第10走者 泊まりゆく者

10


「合宿じゃー。」

「五月蝿いですよ三木先輩。こんな人通りの多いところで、しかも朝ですよ。」


「悪い悪い、テンションが上がってしまって。」


6月:通常は祝日のない憂鬱な月。だが、うちの学校は創立記念日があるので休みがあるのだ。しかも3連休!ラッキー。


その3連休を使って合宿に行こうと集合時間に遅れている社が言い始めたのだ。



「みんな今度の休み合宿しないか?」


唐突すぎて誰も反応できなかった。


「いいねー。合宿しよう合宿。」


俺を除いて。


なぜって?そりゃもちろん合宿といえば部活系アニメではないものは無いというくらいのビックイベントだしそのためにいるような金持ちキャラが絶対部活系アニメにはいるではないか。そんな神イベントに反応しないわけがない。


「ちょっと待って下さい。合宿って急すぎませんか?それにどこでするんですか?」


全くこれだから素人は、こうゆう時におそらく英吾や国見あたりが「持ってますよ別荘、使ってないやつなのでどうですか?」とかいうんだよ。全く理科には困ったものだ。


「英吾言ってやれ、僕の別荘使って下さいって。」


「いや、持ってませんよ。うちは普通の家ですから。」


ありゃ、外れた。


「じゃあ、国見お前が言ってやれ。」


「…俺もないです。」


ウソーン。じゃあできないじゃん。


「数人何言ってんだバグったか?場所は僕の家の別荘だよ。」


そういやこいつ医者の息子だった。どうしてくれるのだ。みんなのキャラが薄くなるではないか。


「急なのはわかってるでも…お願い。」


「ダメというわけじゃないですよ。やめてください僕が悪者みたいじゃないですか。」



「なあ、駅前に6:00集合であってるよな?」


「はいそうですよ。てゆうか今6:01ですよ。そのセリフ7:00のセリフです。全く先輩楽しみなのはわかりますが、1分くらい待ちましょうよ。」


「馬鹿者。俺たちは0.1秒を争ってんだぞ。時間にはもっとちゃんとするべきなんだよ。」


「それはそうですが…」


こんなやり取りを横目に英吾と国見は意外と楽しそうに話していた。何気に仲良いんだなあいつら。


そうこうしていると来た、リムジンが。


「僕、リムジンを生で初めて見たかもしれません。」


「おおー。」


流石の国見も驚いている。


「ごめん渋滞しててさ遅れちゃった。」


パリピが来やがった。アロハシャツで。


なめやがってこうゆう時は後輩は無理なので同級生の俺がちゃんと怒るべきなのだ。


「おい社!」


ガチャ。運転席から誰か出てきた。スーツに丸メガネ白ひげに白髪。これはまさか。


「今回運転を勤めさせていただきます金比羅ノ森 来我(こんぴらのもり らいが)です。」

「よろしくお願いします。」


負けた。圧というか色々に負けた。名前かな?


「先輩。」


「「何?」」


「あっ、運転手さんに物怖じした方でなくて社先輩です。」


バレてた。はずい。


「ん?何?」


「僕らってこのリムジンで行くんですか?」


「いや、違うよ。駅前の駐車場に停めてあるキャンピングカーで行くよ。」


金持ちすげー。



キャンピングカーメチャデカイ。もう言葉が片言になるくらい。


「2階にベットが3個あって1階にベットとソファがるから自由に使ってね。あとテレビは1階にしかないから気をつけてね。」


テレビでか。うちにあるのよりでかいわ。なにこれこれが車?ここに住みたいわ。


「おい理科、正直落ち着かなくないか?」


「はい、先輩もそうでしたか。だって見ました?駐車場。社家専用って書いてありましたよ。」


「それ見たわー。つーかなんで英吾と国見は平気なの?」


「そうですか?国見君はさっきから全く動いていないので結構緊張しているんじゃないでしょうか。」


「たしかに。でも英吾はポテチ食べてんぞ。小森コーチに殺されんじゃね?」


「お菓子解禁したそうですよ。リバウンドしたらまたダメになるかもですけど。でも、正直僕はここでは食べたくないです。汚したら殺されそう。」


もう限界だ、なんで車の中がペルシャ絨毯なんだよ。


「社!」


「ん?なに。」


音楽を聴いていたのかイヤホンを外して答える。


「俺寝る。」


逃げよう。


「あっ!じゃあ僕も。」


「だったら僕も上がって寝ようかな。英吾と国見は下でいい?」


「はい、良いですよ。」


「……は…い…。」


なんだろ国見への親近感がすごい。



「おーい。数人、着いたぞー。」


すっかり寝てしまったらしい。ベット気持ちよかったー。マジで住みたい。


「今何時?」


「9:00かな?」


3時間も寝ていたのか、それなのに体が言うこと聞かないベットから離れない。


「ダメだ。もう俺はここまでだ2人共俺を置いて先に行け。」


「ベットから出たくないだけですよね先輩さっさと出てください。」


「理科、君もベットから出てないから説得力ないぞ。全く2人共仕方がないなあ、君たちを起こす呪文を唱えてあげよう。」


なにを言っているのだろう?並大抵のことじゃ俺たちは動かないというのに。


「実はさあ、小森コーチも予定がついて午後から来るらしいよ。」


そんなもので動くと思ったのかこのたわけは、くだらない。


「あと、家の別荘風呂一つしかないから〈ジョセイノノコリユニツカレルヨ〉。」


なんだとー。だが


「べっべつに、そんなの興味ないね。子供の頃は一緒に入ったことだってあるし。」


これは嘘。


ちなみに理科の上半身は起きている(息子も)。何気にスケベだよな。


「露天風呂だから〈ノゾクノタヤスイ〉。」


「うがぁっ。」


今のは強烈な攻撃だ。死ぬ所だった(起きる所)。


「…合法…的に覗…ける?」


理科が壊れた!合法じゃねーよ。イカれすぎだろ。


「じゃあこれで最後…」


ふん、なにが来ようと耐えてやる。


「この車、合宿間の三日間地下のガレージにずっと入れっぱなしだよ。」


起きた。すぐ起きた。



外に出ると国見が柔軟体操をしていた。3時間ずっと不動だったのか?


「皆さまようこそおいでなさいました。貴重品の方はお預けになりましたか?」


「ん?」


声の方を見ると来我さんみたいな感じの人がいた。


「そういえば忘れてたわ。みんな貴重品と位置のわかるものは全部さっきのバスの中に入れといてね。」


「えっ?貴重品はわかるけど、位置のわかるものってどうゆこと?コンパスとかもってこと?」


「はい、さようでございます。この別荘の場所がバレないためにご協力お願いします。」


「バショガバレナイヨウニ?」


「ごめんね、お客にそんなことさせちゃって。みんなにはそんな心配はいらないって言ってんのに、頭固くて。」


うん、なんだろ。怒るとか不快とかそれ以前にというか、無。感情が出てこない。差がありすぎるとこうなるのか。


とりあえずみんな預けた。というか俺に関してはケータイも財布も持っていないので預けるものもなかったのだが。


「先程は失礼しました。あまり説明もなしにあの様な事を…てっきりぼっちゃまが話していると思いまして。」


「いや、全然気にしなくていいですよ。はい。」


「そうだよ、僕が言ってないのが悪かったんだから。」


「そうですか。では、気を取り直して自己紹介をさせていただきます。」


目力が強いなあ。


「私、水神龍ノ心 矗(みなかみりゅうのこころ のぶ)と申します。」


ミナカミリュウノココロノブ?は?


「芸名ですか?」


「いえ、本名です。たまにそう言われる方と出会いますがそんなに珍しいでしょうか?」


「そうですね。一人じゃないでしょうか?」


「僕はかっこいいと思いますけどね。」


英吾急にどうした?かっこいいとかそんなんじゃ測れないなにか、そんな名前でしょうよ。


「失礼ですがお名前は?」


「え?俺?」


「はい。」


「三木数人です。」


「三木様ですね。では三木様一つ訂正をお願いできますか?」


「なにをでしょうか?」


「小学校の頃同姓同名の方がいらっしゃったので一人ではありません。」


それは、ドッペルゲンガーだと思う。



屋敷に入ってがもうシャンデリアとかじゃ驚かないぞとか思ってたら、エレベーターがあった。これは驚かせて。


一人一部屋は予想してたので驚かなかった。ただその後のこのフロアは自由にしていいからという一人一フロア宣告も驚かせて。


そして、ついに始まる合宿訓練。



外に着替えて集合と言われたので行くと三人の爺さんがいた。


そのほかのみんなはまだらしい。


2人はさっきであった来我さんと矗さんなのだが、もう一人同系列の人がいるのだ。どうせえげつない名前なのだろうとか思っていると皆んなが一緒に来た。


「では皆様お集まりの様なので始めさせていただきます。」


矗正さんが話し始めた。というか話すまでマジで自動だにしてなかったな。


「この合宿では個人の苦手分野を伸ばすのではなく、必要な能力を伸ばす訓練をします。」


必要な能力?


「まあ、話してもその力は伸びないのですぐに入りたいと思います。」


「ちょい待ち、俺らに必要な能力ってなによ?」


「それに気づくのも含めて訓練です。」


「なんだそりゃ?」


「では、早速メンバーを分けます。猫垣様中川様は金比羅ノ森と国見様坊っちゃまは宇宙ノ光ノ軌跡(そらのひかりのきせき)と…」


「いや、まてーい。来るかなとは思ったよでもさまた凄いのが来たね。名前なんだった?」


「はい、宇宙ノ光ノ軌跡 忠臣(そらのひかりのきせき ただおみ)と申します。」


「うん。あなたは恐らく国内で一番長いんじゃないかな?」


「いえ、同級生に無限ノ彼方ノ先 文十郎(むげんのかなたのさき もんじゅうろう)という方がおりましてその方の方が3文字ほど長いはずです。」


「そっか。」


もう知らん。何処にあるの?その学校は。


「宜しいでしょうか?えーそして最後に私と三木様です。では3組での訓練を始めてください。」



「では、猫垣様中川様はこちらを使って能力を上げてもらいます。」


「「はい。」」



「国見様と坊っちゃまは私と少し遊びますか。」


「「はい。」」


「頑張ろうぜ国見。」


「…はい…。……なんで海なし県に海が…。」


「なんか言った?」


「…いえ。…ここは…何処なんだ?」



「では、三木様この重りを持ってこのプールを歩き回ってください。といっても適当ではなくちゃんと淵を回ってください。5分経ったら逆回りです。」


「はい!」


こうして合宿が始まった。

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