第13走者 夢(ロマン)を追いかける者

13


出来た。


出来てしまった。


確かにセンスがあれば1時間でできるとは言ってたのでこの俺が約2時間で出来てもおかしい話では無いのだろうが、小森コーチは約1ヶ月かかったらしいので少し睨んでいた。


「なんで出来んだよ。才能ですか?あーあシラケちゃったなあー。一人で勝手に全国に行けよ、シッシ。」

そんな事を言いながら初めて成功した時は一番嬉しがっていたと言うのに。


だがかなりかかると予想された全身走法をすぐに身につけられたのはでかい。確かに難しかったが、全力走法の応用だったのでずっと全力走法をしていた俺としては大して難しくはなかったのでそれも功を奏した。


「では、三木様。この後は、ひたすらベンチプレスでもしておいてください。」


なんつった?ベンチプレス?しておいてください?何故敬語が消えたんだ?いやそんな事はどうでもいい。


「何故ペンチプレスをしにゃならんのだ。」


「それはもちろん上半身の筋力を上げる為ですよ。午前に上半身で立つ感覚を覚えて午後は全身走法がすぐ出来たんだからもうやる事は最初の目的の上半身の力を上げる事くらいしかありませんからね。」


もしかしてだが、矗さんも俺が2時間で出来たことに対して何かしら思っているのだろうか?


だとしたら、とんだ執事である。公私混同ではないか。


だが、練習に関していえば現状断る理由は無いので従う事にする。



「初日の練習はこれにて終わります。」


7:00ぐらいになったら、はじめ集まった場所にまた集まって今日の練習の終わりを告げる集まりがあった。

別に大した事はなかった、明日の始まりの時間と風呂の時間と夕食の時間くらいのものだったのだが俺は一つ納得のいかないことがあった。


「なあ、来我さん。自主練もダメなのか?」


俺は明日一日中オフを告げられたのだ。3日しか無い貴重な合宿を丸々1日休めと言うのは流石に辛い。たった1日だが確実にレベルアップしているし、全身走法を体に叩き込みたいのだ。


「別にベンチプレスや走り込みなどは勝ってにしていただいて結構ですよ。ただ、どちらも1人でされなければ問題はありません。ただ、明日は休んだ方が良いとは思いますよ。」


思いがけず自主練の許可が出たので明日は保険ちゃんにでも手伝ってもらいながら全身走法の復習でもしよう。


「あのー、三木先輩。「あの事」で少しお話が…。」


まるで、殺人現場を見られた相手にでもするような話し方で理科が話してきた。


「今夜だ。」


俺は理科の方を見ずそれだけ言うと理科もはいとしか言わずそのまま何事もなかったかのように英吾の下へ行った。


そう今夜はこの合宿でとても大事な「アレ」が行はれるのである。当然、社、国見、理科、英吾、そして俺のフルメンバーでのビックイベントである。理科から聞いた英吾も国見の下へ行き理科は社のところへ行った。そして2人から聞いた2人の反応は対照的で社はほくそ笑み国見は少し顔を赤らめて走って部屋へ向かっていった。


そんな事はさておき、風呂が一つしかないと言うので男女でどちらが先に入るかで少しだけ討論が行はれたのだ。女性陣をさきに入れる流れで進めていたのだが、途中で理科のアホが「残り湯を飲むぞー。」などと言う心に留めきれなかった思いが爆発し、小声ではあったが距離が近く聞かれてしまったのだ。


この容疑者の供述に対して俺はキモいとは思はない、少し俺も思っていた、というか楽しみにしていたのだ。


だからキモいとは思わないが、内心女性陣より殺意は沸いている。


そしてこの発言により女性陣が後に入る流れになったのだが、ここで思わぬ助け舟が来たのだった。


「すいません…お風呂って男女…どちらが先に…入るんですか?砂浜で走ってたから…ドロドロで…。」


国見である。一見大したことのない言葉だしここままでは何も変わらないと思っていたにだが、この何気ない言葉を理科容疑者は最強の一手に変えることになるのだ。


「男が先だよ、僕もドロドロだから早く入りたくなっちゃった。社先輩も砂浜だからドロドロですよね。早く入りましょう。」


この時点では俺は理科の行動に気がつくことができていなかった。だから、俺は理科は諦めたのだと思い失望していた。


ランナーとしてはまだまだではあるが漢としては尊敬に値するくらいの欲望の塊だったというのに。

俺は信じていたのだエロの可能性を人と人を繋げうる万国で通じる最強の繋がりだと思っていたのだ。だが、奴は裏切った。故に失望をしていた、この状況がもうすでに俺達の勝利が決まっているこの状況に気がつくまでは。


「あの、私たち先に入ろうと思います。ごめんなさい。」


「悪いな、30分ほどで出るからさ待ってくれ。」


どういうことだろう、状況が変わっただけではなく2人は何か怯えていたではないか。何があったのだろう?


「ふっふっふ。僕たちの勝ちですね、先輩。」


まさか、この男がこの状況を変えたというのか?

「理科、お前何をしたんだよ。」


理科が何かをしたかもしれないというのは半信半疑だった。ただ不敵に笑っているやばい奴という可能性もまだ捨てきれない。だが、この状況で何かしでかすことができたのは奴しかいない。社と英吾はほぼ喋ってないし国見も来ただけである。消去法で理科しか残らないのだが、何をしたかはわからない。


「僕はずっと見ていたんですよ。保険ちゃんの顔を。」


ほぼ犯罪者みたいな事を急に言いやがった。


「僕の言葉を聞いて引いた顔の保険ちゃんもそそられましたが、その後の国見の『ドロドロ』発言の時の保険ちゃんの顔が印象的でしてね。」


なるほど、大体は掴めた。つまり理科は僕らの後でもいいけどドロドロだよ、と間接的に伝えていたという事だったのか。やはりこいつは、尊敬する漢だぜ。


「これで時間は約30分ほど稼ぎましたね。首尾よく効率よく済ましますよ。」


そう俺たちにはこの合宿でどうしてもなさなければならない事があるのだ。そしてそれをなす為にはクリアしなければならない条件が3つほどあったのだがそれも全てクリアしている、後は『覗くだけだ』。


条件1:公共の場所ではない事。


当然だが、普通の温泉では通報されて終わってしまう。しかし、今回我らがいるのはご存知何処かにある社家の別荘である。よってクリア。


条件2:ターゲットが小森コーチと保険ちゃんだけに止める事。


他の人を除いてしまうとジョークじゃ済まなくなってしまうためである。ただ、前述の通りここは社家の別荘なのでこれもクリア。


条件3:女子の後に男子が入る事。


これは除き自体には関係ないのだが、理科たっての希望で追加された条件である。これがあることによって女子の残り湯に疲ることができるため異論はなかった。


そして発案者直々の説得により一時期は危うかったが大逆転し全ての条件を満たすことに成功したのである。


「あの…本当にするんですか?」


「「「当たり前だろうが!」」」


この土壇場になって日和やがって。そんな事を言いながらもちゃんと脱衣所から出た事を確認して報告しにきているではないか。自分の心に嘘をついているのではないだろうか?


そういうのが一番ストレスになってしまうのだ、こうゆう時にストレスを解消してやるのも先輩の務めというものだろう。


「国見いいか確かに覗くという行為は犯罪だ。でもな、法に勝つ事それができればどんな強豪校にもまけないと思うんだ。だって法より強い奴なんていないだろ。抜き去ってやろうぜ法とか言うノロマをよ。」


「はい!俺…間違ってました…物事を一つの面でしかみれてなかった…。すみません…俺覗きます!」


…うん。単純というか簡単というか…バカなんだろうな。


「皆さん僕らにはもう時間がないんです、早くしますよ。」


病気で死にそうな奴らが終盤の大詰めで言うセリフをただの覗きで聞くことになるとは思わなかったが、今は突っ込むような状況ではないのだ!そう、シリアスな場面なのである。


※訂正シリアスな→シリがアル


まず俺たちは機動隊と別働隊に別れた。


機動隊は俺、理科、英吾そして国見の4人。つまりは社以外、だが社の仕事は俺しか知らないのだ。


社の仕事は相当のリスクが生じる上にこの家のことを理解していないといけない為社が適任ということになったのだ。というか、自分で僕しかできないと言い張って誰にもその概要を伝えずにどっかへ行ってしまったのだ。たまたま、俺は奴のしようとしていることに気づいた為真実にたどり着いたのだが、一応理科達には知らないということで通している。


というか、まだ知らせないほうが良いと俺も思ったからだ。


「皆さんここからは細心の注意を払って下さいね。」


ちなみに今俺たちは別荘の裏側にいる。なぜかと言うと、裏側に露天風呂がついているからである。一旦正面から出てぐるりと周り裏まで全速力で来たのだがここからは足音一つ許されない。


厳しい世界なのである。


当然、格好は闇に溶け込みやすいように黒で固めてある。黒タイツ、黒靴下、黒靴、黒マスクである。


さらに目出し帽をかぶると言う提案もあったのだが、眼鏡がかけずらいと言う英吾からの意見により却下となった。


流石に俺たちも高解像度での覗きをする権利を奪うほど鬼ではない。


そこからは、順調だった。事前に社から聞いていたルートを通り覗きスポットへたどり着いた。


覗き穴を発見したのだが、4人全員が観れるような穴はでかいのですぐばれてしまうため1人しか見ることはできない。


こう言う時よくあるのは、全員が同時に見ようとして壁が壊れたりバレたりすると行った愚鈍な行為がアニメなどではよく見る。


しかし、俺たちにそんなミスはありえない。なぜなら俺たちには最強の参謀がいるからである。


「ではみなさん。1人ずつ順番に見ますよ。」


そう、俺たちは事前に見る順番を決めていたのである。大したことではないと言う方もおそらくいるかもしれない、だがこんな簡単な事を性欲の荒波の中冷静に考えることができるだろうか?


否である。


やはりこの漢、中川理科は天才なのだと痛感する。


そして、天才参謀のおかげで何一つ問題なく覗くことに成功していた。


そう、普通の温泉なら完全だったのだ。だが、俺たちは忘れていた。ここは場所さえ秘密の屋敷だと言う事を…。


いやー、眼福、眼福。俺はじゃんけんで負け4番目だったのだがもう見れさえすれば順番など関係ないのだと心の底から思う。


想定内どうりの胸だった。保険ちゃんも小森コーチも小さい頃にいっしょにお風呂に入ったことがあるが、2人とも変わらずx=1の関数だった。


トントン。


二回は終わりの合図である。3回なら緊急事態。


しかし、もう終わりかと思うととても寂しくなってしまう、至福の時間というのは流れる時間が早いものである。


振り向くとそこには、来我さんが居た。


「ゲームオーバーです。」


オタワ…。


つい、オワタがカナダの首都になってしまうくらいやばいと感じている。

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