第15走者 理不尽な者

15

理不尽という言葉の意味を知っている方はたくさんいるだろう。


だが、本当に理不尽な状況にあった方は一体いくらほどいるのだろうか?


ちょっと周りより待遇が低いとか何故か私だけ怒られるとか色々あるだろうがそんなものは恐らく自分の態度や日頃の行いのせいなので今は理不尽とは呼ばない。


例えば、女湯を除いた2人がその行為がバレてリンチをくらったとする。


しかし何故か次の日になると覗かれた2人は片方のお世話をするメイドになり、もう1人にはゴミとほぼ同等の待遇をする場合のことだと思う。


つまりは今の俺だ。


状況はほぼ分かってくれたと思うが、もう少し丁寧にいうと。


昨日覚悟を決め登りきったのだが、体がボロボロになったので明日は休みなさいと言われオフをもらった。


そして次の日の朝を迎え、小森コーチと保険ちゃんのメイドが朝ごはんを持ってきてくれるのだと思い待っていたのだが時計の針が11をさしても来なかった。


まあ、言ってないからなと思い昼ごはんの時に保険ちゃんを見かけたので夜ご飯を運んで欲しいと行ったら。


何故私が覗き犯に奉仕をしなければならないんですかと一蹴された。


そして今、枕を濡らしている。



「えーでは皆さん今日は合宿最終日です。各々頑張ってください。解散。」


毎回思うのだがこの集合に意味はあるのだろうか?3日目で言うことがなくなって、体育会のPTAの人が言うようなこと言っちゃてるし。


まあ、頑張るのだが。


しかし、今日俺は何をするのだろう?


いつも通り国見と社はビーチフラッグをするらしいし、英吾は休んでるし、理科は昨日から始めたスーパー体幹特訓と言うものをしているらしい。


皆はもう向かっているのに俺だけやることも伝えられていないのだ。


「なあ、小森コーチ今日は何をするんだ?」


しかしその言葉に返事は無い。無視されたのではなくいないのだ。


つまり俺は一人でただ立っているだけのやつということになっている。


「えっ?何で誰もいないの?」


正直孤独で死にそう(思ってないけど)。


「一人じゃ無いぞー。」


あれ?天使の声が聞こえる。死ぬのかな。


「りゅーたちがいるぞ!」


え?


龍?


天使じゃなくて?


やだな。


それだとドラゴン◯GTの最終回みたいでは無いか。


「おーい聞こえるかー。」


ああ、何でだろうこの言葉にDan Dan心惹かれている。


「おーい。死んだかー?」


死ぬのは嫌だな。永遠を手に入れたいな。


パンッ。


「痛っ!なんだ?果てない闇から飛び出したのか?」


「何を行っているんだお前は?全く。何故お前は人がトイレに行っている間に放心状態になっているんだ?」


「いやそれが、子供の声が聞こえましてね。多分天使の声だと思うんですけど…。」


「そら子供の声はするだろ。子供がいるんだから。」


なんだと?


いつの間に子供ができたのだろうか?まさか、この合宿中にあの執事の人達と…


「な訳あるか。心で言ってたと思われる声が漏れてるぞ。」


「ありゃま。じゃあこの子供の声は?」


「俺だー。」


カクッ。


「へ?」


急に足の感覚がなくなった。されたことないけど切り取られたような気分だ。


「こら貴様ら。膝カックンはしたらいけないとさっき言っただろうが。次したら殺す。」


この教師は殺すとか死ねとか簡単に言うけどどうかと思う。


しかし、膝カックンなんて6年ぶりくらいなので警戒なんてするわけもないので、簡単に倒れてしまった。


まあ、そのおかげで犯人とその仲間たちを見ることができたのだが。


ぶっちゃけ途中で見えていたが子供をからかおうとしていたら、やられてしまった。


どこも痛くないので半殺しで許そうと思う。


そして起き上がりながら名前を聞いた。


一番右の俺に膝カックンをしてきたと思われる元気そうなのが初めに答えた。


「僕の名前は龍(りゅう)です。よろしくお願いします。」


その次に龍の左の女の子が答えた。四人いるが紅一点である。


「命(めい)です。よろしくね。」


そしてその左の先ほどの二人と比べると少し大人びていると言うか落ち着いている雰囲気の子が答えた。


「生(せい)です。先程は龍がすみませんでした。」


さっきから少し思っていたが、全体的に行儀がいい。膝カックンはしたが自己紹介はちゃんとしているし、基本礼儀も正しい。(命はタメ語だったが)


ちゃんとした教育を受けていると言う証拠で良いことである。


最後に、いままでの子と比べると、というか人類全体と比べても暗くと言われそうな子が最後に自己紹介をした。


「…虎(とら)です…。」


「さて、名前がわかったところですぐに特訓を始めるぞ。」


ついに、始まるのか。合宿最終日の特訓が!


「よし、まずはラジオ体操だ。」


準備運動は大事だよね。



はあ、やる気が出ない。


ちなみにだが、最初の方の俺に時間が戻ったわけではない。ちゃんと合宿最終日だ。


何故やる気が出ないのかというと指示された特訓が鬼ごっこだったからである。


あのチビ四人を捕まえろと言われたのだ。


正直、小森コーチは俺のことを舐めていると思う。


いくら森の中がありで走りずらい環境とは言え小4(目測)に負けるはずがないではないか。


さっさと全員捕まえて自主練でもした方が良さそうだ。


おっ!


早速一人見つけた。山の中なので葉っぱなどで足音が聞こえてしまうため動かずに隠れていると思ったのだが、ビンゴだった。木の上や大きい木の裏などを重点的に探したのが良かった。


しかし、足音が聞こえるのはこちらも同じ。つまりここで俺が取るべき行動は足音が聞こえててもどうしようもない速さで捕まえることだ。


ダッ!


たしかに今の俺は全盛期ほど速くないし、足場も歩くて全然速くはないがそれでもあのガキどもよりは速い。


あちらもこちらに気づいたが遅い。ちなみに龍だった。


後7秒ほどで捕まえられるだろう。


が、横に曲がったことにより、こちらが減速してしまった。


その後も曲がったり坂を登ったり下ったりを繰り返していたら見失ってしまった。


曲がるたびに減速をしてしまったが、龍はしていなかったようにも見えるほど滑らかに曲がっていた。



結局午前中捕まえられたのは命だけだった。


「クッソー、なんで私だけ捕まっちゃうのー。」


昼食をとっていると、隣の隣くらいの机で命が叫んでいた。


「どうだ?あいつら面白いだろ。」


「面白いというのはよく分かりませんけど、走り慣れてると言うよりは山の中で動き慣れているそんな感じでしたね。」


「そうだな、あいつらは今小学4年生なんだが。」


よし当たった。


「約6年4歳くらいの時からあの山の中を走り回っていたらしい。体格差で速度は勝っているが、走り方や技術は明らかにお前より上。正直勝つ確率はほぼ無い。」


なんとまあはっきりくっきり言う人かな。しかし、それは俺が肌で感じたことだから特に文句も愚痴も無い。


「でも、一つ勝つかもしれないとしたら、全身走法だな。」


「その心は?」


「まっすぐ前に進む筋肉と曲がる筋肉は使うものが異なってくるため急には曲がれない。だが、まっすぐ走っている時に曲がる筋肉を待機させておけば使いたい時に使える。つまり、行きたい方向に進むために必要な筋肉を常に使用し、方向転換による減速をなくせば勝てるかもな。」


なるほど。というか、途中からそうじゃないかなあと思い試しに一回やった結果、命を捕まえられたのだ。


「まあ、なんとかやってみるよ。」


「なんだ、やる気になったのか?最初はやる気なかったのに。」


「どーせ、これにも意味があんだろ?全身走法の応用みたいな。仮になかったとしても、俺がその意味を見つけた。意味のなさそうな所から意味を見つけるのも悪くないかなと思うようになりましてね。」


「えらく変わったな。前と比べると。」


「そうですね。あの時は意味があるものの意味を無くそうとしてましたからね。」



まずは深呼吸。


呼吸を整える事からだ。そして視野を広くする。


「よし、これであとは…」


全身走法可能走行距離10km


このくらいでまずは探そう。見つけ次第可能走行距離を減らしていけば全員捕まえられるだろう。


約5kmと言ったところだろうか、それくらい進んでやっと1人見つけた。


あれは確か生だったと思う。


走りながらはあまり慣れていないが、時間が惜しいしおそらくバレている。


可能走行距離5km。


これくらいなら距離を詰められるだろう。


生は午前中と同じ曲がることによって距離を開かせようとしているが、さっきとは違い曲がる時に生じる減速などの無駄はほぼ消している。


あとは純粋な速さ勝負。


しかし、それでも上り下りに関していえば少し減速してしまう。それでも午前中と比べればかなりマシになっているはずなのだが、上り下りによって体力を奪われてしまっている。


それによりまだ1km程なのだが2kmほどの体力を奪われている。残りの体力は3km分それで差を埋めるのは少しきついだろう。


生は少し開けた道に出た、山道のような一本道、ここなら一気に捕まえることができる。


可能走行距離1km


一気に近づいた、もう少しで捕まえられるだろう。


しかし、ここで生は左に急カーブをした。


俺はもう少しで捕まえられそうと言う慢心と体力の限界で全身走法が乱れていた。また、道も見ていなかったので、左に曲がることができなかった。


急ブレーキのように止まることはできたが、スピードが落ちてしまった。


だが、ここで諦めるわけにもいかない。


おそらく持って50m程だろうが行けると思う。


可能走行距離400m


本番は100mで行きたいが体力がないのでこれが今の俺のマックス。


「とっどっけーーーーー。」


獣のような声で俺は叫んでいた。


ポンッ。


約60m予想より10mも先で俺は2人目を捕まえた。



「なあなあ、リューたち暇だったんだけど?なあ、虎?」


「僕はあんまり走るの得意じゃないから暇でも…よかったけど…」


俺は生を捕まえるのに体力を使い果たし、生に小森コーチと矗さんを呼んでもらった。


あまりいい形ではないかもしれないが、走り方のコツは掴んだし確実に速くなっているので結果オーライということで、俺の合宿は終わった。

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