run〜走り行くすべての人へ〜

ハトドケイ

第1走者 今を変えたい者

プロローグ


100mという距離で一体何が出来るのだろうか?


コンビニにもいけないしポストに郵便を届けることもできないだろう。せいぜい頑張って回覧板を回すことくらいだろう。


なのにもかかわらず俺は、この100mが光り輝く道にしか見えない。


俺は特別な人間ではない。


でも、この100mの中では1番であり続けたいのだ。


少年の胸がテープを切った時、辺りは閃光に包まれた。


そして、計測器は9.99のまま壊れていた。


1


唐突ではある事は分かっているつもりだし

誰に言っているのかもよく分からないがあえて言わせてもらおうと思う。


「走りたくない」


いや別に、マラソン大会前というわけでは無い。


ただ単純に走るのが嫌いなのである。


何故かという事を伝えるには、時間が足りないが何も言わないのは流石に暇なので少し語ろうと思う。


まあ考えても見て欲しい、走る事しか出来ないのならば走ろうと思うが、人間には歩くというすべがあるではないか。


何故歩かないのだ。


何故時間をゆっくり感じようと思わないのだろうか?


走る奴らは結局余裕の無いバカどもという事だと俺は思うわけだ。


もう少し語りたい気もするが、学校に着いてしまったので終わろうと思う。


校門から入り少し坂を登りサッカー部の練習を横目に、教室に入る。


正直、この校門から教室までの道はあまり好きじゃない。


何故?おいあんたの記憶力は、ニワトリですか?


小テストやら宿題やらをやってないバカどもが焦って走っているからに決まっている。


「おーい」


全くゆとりが無いから走るはめになるのだ。


「おいおーい」


この俺の様にゆとりを持って生きればいい物を…


「おいおいおいおいおいおいおい おーーーーい」


全く誰なのだ8回もおいとこの俺に言いやがって大した用も無いくせに…


「何の用ですか?」と一応、応えてはみるが


この学校に友達などいないのですぐに本でも読もうと考えてはいるのだが。


「人が何回も読んで少し反応したかな?と思ったら読書ですか?」


何故分かったのだ?


「なんで分かったの?みたいな顔をするな手が本に伸びてんだよ。全く挨拶も一つも無しか友達に」


と先月の始業式でみんなと友達になりますと言ったあと明らかに友達のいなさそうな俺の元へ来たやつだと思い出し友達が一人いた事を思い出した。


「悪い悪い、社(やしろ)何の様だ?」


「全く、人の話を聞かないから友達のいないんだぞ」


「別に友達が欲しいと思ってはいない」


「寂しい事を言うもんだね数人(かずと)は…」


「要件が無いのなら本が読みたいのだが?」


この男、社 会助(あいすけ)はこの俺に唯一話しかけてくる人である。


「いやいや、要件が無いと話しかけてはいけないのかい?」


「そうだよ、本当に何も無いなら本を読むのだが?」


「待て待てあるに決まってるだろ。君のことは大体分かっているのだから。」


「そうかい。」


何となく今の言葉にイラつきながら俺は要件を聞こうと思う。


「実は陸上部のことなんだが…」


「断る。」


「話を最後まで聞いてくれよ。」


「御縁が無かった様で。」


「待て待て席を立つな。」


「悪いな、急にKさん(けーさん)に会たくなってしまってな。」


「本読みたいとか言ってたじゃないか。」


「気が変わった」


ちなみに、Kさんというのはこの学校が飼っている亀のことである。


確か、先生の誰かが飼っていたのが引越しか何かで飼えなくなったとかが理由だった気もするがどうでもいい。


さらに、どうでもいい事かもしれないが、この学校で俺が心を許している唯一の爬虫類である。


よく、餌やりをするのだがパンを食べる姿が可愛いとは思った事は無い。


単純に走らないから好きなのである。


「餌やりをしながらで構わない聞いてもらっていいか?」


懲りない奴だ、しかしこれ以上は面倒くさそうなので相手をしてやろう。


「手短に済ませ。」


この言葉を待っていたかの様に、社は話し始めた。


「なるほど、結論から言おう やだ」


何という事だろう走るのが嫌いと当然こいつにも言っているのだ。


なのにこいつは俺に…


「おい、聞いているのか。陸上部に入ってくれよ。」


こんな馬鹿げた事を言ってきたのだ。


「頼むよ人数が足りないんだよ」


確か、この学校の部活に必要人数は5人だったはずだが、陸上部に5人もいないというのは如何なものだろうか。


「俺じゃなくてもいいだろうが」


「あのなぁ、うちの学校は超進学校、高二の今から部活に入る奴なんていないし、一年で今入ってない奴も入らないに決まってる。」


そういえば、そうだうちは進学校だった。


偏差値も国内トップクラス、確かに部活は全体の3割ほどしか入っていない。


「まあ、そんな反応をするのは分かってはいたんだがね。又、気が変わった部室に来てくれ。」


全く奴にも困ったものだ。


Kさんの餌やりもこんなものでいいだろう。


しかし、水槽が汚い、昼休みにでも綺麗にしてやろう。


「あのー、何をしているのですか?」


ふと、男ではない声が聞こえた。


だれだ?


友達のいない(1人判明したが…)


俺に話しかける人しかも、女子なんて有り得ない。


おそるおそる見ると…。


「何をしているのか答えてください。」


そこには、150前半ほどの身長長い髪の制服を着た女子がいた。


「なんだ、保健ちゃんか。」


知り合いだった。なんなら幼馴染だった。


しかし、2人(恐らく)しかいない知り合いを忘れてしまうは、恐るべしゴールデンウィーク。


「なんだ、カズくんでしたか。」


「ああ、Kさんに餌をやっていたところだ。しかし、幼馴染なのに敬語というのは如何なものなんだ?」


「そうですね、気をつけます。」


満面の笑みで悪気がないのだろうが、その言葉がすでに敬語なので無理だろう。


ちなみに、保健ちゃんというのは当然の事だがあだ名である(命名は俺)。


理由を語ると長くなるが語らせていただきたい。


毎回保健のテストで満点を取るからである。



いや、申し訳ないとは思っている。だが、言ってみたかったのだ。


ちなみについでに言うと、うちの学校は進学校だがある一つの変わったルールがある。


それは、どの教科でも満点を取れば他の教科で何点をとっても構わないというものだ。


当然、ここに副教科も含まれる。


しかし、この学校は超進学校保健といえど半端なく難しい。医者や看護師が受けても、8割というところなのだ。


「なにニヤニヤしているんですか?私の顔に何かついていますか?」


「いやいや、そういう訳じゃない悪い悪い。」


5,6分ほど話したところで予冷が聞こえた気がしたので、そのまま解散ということになった。


そのあと、学校では昼にKさんの水槽を綺麗にした事と購買に新しい味のジュースが売っていたこと、そして風読 翔(かざよみ しょう)とかいう奴が国内初の100mで10秒01という最速タイム出したという俺にとってはまったく関係のない話しかなかった。


重要なことといえば校長に呼ばれたことがあった。しかし、大した話ではなっかたので、忘れてしまったが。


放課後になったが、行きたかった本屋は臨時休業なのでいけないのでまっすぐ帰ることにした。


校舎から校門に行く途中で陸上部らしきものの部室を見つけたが、陸止部と書いてあったので走る気があったとしても入らないことを誓った。


一応俺の家は自転車通学が認められているのだが(距離によっては認められない)歩くのが好きなので歩いている。


約2キロほどの道なので30分ほどで着く。


その途中にある河の隣の1本道がとても好きなのである。


ちなみにあと少しで着く。


入口のような場所につくと、そこには


『ひったくり注意』


こう書かれた看板が立っていた。


1本道でひったくりをするとかありえるのか?とか考えながら歩いていると、背は160前半アスリートのような引き締まった体、短い髪の女の人がひったくってくださいと言わんばかりに道にかばんを置きぼーっと河を見ていた。


別にその女の人が気になったわけではないしひったくられそうですよと言うつもりもない、問題はその女の人がベンチに寝転がっていたということだ。


公園のベンチだったら何も言わなかったのだが、このベンチだと文句を言わざるを得ない。


なぜなら、そこに座って本を読むのが学校がある日の俺の日課なのだ。


あまり知り合い以外に話しかけるのは嫌いなのだが仕方がない。


「あの、申しわけないんだがそこで寝ないでもらってもいいですか?そこに座りたいんだ。」


「ベンチならほかにもあるじゃない他をあたってくれませんかね。」


なんだこの女の人は、確かにこの道には100mごとにベンチがあるが自分が寝たいから100m先か戻れというのは、いささか失礼なのではないだろうか。


「申し訳ないんだが、このベンチじゃないとちゃんと夕日が見えないんでね。」


「あらあら、ガキのくせによくそんなことを知っているね。最近のデートスポットにでもなってるのかい?」


そういって彼女は起き上がった。


「そんなんじゃないが、母が好きな場所だったんだ。」


「おいおい、そのくらいの背格好で母の好きな場所にいたいとかどんだけガキなんだよ。」


「別にいいだろ。」


少しこの時の俺は切れていた。


「まあそんなに怒るな。私も母ではないが大事な人に教えてもっらたんだよ。ちょうどこんな晴れの日にね。そういえばあんた少しその人に似ているね。」


その言葉をすべて聞いた時には、女の人のバックは盗られていた。


「あっ。」


気付いた時には、もう体が動いていた。


2年と少しの間全く走っていなかったが、それでも走っていた。


だが、相手は一本道でひったくりをする様な相手、当然速い。それにブランクによって体力もない俺では間に合わない事も分かっていたが、足を止める気にはならなかった。


「遅くなったね。」


そんな言葉と共に物凄く速くそして美しい影が横を通っていった。


そして、ひったくりに追いついた。


護身術を習っているのか、追いついた時にはもう捕まえていた。


そのあと、俺の口から出てきた言葉はひったくりを捕まえた事への賞賛でもなく、その速さに対する言葉でもなかった。


ただ一言言っていた。


「あんた、小森プロだな。」


「思い出してくれたかい。まあ、もう元だけどね。 『最速のマーチ』の遺産 田島 数人(たじま かずと)」


「今は、叔母の家に預かってもらっている。三木 数人(みき かずと)だ。」


「そうか、しかしさっきの走り方から見るにもう走ってないのかい?」


その言葉に対して、俺は何も言えなかった。


彼女も俺にそれ以上追求しないでくれた。


そのあと、2人で夕日を見た。いつもどうり綺麗な夕日だったが、何故かその日は何も思わなかった。

一応、連絡先を交換して別れた。


「ただいま。秋子さん(あきこさん)。」


「お帰りー。」


人がしんみりとした雰囲気になっていたのを壊す様な気の抜けたお帰りを聞いて少しホッとした様な気がした。


「秋子さんは、小森さんのこと覚えてる?」


「そりゃ、覚えているわよ。明美ちゃん(あけみちゃん)のことでしょ?」


そういえば、そんな名前だったなと思い出しながら。


「そうだよ。」


と、若干無責任に答えた。


「しかし、なんで突然明美ちゃんの事を言い出したの?」


「今日、たまたま会ったんだよ。」


「元気そうだった?」


秋子さんが明美さんの事を気になるのは理由がある。俺の母、田島 弥生(たじま やよい)の葬式で家族の俺より、泣いていたのだ。当然、年も俺より上で。


「ああ、ひったくりを捕まえるほどには。」


「それどういう事?」


俺はそのあと秋子さんに今日あった事を伝えた。


「あはははは。変わってないわね、自分が女だっていう自覚がないんじゃないの。あはははは。」

そんなに面白い話でもないのに、笑っていた。


そしてそれは明らかに作り笑いではなかった。心の底から笑ているという感じではあったが、それは可笑しくて笑ったのではなく彼女の今を知っての安堵の様なものだった。


ここで、小森 明美について語ろうと思う。


気づいているとは思うが、彼女はプロの陸上の選手である。ちなみにいうと俺の母の後輩にあたる。


さも当然かのように言っているが、俺の母もプロの陸上選手だった。その速さと名前から『最速のマーチ』とかいう厨二をこじらせたような2つ名頂いている。


俺の母は女子の中で国内最強を誇っていた、故に彼女を慕うものは少なくなかった。


小森 明美もその一人だった。


出会いなどは聞いたことがなかったが、それでも俺の母は毎日のように俺に話をしてきたので彼女自身もまた小森 明美に対してライバルの様な存在だと思っていたと思う。


俺の母のせいで隠れることになっていたが、それなりに結果も残していた。


2人ともオリンピック確実とまで言われていた。


しかし、俺の母が死んだ。通り魔に襲われそうになったところを目撃しその正義感と足の速さで、犯人を追っていった。


しかし、護身術などを身に着けているわけではなかったので、返り討ちにされた。


よって死んだ。もちろん国中の新聞がその記事を載せた。


そして、彼女はとても素晴らしいことをしたとニュースのコメンテーターは言った。ようは、勇気がある人。自己犠牲ができる人。心の優しい人。人間の鏡なんてほざく奴もいた。


それだけ人気のあった母だったのは、息子としていやではなかった。


だが、俺は母の行動を許したことは無かった。


自分の力量も考えずに突っ込むだなんて馬鹿以外何物でもない。そう思っていた、だが結局は自分も今日同じことをしたので少しは肯定してもいいんじゃないかと思い始めた。


だが、そのときの俺には人生を変えるほどの衝撃があった。


そしてそれは、小森さんにも言えることだった。


俺の母が亡くなってからは一向に結果も出せずついにはプロをやめることを決意したのだった。


だから、今の小森さんを知って安堵した秋子さんの気持ちは彼女以上にわかるつもりだ。

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