渇望のはてに(番外5tweet)

駆け込んだ医師達は、泣きじゃくる少年と、その足元で横たわる看護師を見た。

医師が看護師の容態を確認する間、彼をなだめようと肩に触れた者に、少年は涙で曇る顔をこわごわと上げた。

「僕が……僕が……殺しちゃった!」

まさか、と一同が思った時、看護師を診た医師が、事切れていると告げた。


少年は日に日に衰弱していた。病状は明確だ。激しい栄養失調。

少年には、両親がない。故に最初は少年の孤児院での虐待が疑われたが、そのような事実は見当たらない。

むしろ、弱る少年を気遣い、特別に遇してすらいた。

検査結果、身体的にも精神的にも全く問題がなく、医師を困らせた。

食事療法に投薬治療と、ありとあらゆる手が尽くされたが、効果は一切なく、日に日に少年は弱っていく。

深刻なのは、少年の幼い精神だった。死ぬのが怖いと毎晩泣く彼に、一人の看護師の女性が寝る暇も惜しんで慰めた。

二人の仲は次第に深まり、少年は彼女の足音だけで笑顔を浮かべるほどだった。

新月の晩だった。

少年は今までにないほどの飢えを感じていた。渇きもひもじさも耐え難い。

もはや自力では起き上がることすらできない身体で、枕を濡らしていると、いつものように彼女がやってきた。

髪を撫でてくれるその手が愛おしかった。両親を知らないから尚更。

少年は彼女の手を弱々しく握る。

その温もりに息をついて目を閉じた。

そのとき、彼女の慈しみが、掌を通じて身体の隅々まで行き渡った。

瞬間、少年は癒えていた。喜びのままに身を起こすと、彼女は蒼白で倒れている。

そして鏡には、醜い黒竜の姿。

嫌だ、こんなの!

絶叫と引き換えに人へ戻る身体。そして、駆け足が近付いてきた。


~*~


番外編にて5tweet小説です。

RTの早い方のお願いごとをきく企画で、リンゴンさん(カクヨムID @tensei)から、「5tweet小説」×「入院している少年」というお題を頂きました。

ちなみにこの黒竜の少年、成長した姿で「黒竜と姫君」という1tweet小説に出てきています。

気になった方は、ご確認してみて下さいませ。




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