第2走者 今を変え行く者

2


次の日学校に行くと、


「やあ、気分はどうだい?」


社が明らかに俺を陸上部(陸止部)に入れようとしてきやがった。


確かに俺は昨日少し走った。だがそれは、俺の血の中にある正義感が走らせたのだという風に言っておくとカッコいいので自分にはそう言い聞かせている。


「陸止部(りくとぶ)のことならお断りだよ。」


明らかな漢字ミスを指摘しつつ、皮肉も込めてそう返した。


「おいおい、あれは陸止部じゃない。陸止部(おかしぶ)だよ。」


「いや、漢字は合っとるんかい!」


つい感情が高ぶり意味不明なイントネーションになってしまった。


「あれは、もともとお菓子を食べながら勉強したいと思った先輩が思いついたギリギリの部活なんだよ。」


「良くそんなのが今まで残っていたな。」


というか、学校でお菓子が食べたいではなく勉強しながら食べたいだと!


「21年の歴史がある。」


「何気にすごい!いや待てめんどくさいからほっておかれただけじゃねーの?」


何故そんなネタ部が21年も続いているのだ。普通の学校ならありそうだが(こんな部ではなく21年続いている部活が)うちの学校は4年続けば長い方という驚異の学校なのである。


先生が言うには、4年に一回野球部があるらしい。オリンピックみたいな野球部なのだ。

そんな中21年というのは凄いのである。


「まあ、今は去年の先輩が居なくなってからは真面目な陸上部になったんだけどね。」

社はそんなにうまくないウインクをしながら言った。


「ネタ部のせいでテンションがおかしくなってしまったが、その陸止部には入らない。」


「気が向くのを待ってるよ。あと一人で部の存続が決まるからね。ネタ部でも21年の伝統は潰したくない。」


とてもカッコいい事を言っていたが、陸止部のためと思うとなんだか同情できないのが不思議である。


さて本でも読むかと思っていたら名前を呼ばれた気がしたので、顔を上げると…。


違った。


何気に恥ずかしい事ランキング5位か6位には入っているのではないだろうか?


だが、あながち大外れというわけでもなかった。女子が社に三木くんとなに話してたの?と聞いていたのだった。


何かで読んだのだが、自分の名前は小さくてもちゃんと聞こえるらしい。


そんな豆知識はさておき、社という奴は女子が話しかけるという天文学的数値の確率で発生するゲリライベントがほぼ毎日行われているのだ。


又、勉強もトップ10をキープ顔もそこそこカッコいい運動神経もおそらくいい(陸上を誘ってくるくらいなので)奴なのである。


要約するとリア充なのである。


関係ないが俺は、勉強は全教科最下位(それでも60は下回っていないみんなが賢いのだ)顔はよく怒ってるの?と聞かれる。走りたくないので走らない(昨日2年ぶりくらいに走った。)


要約するとリア充なのである。(リア充の基準は人それぞれなのであくまで俺は、毎日夕日を見ながら本を読むのが大変充実しており又、友達がいてもいっしょに本を読む事が出来ないから作らないのであって、感想言い合えたりするじゃんとかよく言われるがそもそも読んでなかったりするし自分がそんなに好きでもないジャンルをオススメされても絶対読まないし読んだとしてもちゃんとした感想を言える自信がないしどうせ壊れる友情なら作らないというのも一つの手だと思っているわけであって………以下略…よってリア充であるQED。)


長くなったが要はリア充というところ以外全てが真反対なのであるそんな二人が仲良くなるだなんて誰が思うのだろうか?


実際、あまり仲がいいとは言えないのだがそもそも俺に話す相手がいないので基準がよくわからないのである。


とかなんだか考えていたら、予鈴が聞こえた。ついでにKさんに餌をあげるのを忘れていたのを思い出した。


次の休み時間に餌をあげた後、女子に話しかけられたので遂に本物のリア充になる(今もリア充だが彼女がいるみたいな意味の方)のかと思っていたら、数学のプリントを出せと言われた。(ちなみにやってはいない)


少し泣きそうになりながら宿題をやっていると、次の授業が始まったのでしまった。


なんやかんやで宿題も終わり(自習の授業が1個あった。)昼休みに入った。


入ったところで特にすることも無いし、本でも読んでいると体育の教師が急に実家のお裁縫教室を継ぐと言い出して校長と揉めた結果やめることになったらしい事を小耳にはさんだ。


何というか人の自由だとは思うのだが、あの筋骨隆々のおっさんが裁縫をしている姿を考えるとつい笑ってしまう。


「ふひひひひ。」


「なにきもい感じに笑っているんですか?」


「わっ!」


つい大きな声を出してしまったがそれもそうである。筋骨隆々のおっさんが裁縫しているのを想像してニヒルに笑っていましただなんて言った瞬間に陰キャ確定である。


「いやっそのこれはっえっとその。」


きもい感じにしどろもどろしていると、


「カズくん本当に大丈夫ですか?」


「えっ?ああ、なんだ保健ちゃんかよ驚かせないでくれ。危うく友達ができなくなるところだったじゃないか。」


「何ですかその入学式みたいなセリフは、もう2年生ですよ5月ですよ!」


「うるさい、友達がいない者には毎日が入学式みたいなもんなんだよ。」


「友達いないいないって言いますけどいるじゃないですか。」


「は?」


「私が。」


確かにそうなんだが俺が言っているのは同姓の友達とか同じクラスの友達が欲しいのだが。


確かに保健ちゃんは幼馴染なので話したりはできるがなにぶんクラスが違うので条件に当てはまらない。


「お前以外で欲しいんだよ。」


「ぼっちのくせに欲張りですね。」


「何で最近ちょっと俺に冷たいの?言葉もツンケンしてるし。」


「いえ、実はテレビでぼっちは罵倒されるのが好きと言っていたので。」


どんなテレビだよ。とは思ったが罵倒されるのは嫌いだが幼馴染でも女子と喋れるのは嫌では無いのでこれ以上は何も言わないことにした。


「なんか用なのか?」


「はい、ですがカズくんではなく社さんに会いに来まして。」


「何?まさか保健ちゃんもリア充になってしまったのか!」


少しいやかなり天然の入っている保健ちゃんは、リア充なんて者にはならないと思っていたのに。

まあ、俺もリア充だからどうというわけでもないのだが。


「何か勘違いしていませんか?私が会いに来たのは社さんですが生徒会長の社さんです。」


どういう事だ?俺のクラスに2人も社何ていただろうか?


俺の頭に?マークが付いているのを察したのか。


「少し言い方が悪かったですかね?私が会いに来たのは生徒会長社会助さんです。」


「という事は?」


「何故ここまで言ってわからないのですか?社さんが生徒会長なんですというか会長選挙のとき休んでなかったですよね?」


なんという事だろう奴は生徒会長でリア充でカッコいいだと…。


「何鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるんですか?私もう行きますからね。」


そこからの記憶はあまり覚えていない。何か校長と話した気もするが気のせいだろう。


気づいたら、塾の授業が始まっていた。なんという事だ魂だけが、タイムスリップしたではないか。


9:30に塾が終わった、比較的家から近いので歩いて帰っている。


当然、あの1本道も通るわけなのだが夕日は2、3時間前に沈んでいるので見ることはできない。


だが、ベンチはあるのでそこに座って缶コーヒーを飲むのが火曜日塾の帰りの日課だった。


ちなみに、もう着いているのだが座れずにいる。彼女がいるからである。


「おい、寝転がらないでくれませんか?」


「zzzz(ゼットゼットゼットゼット)。」


「確かに漫画などでそういう書き方はあるが、ゼットゼットゼットゼットとは読まねんだよ。」


「全く、人がせっかくいい気持ちになっているのにそれを邪魔するのかい?」


「女がベンチで寝ていたら危ないだろと言いたいんだよ。」


「そいつは、嬉しいね。でも、そういうカッコいい言葉を言うときは缶コーヒーは隠しときな。」


「ああ。肝に命じておくよ。」


結局座る事は許されなかったので立ちで飲んだ。


「もう、走んないんですか?」


何気ない質問かもしれないでも2人にとっては、恋人と母親どちらが大事?と聞かれるくらいに答えづらく又、答えなどない質問だった。


だがそれでも俺は、昨日の走りを見てそう言わざるを得なかった。それくらいの走りだったのだ。


「それを、あんたが言うのかい?」


「そんなはぐらかし方をされてはもう聞けないじゃないか。」


正直ズルイと思いもしたが、本当にズルイのは自分ということも自覚はしているとつもりだった。


「いや、何も言わないとは言ってない。少し意地悪がしたくなっただけさ。」


なんだか、この人の笑顔は見ていて気持ちよくない。勝手に見てそう思うのは失礼だとは思うがそれでも今の作り笑いは、見ていられないほどだった。


「私がプロになって走る事はもう無い。それはもう決めた事。これからの事も決めてある。」


なんだか箇条書きの文をひたすらにただ読んでいるだけという気がした。


もっと言えば、心がこもっていなかった。


「あんたはどうなんだい『トリプルナイン』?」


「その名前はもう捨てた。使わないでくれ。」


「捨てたのか。」


「ああ。」


「という事は、もう…」


「走って無い。」


小森さんがあえて全てを言わなかったが、それでも今の俺には伝えようと思った。


「だが、俺はあんたとは違い未来もない。」


「未来がない。なるほどね、でもさ過去ならあるでしょう?」


「それは、走れという事か?」


「そういう風に聞こえたのなら、まだ走りたいと少しは思っているんじゃない?」


「どうなんだろうな。自分でもよくわかんねんだよ。」


「でもさ、校長ともそろそろ話し始めているんだろう?」


何を言っているのだろう?いや、言葉自体ではなく何故その事を知っているのだろうか?当然誰にも言ってないし、それどころか自分にだって騙して誤魔化してなかった事の様に行きていたのに何故小森さんは知っているのだ?


「何故知っているのか?みたいな顔をしているね、でもその理由はまた今度だよ。今は君の答えが知りたい。」


俺と校長の間ではある取引がされている。


今からそれを語ろうと思う。


もう気づいている人がほとんどだとは思うが、俺は中学の頃陸上をやっていた。


しかもただやっていた訳ではなく、さっきの名前のとおり9秒99というタイムを出した。しかし、直後に雷が落ち記録が消え参考記録になってしまった。


当然別日にもう一度測り直すという事になったのだが、その日を迎える前に母が亡くなってしまった。

そして俺は走りの世界から逃げるようになった。


母は自分の正義を貫いて死んだという事は分かっているのに、それでも走らなければ母は助かったと思ってしまう。そしてその気持ちがいつしか自分の走りへの恐怖に変わっていた。


走る事で死んでしまうのではないかと体が勝手に止まるようになってしまった。


しかし、そんな事にもなれ最近は恐怖の感情が嫌いという拒絶に変わっていた。


少し話が脱線してしまった。


ここからちゃんと校長との関係を語ろうと思う。


結論から言うと、校長はこの学校の生徒を増やすため俺をこの学校に入れた。


さらに、校長との契約は国内の選手が9秒99より速いタイムを出さなければ、どんなことがあってもうちの学校にい続けさせるというものだ。


要は校長はたまたま俺が9秒99を出した瞬間を見ており、その日のうちに推薦が来た。


しかし、ご存知の通りその後すぐ俺は陸上を辞める。


だから校長に契約の破棄を伝えに言った。しかし、校長はそれでも記録を塗り替えられていない間は君はうちの生徒だと言ってくれた。


今思うと、その言葉が優しさだったのかはわからない。


中2中3の間記録は越されなかったので契約は完全な物になった。


高1の間も大丈夫だったのだが、高2のゴールデンウィーク明け風読という選手の登場によって俺の人生は変わる。


校長は記録を新たに更新すれば当然契約内容も変わるとかいう言葉をかけて来た。


つまり、前より早くなればまだここに入れるよ。という事を最近毎日(2日間だけ)のように言ってくるのだ。


だがしかし、


「俺の答えは変わっていない、もう走りたく無い。」


「それがあんたの答えか。確かに最速のタイムを出すだけの力のある選手が走らないと決めたのは相当悩んだ末に出した答えだと思う。だから、変わらないあなたにどうこう言うつもりもないしそんな資格も無いとは思うでも、人生の先輩から一つアドバイス。」


長い前置きとアドバイスを言うまでのほんの一瞬の息を吸うタイミングなんだか、永遠にさえ感じた。

「過去は絶対に変えられない、でもね未来は思ってる以上にすぐ変わるよ。」


そう言いどこかへ歩いて行った。


その後一人になった後飲んだ缶コーヒーはブラックなのだが一気に飲んでも何も思わなかった。

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