第二章

第二章

とりあえず、杉三には家に帰ってもらい、すぐに押し入れからカバンをとりだして、着替えを詰め込み始めた。それにしても、あまりに突然で、しかも彫菊師匠が日本に帰ってきたというのは、信じられない話だが、90歳を超している師匠のことだから、そうなってもおかしなことではないと思いなおした。もしかしたら、最期は故郷に帰ってきたいとか言ったのかもしれない。それに、静岡がんセンターというと、日本でも屈指のがん治療の専門病院であり、かなり重度の患者ばかりが、全国津々浦々からやってくることは知っているので、そうなると、相当重大だという事もわかった。

とりあえず、自分の支度は完了したが、すぐに出発ということはできない。杉ちゃんをどこかで預かってもらうか、手伝い人でも雇うかしなければならないのだ。といっても、子供を預かってとお願いするのとはわけが違う。年齢も年齢だし、理解を事業者に求めるのも難しい。それに障碍者の預かり施設というものもないわけではないけれど、子供とか高齢者に比べたら数は少ないし、施設嫌いな杉三が納得してくれるかどうかも不明である。かといって、晴の会社は忙しいし、杉三のお母さんも出張に出ていて帰ってこないことは知っている。だから、こういうときはこうしなきゃいけないだろうなと思うので、とりあえず市役所にでも聞いてみようかと思って、スマートフォンをとって、電話をした。

「あ、もしもし。」

「あ、蘭ちゃん。大変なことになっちゃったわね。まあでもね、手紙もらっただけでもよかったと思ってさ、すぐ行ってやりなさいな。水穂ちゃんに聞いたけど、蘭ちゃんの人生変えてくれた人なんでしょ。それじゃあ、ちゃんとお礼しなきゃだめよ。それと、手紙をくれた、マークさんって人にも、ちゃんと感謝してね。」

市役所へ電話したつもりだったが、なんで恵子さんの声が聞こえてくるんだと驚いてスマートフォンを見ると、間違った番号を回していたことが分かった。きっとあまりに慌てすぎて、6と9を取り違えたらしい。

「それからね、多分きっと長泉に行ったら、結構長く滞在することも考えられるから、必要があったら杉ちゃんいつでも連れてきていいって、青柳先生が言ってたわよ。幸い、今の時期、あんまり製鉄所を利用する人も少ないから、二つか三つくらい空き部屋はあるからって。仮に部屋がなくなっても、ブッチャーの家を借りるとか、何とかするから。滞在する日が決まったら、すぐに連れてきなさいな。」

いつも通りの明るい声で、恵子さんがそう言ってくれるが、あらかじめすべて知っているという事から、杉三が水穂に手紙を見せてしまったのは、もう明らかにわかってしまった。

「この度はすみませんでした。杉ちゃんが水穂に、翻訳してくれなんて押しかけて。」

「何を言っているの。来てくれなかったら、蘭ちゃんいつまでたっても気が付かないままだっただろうなって、水穂ちゃんも笑ってたわよ。それに、会いに行かなかったら、また雷が落ちるって。水穂ちゃんに聞いたわよ。結構怖い人なんでしょ?蘭ちゃんの先生。」

「まあ確かに、怒ると怖い人だという事は確かですが、水穂、大丈夫でしょうか?」

「蘭ちゃん。心配する人間違えてる。今は、お師匠さんのことを第一に考えてやりなさい。杉ちゃんなら、あたしたちで何とかするし、水穂ちゃんも今のところ大丈夫だから。」

「今のところか、、、。」

蘭は大きなため息をついて、あいつもよくないんだなあと思ったが、ここは恵子さんの言う通りにしなければいけないなと決断し、

「わかりました。じゃあ、明日連れて行きますから、お願いします。もしかしたら、長く向こうに行く事になるかもしれないですけど、そうなったらまた連絡しますから。あと、水穂にごめんと言っておいてください。」

と言った。

「はいはい。」

嫌そうな声ではなかったが、どこか笑っていた。

翌日。杉三と蘭は、とりあえずタクシーで富士駅へ向かった。とりあえず蘭は駅につくと、駅員さんに手伝ってもらいながら、御殿場線の直通電車に直行し、杉三はそのまま継続して製鉄所に向かった。とにかく、水穂には手を出すなと、車中でさんざん言い聞かせたつもりだったが、杉三は馬耳東風。頼むから、変な騒動はやらないでくれよ、と頼んでも、果たしてそれが成功する確率は、極めて低かった。逆に、自分のほうが、お師匠さんへのお別れの言葉位考えてやれよとか言われて、杉ちゃんに言われたくないよと思いながらも、長たらしい話を聞かされる羽目になった。

まあ、杉三と別れて、電車に乗り込み、一人になるとやっと師匠の事を考えることができた。自分が弟子入りしたころは、とにかく高学歴だからと言って奢ってはいけないという事ばかり聞かされて、何かするたびに「それじゃだめだ!」と怒鳴られてばかりいたことを思い出す。いくらベルリン芸術大学で美術の事についてはある程度知っていたといっても、日本の伝統はそれとは全然違うんだとさんざん聞かされて、出直して来いと怒鳴られたことも数多かった。まあ、他にも弟子は何人かいて、ほとんどがヨーロッパの人たちばかりだったが、国籍も何も関係なく、とにかく怒鳴ってばかりいた人物だった。

でも、不思議なことに、それについて精神を病んだものが出たとか、そういう事は一切なく、弟子たちはみんな「彫0」という芸名を与えられて独立している。脱落した者は全くない。あれだけ怒鳴られて、本当に落ち込んだことも、少なくなかったのになあ、、、。

そんなことを考えながら、蘭は長泉なめり駅を出た。

そのころ。

がんセンターの近くに立っている、ホテルの一室では、彫菊師匠こと菊岡和美と、その弟子であるフランス人の青年マークが滞在していた。がんセンターの中にも宿泊施設があると聞いていたが、子供の患者さんの家族が優先だからと言って断られてしまったのである。

「馬鹿者!」

まず、第一声はこれ。

「だ、だって一応、呼び出したほうがよかったかなと、、、。」

へたくそな日本語で弁明するマークだったが、本当のところ、なんで怒鳴られなければならないのか、よくわからなかった。

「一応、お弟子さんの一人じゃないですか。蘭には知らせるな、なんてかわいそうですよ。」

「うるさい。まだ初期だ。それに、手術をすれば取れるんだから、大したことはないのに、騒ぎを大きくするもんではない!」

「ですけど、がんというのは、非常に危ないじゃないですか。だって、有名人とか、それで亡くなった人は多いでしょう。」

まあたしかにそうである。油断はできないし、部位によっては、初期でも重大ということも数多い。

「それに、師匠の年齢も考えて下さい。」

確かに、ヨーロッパではあまり話題にされることは少ないが、日本では白寿と言われて、大変な騒ぎになる年齢でもあった。逆を言えば、よく認知症にもならないで、現役で仕事をしていられるなと、感心させられる年齢である。

「そんな事は関係ない。体さえ続けば何歳でもいいんだ。今回の事だって、手術をすればすぐに戻れるんだから、大したことでもなんでもないのに、なんで手紙なんか出す!」

「そうなんですけどねえ、、、。」

マークは、返答に困り果てて、この老師匠の顔を見た。確かに白寿の年齢を感じさせる雰囲気は持っていたが、背骨も曲がっていないし、堂々として、目つきはまだしっかりしているのである。

「すみません、伊能さんという方がいらしていますが、お通しいたしましょうか?」

不意にホテルの客室係が、そう言いながら入ってきた。マークが答えを出す前に、

「師匠!大丈夫ですか!本当に、びっくりして急いできました!」

と、言いながら蘭がやってくる。こうなると、和美もとりあえず通せと返答したため、蘭は、客室係に誘導されて、部屋へ入らせてもらった。

「すみません、本当はお知らせいただいてすぐに駆け付けようと思ったんですけど、手紙を翻訳するのに時間がかかってしまい、こんなに遅くなってしまいました。もうしわけありません!」

「あ、ごめんなさい。急いで書いたので、スペル間違えてました?」

急いでマークが謝罪した。

「てことは、書いたのは君なの!」

「はい。」

蘭は、この青年に会ったのは初めてであるが、今時の若いひとにはない、純朴でまじめな雰囲気のある青年だと思ったので、自身がフランス語を解読することができなかったというのは、辞めにした。

「弟子入りしたのはいつからですか?」

「はい、昨年からなので、まだ見習いです。」

「そうですか。まあ、本当に厳しい師匠ですが、、、。」

思わずそれが出てしまうほど、繊細そうな顔つきで、なんだか心配になってしまう。果たして、師匠の怒鳴り声の連発に耐えられるだろうか、なんて気がしてしまうのである。

「いや、むしろかっこいいですよ。毎日馬鹿者と怒鳴られるけど、そういう人は、フランスではなかなかいないですから。」

そういう解釈もあるのか。傷ついたりしないのか。

「で、師匠。どうなんですか。お体の方は。」

「はい、肝臓に一個見つかりましたが、転移もなにもないし、ステージ1なので、切除すれば大丈夫だそうです。」

「あ、そうですか。それならよかったですけど、肝臓は結構難しい部位と聞きますので、施術日程とか、抗がん剤の種類とか、わからないことがあったら手伝いますよ。」

「ああ、すみません。僕も、日本語をまだ勉強し始めたばかりなので、お医者さんの話とかよく分からなかった箇所も多いですから、ぜひお願いします。」

「いや、いい!」

蘭とマークがそう話していると、また和美の声がする。

「なんでです?せっかく来てくれたんですから、そんな言い方はないんじゃありませんか?」

「師匠。知らないかもしれないですけど、俳優の緒方拳さんも、様子がおかしいと思ったときはもう手遅れだったそうです。そうならないように対策を練らなければ。」

「うるさい!とにかくとればいいんだから、それがわかったらさっさと帰れ!」

「だけど、肝臓は取ればいいだけじゃないですよ。それ以外にも大変なことがいろいろあるんですよ。」

蘭は、とにかく心配なので一生懸命反論したのであるが、どうも師匠がそれを認めてくれるのは、無理そうだった。

「お前を呼ばなかったのは、心配事があると、すぐにそうなってワーワー騒ぎ立てるからだ。入門した時から全く変わらない悪い癖だが、人によってはいい迷惑でもあるんだぞ。とにかくな、できたものは取ればそれでいいんだ。他に何も考える必要はない。それなのにお前ときたら、いろんな事を持ち出してああだこうだとまくし立てる!男はな、何かあってもどーんと構えていなければだめなんだ!本当にお前はそこが情けない!そういう悪い癖を早く治して、出直して来い!出直して!」

「はい、すみません。」

こうなったら、もうだめだと思って、蘭は退散することにした。

マークが、駅まで送ってくれるというので、それに従ってホテルを出ていった。彼自身、非常に不安そうだったので、蘭は二人で駅近くの喫茶店に入り、詳しい検査結果などを聞いた。とりあえず、マークに見せられた結果報告書によると、確かにステージ1であることはあるのだが、取ったらすぐに活動再開できるかというと、そういう事はないということが分かった。蘭は、肝臓がんの手術というのは、三割くらいの人にしかできないし、手術というより化学療法のほうが多い、などを話して聞かせた。マークも、お医者さんの話は専門用語ばかりで全くわからなかったと言い、手帳に日本語に該当するフランス語を書き込んだりして、真剣に話を聞いていた。そうなると、もうちょっと、そういう知識のある人がいてくれるといいのになと思った。この会議は、かなり遅くまで続き、マークはもしもの時のために連絡先を教えてほしいと言った。蘭は、わかったよと言って、自分のスマートフォンの番号を教えてやった。

翌日、蘭は富士まで直通する御殿場線の電車で富士へ帰った。もう一度師匠にお会いしたいと申し出たが、もういい加減にしろと、あっけなく断られてしまい、帰るしかなかった。ただ、マークには、何かあったらいつでも連絡をするようにとは言っておいた。

富士駅からタクシーで製鉄所に行くと、恵子さんが出迎えてくれた。懍は、相変わらず忙しく、また出かけてしまったという。杉三はというと、ブッチャーのところへ行ってしまっていて、お昼過ぎまで帰ってこないと言っていた。

「それにしても早かったわね。もうちょっと、ゆっくりしてきてもよかったじゃないの。」

「すみません、恵子さん。意外に大したことなくて、ステージ1だから大丈夫だって言ってたし、手術も可能なので大丈夫だそうです。まあ、日程が決まったら、もう一回行こうかなとは思っていますけどね。」

「あ、よかったじゃない。がんというのは、かえっていい迷惑だと思われたほうが、病状も重くないってことだからそのほうがいいのよ。まあ、名前を聞けば、誰でもびっくりして飛び上がるもんだけど、なんだ、迷惑かけるなと思えたほうが、それでいいの。」

まあ、確かにそうだけど、馬鹿者と怒鳴られたのは恥ずかしくて言えなかった。

「はい。そうですね。じゃあ、杉ちゃん、連れて帰りますから、本当に迷惑をかけてしまって。」

「何を言ってるの。誰も、迷惑とは言ってないわよ。それに、さっきも言ったけど、杉ちゃんならブッチャーの商品開発を手伝いに行ったから、まだまだ帰ってこないわ。」

「はああ、、、そうですか。なんか手伝うのか邪魔をするのか、よくわからないですが。」

「邪魔なんかならないわよ。和裁に関しては天才的でしょ。まあ、こんなところにいたら、誰かが来るといけないから、中で待ってなさいな。」

「すみません。あ、そうだ。ついでに水穂にも謝らなきゃいけないので、短時間でいいですから、会わせていただけないでしょうか。」

「その必要はないんだけど、どうしてもしたいっていうんなら入りなさいな。」

「すみません。」

そう言いながら、製鉄所の中に入らせてもらった。

水穂本人は、とりあえず庭の掃除を済ませて、布団でうとうとしていたが、今日は涼しいので、さほど体には堪えないな、なんて考えていたところだった。そうなると、結構退屈であった。

「おい、ちょっとだけでいいから起きてくれないかな。」

不意にふすまがあく音がしたので、水穂は布団の上に座った。見ると、蘭が申し訳なさそうに布団のわきにいた。

「なんだ、そんな申し訳なさそうな顔して。」

「ごめんな、杉ちゃんが断りもなしにお前のところへ押しかけて。ほら、あの文句だよ。本当に何にも考えずに行動するもんだから、いい迷惑だっただろ。」

蘭は丁重に頭を下げるが、水穂にしてみれば大したことはないので、なんのことだと思ってしまう。

「それに、昨日一日、杉ちゃんここにいて、お前もうるさくてしょうがなかったのでは?」

「何を言っている。うるさいどころか、楽しませてもらった。張り切って応接室の掃除もしてたし、恵子さんと二人でカレー作ったり、利用者と一緒にしゃべったりして、楽しそうだったよ。」

「なんだ。そんなことまでやってたのか。」

「そうだよ。恵子さんなんか、大助かりだったと思う。」

「まさかと思うけど、お前にまとわりついて、寝れなかったとかそういう事はなかっただろうな?」

「まあよくしゃべるなと思ったが、楽しそうだったので、あえて止めなかった。」

「なんでだ。あんな機関銃みたいにしゃべられてはお前も疲れるだろ。」

蘭は、余計に申し訳ない気がした。あんなにでかい声でしゃべられては、うるさくて眠れないのではないかという事は予測できた。

「いいんだよ。でかい声でしゃべってくれたほうが。こっちも退屈しないで済むから。ただでさえ、教授も恵子さんも、利用者さんも、僕が何かすればすぐに寝ろ寝ろしか言わないし、寝ているなんて、退屈でしかたないんだから、かえってにぎやかなほうがいい。」

「だ、だけどさ、今お前が一番必要なのは、横になって寝ていることじゃないのかよ。それを邪魔されて、嫌じゃないのかい?」

「嫌だなんてとんでもない。できれば僕も、カレーを食べて、参加したかった。あれだけ楽しそうにしていると、一人だけ外されたようで、なんだか寂しいよ。」

「だから、そうさせないように、杉ちゃんには静かにしてもらわないといけないだろ。わざわざ、人の家に泊めてもらっているんだから。そういう礼儀も必要なのにさ、、、。」

「お前、へんに考慮ばっかりすると、また貧乏くじを引くぞ。それよりも、彫菊師匠、大丈夫だった?」

あ、そうか。もう手紙の内容は、すでに知っているんだっけな。だって、手紙を翻訳したのは、水穂なんだし。

「あ、すまん。その節はわざわざ訳してもらってしまって。あれ、マークとかいう見習いのフランス人が書いたものだったらしい。何しろ、日本語も何もわからなくて、気が動転した中で書いたんだって。」

「なるほどね。結構慌てて書いたなってのはわかったよ。かなりスペルを間違えていたもの。まあ、それだけびっくりしたという事だから、もう許してやりな。あんな文句書いてよこすんだから、結構繊細そうな人だなという事はわかった。」

そういう水穂とマークは、どこか雰囲気が似ているな、という気がしてしまった。逆を言えば、水穂のほうがそれだけ日本人離れした顔つきなだけであるが。

「で、もう一度聞くが、彫菊師匠、どうだって?」

「あ、ああ、ごめんごめん。一応、ステージ1で手術すれば大丈夫だってさ。肝臓というと、取りにくいがんの一つではあるが、転移も何もないので、何とかなるって。だから手術日程が決定したら、もう一回会いに行こうかなと思うよ。その時は、ちゃんと杉ちゃんにも話して、ここには来させないようにするからな。」

「お前の事だから、また怒られたんじゃないの?馬鹿者って。」

水穂にまでわかってしまったら、もうだめだなと思ってしまう蘭だった。

「うん、怒られたよ。男はどーんと構えてなきゃダメだってさ。マークさんがこっそり手紙を出してくれなかったら、僕は知らないままでいたところだった。」

正直に怒られたと認めた。

「さすが師匠だな。お前のそういう悪い癖、ちゃんと知っているじゃないか。マークさんに感謝しろよ。」

図星だ。僕の考えていることは、すぐに誰かにわかってしまうらしい。そんなに単純素朴な頭ではないはずなのに、、、。

「まあ、師匠とは、一生頭の上がらない人だから、いいところも悪いところもちゃんと知っているよ。だけど、その侵害はしない。そういう人じゃないと、」

水穂は、言いかけてニ、三回咳をする。

「おい、お前もさ、疲れたのなら横になれ、横に。頼むから。」

「気にしないでほしいと言いたいが、お前には伝わらないのも知っているよ。」

そう言っておきながら、素直に横になってくれたので、そこだけはよかったと思った。

「だけど、馬鹿者と怒鳴ってくれるのも、限られるよ。馬鹿者と言われなくなって、意味が分かったんじゃ、遅すぎるからな。」

「もう、僕が駆け付けたのに馬鹿者はないと思うけど。」

「いや、後でわかったんじゃ遅いよ。」

水穂は、横になったまま笑ったが、蘭は意味が分からなくて、首を傾げた。

「わかんない?それじゃまだ駄目だね。」

「もう、からかうのはやめて、休みたくなったら、素直に休んでくれていいからな。ていうか、それくらいちゃんと言ってくれよ。」

「お前をからかうのが張り合いか。」

なんだか、水穂にまで馬鹿にされて、張り合いと言われてもピンとこない蘭であった。

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