第4走者 生き行く者

4


ここに来るといつも彼女との出会いを思い出す。


思えば最悪とも言える出会いだった。私はあの頃走る事と風読 翼 のことしか考えていなかったので他の人間なんて興味がなかった。


あの後私は彼女と練習をした。そして、全国7位まで上り詰めた。オリンピックに出る話もあったのだが結局私は彼女の死を理由に引退をした。


一応持っていた教員免許が役に立ち仕事には困らなかった。


ちなみに私がこれから務めるのは超成績の良い子しかいない学校である。


特段入試が難しい訳ではないのに賢い子がたくさんいるという学校である(私立)。


そこはたまたま彼女との思い出のベンチの近くだった。


そして、そこで彼と出会った。


私は直感的に彼を陸上の世界へ入れるのが私の使命なのではないかと思った。


別の日また彼に出会った。少し説教みたいな事を言ってしまったが、気を悪くしてないといいが。


私は別に嫌われてもいいでも彼を陸上に戻すことさえできたなら。



「おい、何だこれは?」


「見たらわかるだろ、弁当だよ。」


昼休みになると社の奴が俺に机に来て一緒に飯を食おうと言って来た。本当にそれだけならいいのだが、確実に目的は違うので御免被りたいものである。


「悪いな今日は購買の気分なんだ。」


「残念今日は購買は臨時休業だ。それに、机から弁当袋の紐が垂れてるぞ。」


まったく、変な所には敏感というか良く見ているというか。


「部活の話はしないからな。」


そう言って、最悪の昼休みが始まった。


いや別に社が永遠に部勧誘して来るとかではないのだ、何ならこいつは一言もそんな事を言っていない(何しに来たんだ?)。話もつまらない訳じゃないお互い好きなアニメがあったのでその会話をするのは楽しかった。廊下からの殺気を感じるまでは。


お互い自分の推しに対して一歩も譲らなかった。あいつもいいとこあるよねなんて言うのは侮辱以外何者でもなかった。故に少し暴言が出た。言ったその直後、廊下の方から凄くとてつもない殺気を感じた。

あとで分かった事だがいつも社と一緒にご飯を食べている女子生徒らしい(5〜6人)のだが、その全員からの殺気だった。そこからは一挙一動全てに配慮を配り時間を過ごした。


正直生きた心地がしなかった。


奴の意見に肯定すれば、「お前ごときが共感すんなや。」とちいさな声で囁かれ、否定すると当然、「嘘でもはいって言えや。」と普段清楚なイメージの標準語を話している子に言われるのである×5〜6。


そうして地獄の20分が終わった。いや、終わらされた。放送がかかり全校集会をするらしいのだ。


いつもそんな事はしないしあっても放送で済ますなどの対応なのに不思議に思っていたが、正直今の俺には助け舟でしかないのでいつもは聞き流している校長の話も今日は全部聞いてやろう。


体育館に行く途中当然隣に社がいたので、地獄はあまり変わらなかった気がするがそれでも、集会が始まればクラスが違うので一安心だ。


「なあ、なんで朝にしなかったんだろうな。」


「そりゃあれだろ、1年がいなかったからじゃねーの。」


「なんでいないんだよ。俺だって朝苦手なのに頑張ってきているというのに。」


この言葉を俺が言えば、「じゃあくんなや。」と言われるのだろう。この世理不尽…グス……。

案の定、後ろではかわいそうとか大丈夫かなとか言っている。理不尽………グス。


しかもこいつは朝は苦手じゃないのだ。なぜなら、毎朝5:00に俺のケータイに起きてる?とかいう電話をかけて来るのだ。


こいつは、俺の彼女か何かなのか?しかも、最後に必ず陸止に入らないか?と聞いて来るのだ。正直辛い。



体育館についた。ただそれだけの事なのに、心の底から喜びが込み上げて来る。


前述通り俺は、校長の話をちゃんと全て聞いた。覚えて話ないが、イイ話だったのだろう。何故なら皆目に涙を浮かべているからだ。


そして、遂に今日体育館に呼ばれた理由が明らかになる。


「新しい先生が来ます。今日はその紹介も兼ねて皆さんに集まっていただきました。」


まあ何となく分かっていたそれは、ちょうど1ヶ月前に体育の先生が辞めたので補充が有るのではと思っていたが案の定だった。早すぎる気もするが、たまたますぐ見つかったのだろう。


「えー。こんにちは、今日から皆さんの体育の授業を受け持ちます。小森 明美です。よろしくお願いします。」


その言葉が私学に似つかわないとても元気な声だったのはどうでもいい。問題は小森 明美と同姓同名、同じ顔、同じ声の人が来た事だ。



いやー、しかし偶然というもには驚かされるよなー。


この前も自販機でジュース買ったら違うの出て来てイラついた直後にあたりの音が聞こえたから許してやるかと思ったらまた違うの出て来たり。


昔の知り合いと同姓同名しかも同じ顔の人に会うなんて…。そんでもって陸止部の顧問も始めて、俺を説得しに来るとは…。


あの偽小森が来てから約1週間が経った。


毎日手紙が靴箱に入っているし、昼食も3人で食べている(いままではぼっち)。いやーこれがリア充か……

地獄じゃねーか(泣)。


手紙も内容は部勧誘最初の方は文章だったのに4回目くらいから『入れ』としか書かれなくなった。昼食も前に最悪の昼休みと言った事があったがあんなのちょっと嫌な昼休みだった。


最近は災厄の昼休みを過ごしている。


まず、メンバーを紹介する。


《勇者》社 会助 『異能力 女子を連れて来る』異能レベル99


《戦士》偽小森 明美 『異能力 マシンガン部勧誘』異能レベル99


《荷物持ち》三木 数人 『異能力 ロンリネスランチ(孤独なる昼食)』異能レベル999999999


レベルから見て次元の違いがあるため、俺にはまるで雄大な原っぱの上で飯を食べているくらいの開放的な孤独空間なのだ。


ちなみに俺の異能力はどの様な状態であっても一人で飯を食べている感覚になれるものだ。


まさか、中学時代に培ったボッチ飯スキルがここで花開くとは(嬉し涙)。


そして会話内容だが、社は前の約束通り部活の話はしてこない。


その代わり、偽小森さんはずっと勧誘してくる。


前述の通り俺は2人の会話は聞いていない、だが完全に無視している訳ではないし、ボーッとしていると会話が勝手に入ってくるので結果的に会話を聞くことになってしまっている。


また、俺にはもう一つの異能力があるそれは《レイジーレスポンス(怠けた返事)》


これはその名の通り適当に返事ができるのだ!


「部活入ってよ」


「や」


「入ってー」


「や」


「あなたには才能があるの」


「や」


「入らないで」


「分かった」


「やーい引っかかってない…。」


物凄い勢いで右肩下がりにテンションが下がっていった。


とまあこんな風に、引っ掛けにも対応しているという完璧なものなのだ!


当然これも、中学時代の陽キャ共との会話を早く終わらせる為に身につけた能力なのだ。


下らない茶番はもういいだろう(2つの能力は本当にある)。


「なあ、偽小森。もう今日限りで来ないでくれ。」


全く入る気のない俺に構うのを辞めて欲しいというのもあるが、先生と生徒が一緒に飯を食べているというのがあまり俺にとっていいものではないし。この偽小森は割とかわいいので、クラスの奴らからの視線がすごく痛いのだ。殺害予告も下駄箱に入っていた。部勧誘を添えて。


『殺害予告〜部勧誘を添えて〜』


自分で考えておいて少し笑ってしまった。


何もないなら俺の異能力でほっておけばいいのだが、実害が出てしまうとこちらとしてもこれ以上嫌な目には会いたくないので、今日彼女に伝えたのだ。


「え?無理。」


即答だった。


「てかさ、まだあんた偽小森とか言ってんの?。あのな、女は化粧で変わるんだよ。覚えておけ。」


そのセリフは自分が可愛いと思ってないと出ない言葉なので、化粧鏡の前で毎回思っているのだろう。


「確かに俺の知っている小森プロとあんたは名前が一緒で身長も声も一緒でもな、俺の知っている小森プロはそんなあんたみたいなネックレスや動きより見た目重視の服は着ない!」


「マジで殴っていい?」


声がマジだった。


「ごめんなさい。」


とりあえず女の子には謝れそれが俺の爺ちゃんの最後の言葉だった。ありがとう爺ちゃんあなたのおかげでこの危機を脱せそうです。


「謝りゃいいってもんじゃねえんだよ。」


クソッ。爺ちゃんの言葉嘘だったのか。だから婆ちゃん死んだ後泣くより前に、高価そうな婆ちゃんの身長には合ってない一回も使った感じにないゴルフバットで爺ちゃんを殴ったのか。


「そんなこと言ったて、小森さん前はジャージ短髪すっぴんだったのに今では、ロングスカート茶髪化粧にピアス。変わりすぎて追いつけねーわ。」


「数人。これイヤリング。」


「知るかっ!」


「それはさておき、おめかしするのは当たり前じゃないか。前は汗をかいて化粧が落ちるからしなかったけど、今は社会人だよ。化粧なんて常識だしジャージなんて論外。分かった?」


「んな事分かってるよ。別に変わったのが嫌な訳じゃない。ただ、前と違いすぎて同じ人だと思えないんだよ。」


「慣れろ。ガキじゃないんだ。黙って慣れろ。」


なんだこの人、雰囲気って言葉知らないのか?


「分かったよ。」


「人の目ー見て話せ。」


「わ、分かったよ。」


自分の顔を見ることは出来ない、それは努力ではどうにもならない事だ。


でも、今自分の顔が赤い事だけはわかった。


「何照れてんだよ、そんなに私可愛かったか?」


「か…いい…よ。」


「えっ?」


「だからかわいいつってんだよ。」


「年上好きなの?」


こいつは本当に空気が読めない。


「別にちげーよ、ただ思っただけだ。」


少し沈黙があった。空気に潰されそうになった。


潰れる間際でチャイムが鳴ったので俺の命は助かった。


「ほいじゃね。あっ社君部活の練習は昨日と同じね。少し会議で遅れるから私が来なくても始めといてね。」


「はい。」


「数人。ありがとね。」


今週一番可愛く見えたその瞬間の言葉は、チャイムでよく聞こえなかった。


ちなみに本当に俺は小森プロの事は好きではない。ただの尊敬する人だ。それに俺はあいつがいるので簡単に他の人に心はあげないようにしている。


が、周りのみんなはそうとは思わず。俺への殺害予告が増えた。


《5種の殺害予告〜季節の部勧誘を添えて〜》

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