第5走者 伝え行く者
5
まずいこのままでは、彼を陸止部に入れる事は出来ないではないか。
何がダメなのだろう。
体育の授業中にずっと走ることの素晴らしさを語った事は、確実に彼の心に響いたのは間違いない。それに私の書いた足を怪我した少女が走るために努力する小説も涙を流しながら読んだに違いない。では何故部活に入らないのだろう?なんなら最近は私の話にも2つ返事で「や」くらいしか言わない。どうすればいいのだろう?
〜
あの人は何がしたいのだろう?
いや、したい事はわかるのだがやっていることが意味不明なのだ。
走りについて語ってきたこともあったが、卓球の時間に話されても仕方ないだろう。
小説は見ずに捨てた。
こんなにアホみたいなことばかりされているのに周りの人間はそれに対して制裁と言う名の嫌がらせをしてきやがる。
まあ、今まで勉強しかしていないような奴らなので脅迫文くらいしかないので構わないのだが、賢いが故に工夫された文を書いて来やがる。たまに暗号化されているので、意外と楽しみにしている自分もいるのでほっといている。
〜
ダメだもう万策が尽きた…。私の力ではもう無理だ。あの人の力を借りるしかない。
〜
分からない今日の謎が難しい、と言うかもう殺害予告関係なしにただ盲点クイズを渡してくるやつが現れて来た。
10◇2
Q.◇に入ることの出来る文字を答えよ
何だこれは?数列にしては短すぎるし、11かと思えば◇には一つしか入らない。難しい。
〜
「お邪魔します。」
「あらいらっしゃい。久しぶりだね明美ちゃん。」
「お久しぶりです。秋子さん。」
私は最後の手段として、秋子さんに力を借りることにした。
「本当に久しぶりねー、なん年ぶり?」
「弥生さんが亡くなってからですから4年くらいかと…。」
「もう四年か。早いねー。」
表情には出さないものの明らかに声のトーンや目線は苦しさを物語っている。
「でもびっくりしたよ。あなたが私を頼るだなんて。珍しいこともあるもんだねー。」
「そんな事はないです、ずっとあなたに助けられっぱなしです。」
自分で言って自分で少し恥ずかしくなった。私はまだこの人に助けてもらわないといけないのかと。
「うーんとねー、そうじゃなくて今までは私のお節介みたいなことばかりだったでしょ?」
「いえ、そんな事は。」
「そうだったの。でも今回はあなたが自分から私を頼りに来てくれた。私はそれがとても嬉しいの。」
危うく涙が出るところだった。
〜
分からない。全然わかんない。
とは言うが、少しずつ分かって来てもいる。
まず、
・四角に入る文字から数字ではないのかと予測される。
・事の出来ると言うところから答えは複数あるのではないだろうか。
何か見えて来た気もするが、ここで俺の思考は止まる。
何故なら、奴が来たからだ。
「数人君セラ●ッパ●ー。」
「ニャ●パ●ー。」
普通なら、は?となってしまうがこれは僕らなりの挨拶なのだ。
「何この問題?」
「盲点クイズだよ。これが難しくてね。」
「へーちょっと僕にも見して。」
以外にも食いついて来た。何というか、リア充は「そんなのいいから週末のキャンプの予定立ててくれた?」
みたいな感じだと思っていたのでこの反応は意外だった。
「分かった!」
なぬ?
「それは誠か?」
「誠じゃ。」
以外にも乗ってくれた。
「どうするんだ?」
「教えなーい。こんなの簡単だよ、友達に聞いてみな皆分かるって言うから。」
「友達いないの知って言っているのだとしたら、相当悪質だぞ。」
「ごめんごめん、じゃあこうしよう。」
そうして社は俺にこんな提案をして来た。
・正解すれば二度と部勧誘はしない。
・しかし、不正解なら入ってもらう。
・解かずに放置してもいいけど、今の生活が続く。
「いいのか?この提案には、お前のメリットが少なくないか?」
「そんな事も無いよ。ちなみにギブアップもOKだからね。」
〜
先輩に線香をあげた後私はすぐに本題に入った。
「なるほど、彼を陸上部に入れたいと言う事だね。」
「いえ陸止部です。」
「え?」
「ですから陸止部です。陸に止めるで陸止。」
「そうなんだ。そっか…。」
この時の私には変な名前に呆れているのだと思っていた。
「そんな事より、彼を陸止部に入れる方法だよね。」
何故か慌てているような気がした。そんな秋子さんは珍しかった。いつもは語尾に伸ばし棒がつくような(実際についているが)おっとりとした人なので、何かあるのかと思ったが効くのは野暮かと思い何も聞かなかった。
「はい、どうしたらいいでしょうか?」
「そうだね、まずは何でまた走らせたいのかな?」
「それは、私は彼はまだ走るべき人間だと思うからです。私は最近彼と再会しました、その時私はひったくりにあってしまいました。まあ、当たり前ですけど私の方が早いのですぐ捕まえましたが…。」
「あらあら、そのひったくりさんも災難でしたねー。」
「しかし、その時彼は私よりも早く動いていました。最速の記録を持っている人間とは思えないような、ショボい走り方でした。でも、彼は踏み出したのです。私はもう自分では走らないプロには戻らないと決めていたので、教師に道を選んで完全に決別しました。それと同様にまた彼も走る事から背を向けました。私も流石に完全に走らない事はできなかったので彼は本当に走りの世界から出て戻らないのだとずっと思っていました。そんな彼が私の為に走った。その時に私は思いました。彼はまだ走る事に完全に背を向けられていないと。」
全て話す必要があると思い話したが、もう少し要約できた気もするような文章だった。
「ありがとね。こんなに数人のことを思っている人がいるなんてね。」
彼女のその目には涙が溜まっていた。姉の葬式でさえ数人や私の為にと泣かなかったその目に。
「一つだけ私に考えがあるよ。それでダメだったらもう数人の事は諦めてくれないかな?」
「そんなに凄い方法なのですか?」
「ううん。全然すごく無いよ、でもそれがダメなら絶対に他の方法であろうと無理。」
「分かりました。その方法を最後にします。」
「ありがとう。じゃあこっちに来て。」
そこはさっき線香をあげた場所だった。
「確かここに…」
秋子さんは、先輩の隣のタンスの中から箱を出した。またその箱から一冊のノートを出した。
《走り行く全ての人たちへNo.1》
ノートの表紙にはこう書いてあった。
「これは?」
「お姉ちゃんが学生の時に書いたものだよ。私もこれを読んで高校生の時陸上部に入ったの。」
「えっ!秋子さん陸上部だったんですか!」
「うん、でも全然勝てなかったけどね。それでもこれを読むと頑張れたの。だからこれは私の宝物。これでダメなら無理だと思う。私はこれより彼の心にを動かせるであろうものを私は知らない。」
「分かりました。大切に使わせてもらます。」
「うん。頑張ってね。」
「あの、私も読んでいいですか?」
「数人の後なら幾らでもどうぞ、でも数人より先には読まないで。ごめんねわがままで。」
「いえ、そんな事は…。」
少し空気が重くなったが、そこからはいつも通りの秋子さんになって二人でだべっていた。もうしばらくすると、秋子さんが買い物に行くと言うのでそこでお開きになった。
〜
昼食を食べながらも俺はずっと謎を考えていた。
分からない。
少し頭を休めようと思いココアを飲もうとした時ある事に気がつく。
「今日は小森プロいないんだな。」
「当たり前だろ。なんなら僕以外いないよ。」
何を言っているのだ、そんなわけがないと思いつつも周りを見ると俺しかいなかった。
「どうしたんだ?そんなに今日の学食はうまいのか?」
「何をバカなことを言いているのだい、バカすぎて何故今日君が学校にいるのかも忘れてしまったのか?」
何故いるか?それは哲学かとも思ったがおそらく違うだろう。冷静に思い出すと、今日は日曜日ということを思い出した。
「そうか、今日は日曜日だからか!間違えて来てしまったのか。さて帰るか。」
「待て待て、違うだろうが。」
「え?今日は日曜日だろ?」
「ああそうだよ、でも君は成績が悪くて補習になったのだろう。」
そう言えばそうだった。あの謎のことを考えすぎて忘れていた。
「全く、補習に来て補習のことを忘れるってどうしたらできるんだよ。」
ガチの呆れた声だった。
「まあまあ、思い出したからいいじゃないか。そんな事よりヒント教えてくれないか?」
「ダメだ、ヒント無しで答えなければ意味がない。」
『ピンポンパンポンー。えー2ー3三木数人君至急職員室に。何かしていることがあったら全て投げ捨てて来るように、2ー3三木数人至急職員室に。』
「なんだ今の無茶苦茶な放送は!」
「声から察するに小森さんじゃなかったか?」
「あの人なら無茶苦茶でもありえると思ってしまう。」
しかし、良かった何もしてなくて。
〜
学校に着いた。本当なら今日は休みなのだが、補習を受けているらしい彼の元にこのノートを渡す為に来た。
放送をする時に少しユーモラスにしようとして少しボケたら近くにいた薄墨(うすずみ)先生に注意された。
「失礼します、小森先生何の用でしょうか?」
「君に渡したいものがあって、わざわざ休みの日に学校に来たよ。」
「どんんだけ恩着せがましいんだよ。渡したいものってなんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。」
「そりゃ聞くだろ。」
「これだよ。」
そう言って私はノートを取り出して渡した。
「なにこれ?」
「弥生さんの書いたノート。これを読んで欲しい、それだけ。じゃあまた明日。」
〜
母さんが書いたノートそんなものが存在していることを俺は初めて知った。おそらくこれは、秋子さんから借りたものなのだろう。つまり秋子さんはこのノートを俺に隠していた事になる。何故なのかは分からないが、正直今はこのノートへの興味が優っている。
一人で読みたい、そう思った。だから、社のいる教室ではなくKさんの前で読む事にした。
基本的に内容はいろんな人の特徴や改善点などが書かれていた。おそらくこれは母さんのチームのノートなのだろう。
そんな中ある一人の人の所が目に付いた。
《汐田くん(しおたくん)に走りを楽しんでもらうために。》
・全身で風を感じてもらう
・カッコいい靴をあげる
・少しゆっくり走って人を抜く優越感を感じてもらう。
・可愛い陸上選手のポスターを部屋に飾る(星田(ほした)選手がおそらくタイプ)
・ユニファームをカッコよく!!(私の希望も少しある)
Etc
「なんだよこれ、つーかetcって絶対これ以上思いつかなかっただけだろそれに、最後のは100%私の希望だろ。」
大した事は書いていない、それでも昔自分もこんなことを言われたことを思い出した。風を感じろ!どっかで聞いたような言葉をずっと言っていたことを思い出した。
関係ないが、この汐田という奴星田選手がタイプとは分かっているではないか。
星田選手というのは20年ほど前の選手で短髪で茶髪(栗色の方が近い)そしてまな板ほぼ180度、俺のタイプだったが20年前の人なのでもう40くらいの人なので流石に恋などはしないが、その子供がいるのだがそっくりでムッチャ可愛い。
昔はその子に会うために頑張って走っていたのだが、彼氏がいると知ってからはなんとも思わなくなった。一晩だけ枕を濡らしただけだ。
話が逸れたので元に戻すが、何故秋子さんは俺にこのノートを渡そうと思ったのだろう?
よく分からないまま。閉じようとした時一枚の紙が出て来た。
〜
あいつ遅いな、マジで進級やばくなったのかな?
その時扉が開いた。
「遅かったな、なんだったの?」
「ちょっとな。そんなことより問題の答えなんだが。」
「おっ!わかったの?」
「いや、分からんかった。ギブアップ答えおせーて。」
こうして、俺の陸止部としての高校生活が始まった。
〜
《迷ったら走れ!》
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