第6話


 『弟子思いは良いこと』

 実力が違うことは初めから分かっている。だからと言って、何もやらない内から匙を投げることは、してはいけない。

 俺が、最も今恐れていることがある。それは、「いつも柳の下に泥鰌はいない」ということだ。つまり、俺が入学してから起こしてきた様々なことは、全部たまたまじゃないかと懸念しているのだ。

 人間誰でも心配事をしたことがないと言う人は、居ない。ミク先生やメイは、「お前は強い」と言ってくれるけど、それはただのお世辞だったりして、何て思っちゃたりする時がある。

 俺という人間は、小さい人間だよなぁ。


「楓守、先生の話ちゃんと聞いてる?」


 ジェリーか?

 あ、そうか。ボーっとしてた。

 俺たちは今、教室で先生の話を聞いている所だった。


「7分後には、教室を出てアリーナで事前指導が行われる。で、その時に国上学校の生徒との、チーム分けが発表される」


 国上中等特別教育学校の人とは、現地集合なのか?


「あと、事前指導はあっちの学校と一緒にやるから、話を聞き逃すことがないようにしてくれ」


「もう来てるんですか⁉」「現地集合でいいじゃないですかー」「朝からテンション下げ下げですわ」

 そんなに嫌な奴らなのか。

 ちょっと俺には、中学部からこの学校にいる仲間の気持ちが分からないな。


「もうすぐ5分前だ。国上には恥見せないでくれよ。各チームごとに急いで行ってくれ」

「は~い」


 みんな元気ないな。


 国上学校の方にも当然、序列が存在する。序列は、絶対の権力を持つ。

 メイも言っていたが、日本ⅤP序列2位のおかげで助かったことも結構あるらしい。

 俺も、学校卒業したらメイみたいになりたいよな。

 まあ、あの性格は移りたくないけど。

 という訳で俺たちは、先生の指示通りアリーナに移動して、事前指導が始まるのを待っていた。


「では、これより羽愞中等特別教育学校のと、国上中等特別教育学校との、特別合同訓練の事前指導を始めます。今回、総指揮を執っていただくのは、現在日本序列2位の砂川メイさんです!」


 大きな拍手が、我が師匠に浴びせられる。

 はぁ~。

 知ってたとは言え、ため息が出るわ。

 俺の師匠の本当の性格を、みんなに知ってもらいたいわ。


「皆さんこんにちは。ご紹介にあずかりました、砂川メイです。では、さっそく今回の特別合同訓練の説明を行いたい思います」


 隣からジェリーが、「メイさんめっちゃ綺麗だね」と言ってくるが、ジェリーの方が絶対に綺麗だから。容姿も『心』も!

 他の所々でも、メイが美人だと騒いでいる。

 何か申し訳ないわ。


「今回は、実際にゴーストタウンに行ってもらい、アグロ・キュートを狩ってもらいます。これは訓練ですが、油断すると命を落とす危険な訓練です。しっかりと臍を固めて取り組んでください」

「はい!」


 いい返事だな、国上のみんな。

 やっぱり、厳しいのかな。


「あなたたちは、まだ未熟でアグロ・キュートと戦ったことのある人は、この中で1・2人程度でしょう。なので、今回は聞いていると思いますが、国上は羽愞と、羽愞は国上と、4人4人の合計8人の複合チームで、ゴーストタウンに行ってもらいます」


 意外と国上の生徒も、反応が薄いな。

 あっちも事前に聞いていた様子だな。


「今から、紙を配るので前から後ろに流していってください」


 前の列から順に「あー、こいつかよ!」「また同じ人やん!」「マジでクソだな」など、様々な声が上がっている。

 俺も緊張してきた。


「楓守君、これはヤバいかもです」

 

 えっ⁉

 どうしたんだ。

 俺は、前から送られてきた紙を、見て自分のチームを探す。


「これは、ヤバいよ。楓守」


 紗綾まで一体どうしたんだ。

 お、あったあった。国上の生徒は・・・・・。

 ⁉

 1人だけ⁉


「どういうこと!?」

「その娘は、中学部の頃から国上校内序列1位の天才なんです」


 つまり、この娘が4人分の強さを持っているということか⁉

 名前は、山口静紅・・・。


「運がいいのか悪いのか。微妙なところだね」


 そうだな、紗綾。

 俺も今どうしたらいいか分からないよ。


「一通り合同チームの確認は、終わったようですね。それが、今回の特別合同訓練で命を共にする、新しい仲間です。まずは、合同チームごとに集合して、自己紹介をしましょう」


 周りのみんなが一斉に動き出す。

 めっちゃ気になるんだけど、山口さん。


「初めまして、山口静紅です」


 えっ⁉

 これが、高校生か⁉

 俺たちの前には、身長140センチ届くか届かないか分からない小柄な少女が立っていた。


「シズって呼んでください」


 長い紫色の髪の毛に、濃い青色の瞳。

 声は小さく、少し緊張気味。

 いい子いい子と言って、頭を撫でてやりたくなるタイプの童顔だ。


「かわいい子じゃん」

「それは、今だけです。戦いになったら、鬼人のような形相になるんですから」


 シビーも結構言うな。


「すいません。自己紹介・・・」


 俺としたことが、シズを放っていた。

 少し話し合った結果、シビー、紗綾、ジェリー、俺の順番で自己紹介することになった。


「シビル・トクヴィルです。シビーって呼んでください」

「坂口紗綾です。紗綾って呼んでください。よろしく」

「橋本ジェルです。ジェリーって呼んでください」

「じ~~~~~」


 何か俺のことめっちゃ凝視してくるんだけど。

 子供の見た目だからって、油断できない。


「古谷楓守です。みんなからは楓守って呼んでもらっています。よろしく」

「楓守は、強い?」


 何でそんなこと聞くんだ?

 多分、俺より強いだろうに。


「普通よりは、ちょっと上かな」

「じ~~~~~」


 てめぇ本当にそれ言ってんのか!みたいな目で見られたら、困るんだけど。


「楓守、何でそんな自分のこと過小評価するの?」

「そうです」

「そうだそうだ」


 ジェリーとシビーに言われるのは、良いんだけどさ、紗綾に言われると何かほどよくムカつくわ。


「どういうこと?」


 シズが、首をかしげて尋ねる。


「一応俺は、この学年の中でトップに立たせてもらっている」

「!、じゃあ私と同じ?」

「それはちょっと違うかな。シズは、中学部の頃からトップなんだろ」

「それでも、同じ!」


 かわいいな、もう!

 同じということにしてあげるよ!


「各チーム自己紹介は終わったかな。うん、じゃあ、次は各チームに同伴する教員を今から発表というか、各チームに送らせてもらうね。よろしく」


 自己紹介が終わったことを確認して、メイは話を進める。

 俺たちのチームの先生は誰かな?

 意外と、こういうの楽しみだな。


「こんにちは!」


 ?

 聞いたことあるな、どこかで。

 というか、何か馴染みのあるような。

 ・・・・まさか⁉


「久しぶり、楓守、静紅。頑張れよ、私の弟子たちなんだから!」


 えっ⁉

 私の弟子たち⁉

 てことは、シズもメイの弟子⁉


 そこには、大きく目を見開いて見つめ合う、小柄な少女と、少年の姿があった。

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