を押さえ切れなさそうな陽人。

 そんな対照的な2人に対し、語りかけてくるものがあった。


「抜いて……しまったのですね……」


 2人とも顔をあげて声のしたほうを見る。

 そこには、背中に羽の生えた、白いドレスを着た小さな女性が浮かんでいた。


「ば、化け物か?この刀のさびにしてやる」

「待ちなよ、陽人。どうみても妖精さんだよ。どっちかっていうときっとイイもん側。それにこれ刀じゃなくて剣、だよ」


 陽人の女房役を自認している瑠衣はこんなときもツッコミを忘れない。ちょっと細かいが。


 瑠衣の言うところの、その妖精は2人のそんな様子を気にかけることもなく、冷静な表情のまま、語りを続けた。


「その2つの剣は、太陽の剣ティソーナと月の剣コラーダです。」

「ティソーナ?確かに太陽の剣、か……」


 陽人は自分の剣の放つ炎を見て納得しているようだった。


「こっちは月の剣てことだね。静かで綺麗な光だし」


 落ち着くことに成功した瑠衣は、あらためて手に持つ剣を眺める。

 その光は不思議なことに、瑠衣の心をさらに穏やかなものにするようだった。


「その二振ふたふりの剣は、いずれもとある聖騎士が所有していたものです。しかし、彼は、呪いによって、引き裂かれてしまいました」

「何と、それはおだやかじゃないな」

「……」

「それがあなたたちです」

「そうか俺たちか……何!?」

「ええっ!?」


 さらりという妖精。


 流石の陽人も意表をつかれたようで、絶句している。

 瑠衣は普段から陽人に慣らされているせいか、どういうことなんだろう?と若干の余裕はあるものの、困惑していることに変わりはなかった。

 そして、やはり先ほどと同様、そんな2人を気にもとめず、妖精は続けた。


「あなたたちは、魂の片割れ同士、聖騎士見習のハルトとルインとして妖魔と戦わなくてはなりません」

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