祖父と再び
僕は祖父の葬儀の夜の出来事を、どう捉えてよいのかわからなくなってしまった。夢だと思っていたのだ。けれども、夢で出会った、少年だった祖父と親しくしていたのは、祖父の古い友人と同じ名前の人物だった。僕はクライブ氏のことを知っていたのだろうか。例えば、祖父の話に出てきたことがあるとか。僕はそれを聞いたことがあっても、忘れていたのかもしれない。
祖父が残した言葉が思い出された。6年後、と言ったのだ。6年後、ホールでまた待ってると。そこでまた祖父と出会えるのだろうか。
疑問をたくさん抱えたまま、僕は自宅へと戻った。また学校の日々が始まり、けれどもそこで、僕は少しずつ、友人を作ることができた。僕と同じように内気で、僕と同じように物語の世界に惹かれている子どもたちが周りにいることに気付いたからだ。彼らと僕は次第に近づいていって、秘密の空想の世界をこっそり分け合った。
月日が経った。18になった僕は、再び祖父の言葉を強く意識していた。6年後。そう言ったのだ。あれから6年経つ。またあのような、不思議な出来事が起こると……僕は誰にも言わなかったが、わずかではあったが、それを信じつつあった。
僕は祖父の家へ、今は祖母と伯父とその家族が暮らす家へと、足を運んだ。ちょうど、祖父の葬儀と同じ日にちを狙って。同じ日に、同じ部屋で寝ることになった。僕はなるべく冷静さを装っていたけれど、本当はすごく興奮していた。
夜になって、ベッドに入ったけれど、眠気は訪れなかった。いや、眠れなくていいのだ。真夜中、みなが寝静まったであろう頃合いを見計らって、僕はベッドがから抜け出した。そっと、階下へと向かう。
心臓がどきどきと脈打っていた。家の中は静まり返っている。あの日と同じように、今日も月夜で、ほのかに白い世界だった。そしてやはりあの日と同じように、空気には甘さが感じられた。
ホールで僕は玄関ドアの前に立った。この向こうにまた――見知らぬ世界が広がっているのだろうか。けれども今回は違うような気がした。ただ、何か、常ならぬことが起こるだろう、と思っていた。だから僕は待った。あの日と同じように、少年たちの声が聞こえるのを待ったのだ。
どのくらい経ったか、僕はふいに、人の気配を感じた。思わず振り返る。そこにいたのは、ぽっちゃりとした身体で、ふわふわした髪の毛の青年だった。――祖父だ。
――――
やっぱり、という安堵と喜びと興奮が、僕の身の内を湧き上がってきた。6年後、やはりこうしてまた、祖父と出会えたのだ。僕は6年分年をとっていたが、祖父もまたそうだった。祖父は驚いた表情でこちらを見ている。祖父もまた寝間着を着ていて、そしてそっと、僕の名前を呼んだ。
「――ヘンリー?」
そうだ、と僕は頷いた。祖父の顔が明るくなった。
「……君にまた会えるなんて……。信じられないな」
祖父が笑顔になる。けれどもその笑顔はすぐに引っ込められた。
「……これは夢なのかな? うん、どうもそんな気がする……。さっきまで僕はベッドの中にいたのに、気付けばここにいるし」
祖父は難しい顔をして首を傾げて、でもまたすぐに笑顔が戻ってきた。
「でもまあいいや。夢でも。また君に会えて嬉しいよ。僕はずっと君に会いたかったんだ」
祖父は、18歳のデイヴィッドは、僕に話してくれた。夕日の海辺で眠ったら、こちらの世界に帰ってきていたということ。ベッドの中にいて、あれは夢だったんだなあと思ったということ。しかし――レナードにこの話をすると、レナードも同じ夢を見ていたことが判明し、二人は俄かに沸き立った。
その後二人は、何とかまたあの世界に行けないかと、努力を重ねたらしい。でも無理だった。家の中でひょっこりと――僕に会うことはできなかったし、玄関の扉の向こうが森になっているということもなかった。二人はがっかりし、次第に、あれは本当に夢なんじゃないかと思い始めたそうだ。
「二人が同じ夢を見るなんて、本当におかしなことだけど……」デイヴィッドは言った。「でもあんな世界があるなんてそっちのほうがもっとおかしいだろ。だから僕らはそのうちに、異世界探しを止めてしまったんだ」
デイヴィッドは少し苦笑した。
「今ではもうすっかりそんなことはしてない。僕とレナードも会う機会が減ってしまったし……。いや、仲が悪くなったわけじゃないけど。でも彼は優秀な人間でね。進む道が違ってしまったというか……」
言葉が、寂しそうだ。デイヴィッドはやや俯いた。
「彼は頭が良くてしっかりもので、きっと立派な人間になるよ。僕は違うけど。彼はもう、異世界だなんてそんな子どもっぽいもの必要としていない。僕よりずいぶん大人なんだ。年は一緒だけど」
顔を上げて、遠くを見るような目をした。
「異世界から帰ってすぐに、僕らは地図を作ったんだ。あの不思議な世界を地図に残しておきたかったんだよ。それは僕が持ってる。今でも持ってる。大切なものだから、小箱に入れて鍵をかけて……。でも今ではそれを取り出すこともない」
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