第8走者 気付く者
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いじめー肉体的、精神的に自分より弱いものを、暴力やいやがらせなどによって苦しめること。特に、昭和60年(1985)ごろから陰湿化した校内暴力をさすことが多い。
「まさか、理科がいじめられているとはな。いつ知った?」
「最近国見が僕に言って来たんだよ。」
「で?どうすんだよ?」
チーム戦なので1人の失敗は全員が受ける損失なのでこういう精神的な問題は早めに取り除いたほうがいい。
「いや、何もしないよ。」
「は?何だとテメー。」
「聞こえなかったか?僕は何もしない。何かしたいならどうぞご自由に。」
「ああ、勝手にさせてもらうよ。」
俺はそう言って、部室を出た。その時の扉の音は誰もいない校庭に響き渡っていた。
しかし、俺はこの後あんな音なんて比べものにならないような音が校庭に響き渡っていた事を知る事は無い。
〜
いつも通り起きいつも通り電車に乗りいつも通り校門を通りいつも通り靴箱に向かいいつも通り靴を脱ぎいつも通り上靴は無くいつも通り椅子のない机に荷物を置きいつも通り机の中のゴミを取り出しいつも通り授業を受けいつも通り昼休みを迎えいつも通りみんなの昼ご飯を買いに行きいつも通り放課後になりいつも通り部活に勤しむ。
〜
しかし、どうすれば良いのだろう。
威勢のいい啖呵を切ったは良いが、理科が誰にいじめられていてなぜいじめられているのかを俺は知らないのだ。
「まあ、情報収集をすべきだろうな。」
そんな事を考えているとうちの学校の1年の制服を着た2人組の生徒を見かけた。(学年でネクタイの色が違う。1年青2年赤3年緑)
「ねえねえ君達ちょっと時間いいかな?」
「ハイなんでしょう?」
「君達ってうちの学校の1年で間違いない?」
「はいそうですよ。」
ではコイツらから聞き始めるとするか。
〜
最近忘れ物が増えた。時間割変更の対応ができていないのだ。
何故か僕は時間割変更を知ることができない。いや、僕が忘れているだけなのだが、周りにいる子に聞いても皆黒板に書いてあったと言っている。そのせいで全教科持ってくるという荒技に出たのだが進学校の教科は多く登校だけで体力がなくなってしまうのでやめた。そして同時期位から部活にも身が入らなくなってしまった。
〜
10人ほどの一年から話を聞いたが、全員口を揃えてウザいと言っていた。いや、厳密に言えば隠して言ってはいたのだが突き詰めてしまえばウザいが一番的を得ているだろう。
理科がいじめられている理由は明確にこれというものがあった、普通いじめには大した理由がないことが多いのだがあった。
『部活に行っているくせに成績が常に一位』これだけである。
そして、俺は国見に理科の学校生活の調査をさせた。
〜
先生に呼ばれた。なんだろう?早くみんなの昼ごはんを買いに行かなければいけないのに。
「猫垣くん最近忘れ物が多すぎませんか?」
「すみません。変更のチェックを怠ってしまって。」
「君の成績はとても良い、でもねテストと普段の態度から成績は決まるの。君が調子に乗っているとは思わないけれど気が抜けすぎだよ。」
「すみませんでした。」
しかし、僕は早く買いに行かないと起こられちゃうのでみんなの昼食のことしか考えていなかった。
〜
ジムでの練習1日目
今日からジムでトレーニングできる事になった。本当は6月11日からだったのだが小森コーチが外せない用事が入ってしまったと言う名のジムの人が完全に忘れていたので今日からである。
ちなみに英吾は小森コーチとの秘密特訓の為、理科は歯医者が入ってしまったらしく遅れるらしい。
「おしお前ら、ビシバシ鍛えるから覚悟しとけよ!」
このおっさんは剛力 剛(ごうりき つよし)俺は生まれてこの方この男を超えるほどの名は体を表す者に会ったことがない。
「まずは、runだ。」
どこ発音良くしてんだよ。
ランいやrunとはそのまま走る事だジムなのでランニングマシーンの上で走る事だ、そうただ走る事いわばアップである。それなのに…
「なんで俺だけ重り背負ってダンベル持ちながらなの?オッサン?」
「おっさんとよぶなーーーーーーーーーー。さっきも言っただろう?つよポンと呼べ!」
「やだわ!なんだそのつよポンってあんた鏡見た事ねーのか!その見た目ならゴリさんだろ!」
「おい、ガキここはゆとり教育とちゃうぞ表出ろやバラバラにしたるわ。」
「やってみろよ、逆にバラバラにしてやんよ」
「はいはい、2人ともストップつよポンも僕らはゆとり教育じゃないかね。」
いや、社どこ指摘してんの?
「そうなんか!」
「はい。」
なぜあの2人は会話できるのだ?
「あの、剛さんは先輩の全力走法を知っているのではないでしょうか?」
そういえば1年が2人いないので忘れていたがこいついたんだった。
「気づいてるに決まってんだろう。」
「そうでしたか。ですぎた真似でした。」
「いやいや、構わないよ。むしろ気になった事があったらどんどん言ってくれ。」
「はい。」
「うむ。さて、国見どうだった?」
流石に何がですかなんて聞かなかった。
「そうですね。結論から言うと、噂通りいじめられています。」
「やはりな。ん?噂ってなんだ?」
俺は国見に理科のことを噂なんて表現はしていないはずだが?
「ああ、実は1年の間でもいじめられてる奴がいるって噂があってまさか理科とは思いませんでしたが。」
「そうか、というかお前いじめられているか知らなかったってそんなに分かりづらくしていたのか?」
普通男のするいじめは誰でも分かるようなものだ。故に犯人の特定がしやすい。逆に女子は見られないところで巧妙にするので気づくのにも遅れるし犯人の特定も難しい。つまり理科は女子からいじめられているという事か?
「いえ、実は俺はあまり人と話すのが得意でなくて、ずっと1人でいたら情報に乗り遅れていました。」
なんだそういう事か、クラスが一緒ならば国見も分かっただろうが違うので仕方がない。
「少し話が逸れたな。で、どうだったんだ?」
「そうですね…」
〜
歯医者という言葉を辞書で引いて欲しい、そこには歯を直してくれる人みたいなことが書いてあるだろう。
なぜだろうかというとちゃんと調べたことはないので推測になってしまっているのだがそこはご愛嬌。
そんなことはどうでもいい、大事なのはそこにパシリなんて単語はないという事だ。
僕は、クラスメイトに『ヨルノヒカリ』というお店の列に並ばさせられていた。
『ヨルノヒカリ』というのは18:00から始まる夜専門の文房具店で今とても人気のお店なのだが、いかんせん夜限定のお店なので先生達の目も厳しく20:00以降に居ると指導される。部活に入っていなければ余裕なのではと思ったかもしれないが、ぼくらの学校は19:30まで補充授業や自習教室がありこれは部活のないものはほぼ強制なのだ。
しかし、文房具が欲しい者はどうするか?
僕に買わせに行くのだ。
今までに20回以上買った気がする、おんなじのを。
そのせいで今日から始まるジム特訓は初日から遅刻となってしまった。
先輩達には18:30には行くと言ったので怒られはしないが、今は少しでも記録を伸ばしたいので早く行きたい。
〜
「つまり国見、お前の見解だと理科はいじめられている事に気付いていないということか?」
そんなことあるだろうか?普通靴が無ければいじめを確信はしなくても頭によぎる物なのではないだろうか?
「そうですね、おそらく気づいていません。というか、自分はみんなの為に働いているんだという気持ちの方が大きそうですね。」
「あいつ、mなのか?」
「かもしれませんね。」
気づいていない、想定外すぎる。これでは綿密に考えた人生まだまだ始まったばかりじゃないか説得が意味をなさないではないか!
そんなことを考えていると時計の短い針が6と7の間に来て長い針が6のところに来た。
「国見そろそろあいつが来るかもしれないからこの話題は一旦後な。」
「はい。」
〜
想定外が一つあった 思っていたより「ヨルノヒカリ」とジムが近かったのだ。故に半につくと思っていたが15分には着きそうである。
18分に着いた早く着いたので少し安心しているが信号に引っかかりすぎた全部引っかかった。
「さて行きますかね。」
階段を上がりドアを静かに開けたが誰もいなかった中にある地図を見るとここは受付と更衣室だけでトレーニングは二階らしい。
23分ほどになって着替え終わり上へ上がる事にした。この時受付に人がいなかったので適当にあったロッカーに荷物を入れ着替えたがこれで良かったのだろうか。
ちなみに、この場所はジムではなく元ジムなのだ。この時期だけ特別に使わせてもらっている。
2階のドアを開けると何やら先輩の声が聞こえた。
〜
「遅れてすみません。」
後ろから声がしたので振り向いたが、理科だった。ドアを開ける音が聞こえなかったので少し驚いてしまった。
「いやいや、今から挽回してくれたら問題ないよ。」
「それはしんどいですね。あっ!そうだ下にあるロッカー勝手に使いましたけど大丈夫ですかね?」
「いっぱいあるやつか?」
「はいそうです。緑の。」
「それなら構わないぞ、いくらでも使え。ただ、奥のピンクのは使うなよ。」
「女子用という事ですか?でもここって僕らしかいないんじゃないでしたっけ?」
「小森コーチ用だ。覗きたいならご自由に。今日はいないけどな。」
「覗きませんよ。」
それから、ゴリさんが来て俺の隣で理科も走る事になった。俺より少しスピードが速かった。
「ゴリさん俺も速くしていいか?」
「次その名で呼んだら殺す。」
「へいへい。」
「いいかお前はスピードより体力なんだよ、スピードは体力さえありゃお前は伸びるんだよ。だから今は体力用なんだよ。」
「ほいほい。」
適当に返事をしたが、俺のことをちゃんと考えた上での事で、それがこの筋骨隆々のおっさんからがしたというのが驚きである。脳筋っぽいのに。
それから一時間ほど誰も口を開く事なくひたすら走っていた。
沈黙そんな言葉の似合う俺らではなかったのだが、自然と誰も話さなかった。俺はさっきのことで理科に話しかけるのが少し気まずいというのもあるのだが。
そんな空気を壊したのは意外にも理科だった。
「毎日上靴が無いのって変ですかね?」
「えっ?」
とっさのことで、反応出来なかった。
「毎日椅子が他のクラスにあるのって変ですかね?毎日机の中にゴミがあるのは変ですかね?毎日みんなの昼食を買いに行かされるのは変ですかね?僕っていじめられているんですかね?」
一言一言が重く聞いている方も言っている方も涙が自然と溢れてきたなんなら最後の言葉に関して言えば、『ぼぶっべびびべばべべぶんべぶばべー』だった。
理科はさっきの国見との会話を聞いていたんだろう。そして、同時に理解した今日もまた誰かにパシリをさせられて遅れたのだと。国見の方を一瞬向くと音楽を聴いており理科の言葉は聞こえていないみたいだった。つまり、俺がこの場でこいつを猫垣を理科を慰めなければいけないのだいや、真実を告げなければならないのだ。
「どうしてそう思った?さっきに会話を聞いていたからか?」
「はい。でもそれは最後の一押しでした。ずっと思ってはいたんですよ。なんでみんなは昼食を僕に買わせるのかなぁと。」
「そうか。そうだな理科がどう思っているのかは知らないが、はたから見ると100人中100人がいじめと答えるだろうな。」
俺に何の権利があって、そもそも言う必要なんてあったのだろうか?それでも俺は真実を理科がいじめられているという事を言わずにはいられなかった。
「僕はこれからどうしたらいいですかね?」
「そうだなぁ。」
どう答えるのが正解なのだろうか?俺たちがいるよとかみんなとも話し合えばお前のことわかってくれるよなんて無責任かつなんの根拠もない下らない妄言をはけばいいのだろうか。
「部活に来いよ。」
偽善者ぶんなよなんて言葉を聞くが、今の俺では偽善者にもなれないだろう。こんな言葉では。
しかし、思いのほか理科の返事は良かったそれこそ今までで一番いいくらいには。
〜
いつも通り起きいつも通り電車に乗りいつも通り校門を通りいつも通り靴箱に向かいいつも通り靴を脱ぎいつも通り上靴は無くいつも通り椅子のない机に荷物を置きいつも通り机の中のゴミを取り出しいつも通り授業を受けいつも通り昼休みを迎えいつも通りみんなの昼ご飯を買いに行きいつも通り放課後になった、しかし今日は少しだけいつもと違うことがあった。
「おいおい、今日も学年一位は自習をサボりかよ。ただ走るだけに熱くなってばかじゃねーの?」
「おい。」
「あ?」
「それの何が悪い?」
その時の目は煽ってきた奴なんて見えていないただゴールだけをいや、その先を見据えたランナーの目だった。
そして、いつも通り僕は部活に勤しむ。
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