リンドハンバーグ

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」


最近のファミレスは、あの「ピンポン!」を押すと、テーブルに備え付けられているタブレットにかわいいキャラクターの店員? ふうの女の子がにこやかに語り掛けてくれる。


「今日のランチのおすすめは?」


「ただいまの時点で最もご注文数が多いのは、鶏むね肉のバジルソースソテーでございます。2番目におすすめのランチは、ハンバーグステーキランチでございます」

「ねぇどうする? 鶏むね? それともハンバーグ? どっちにする?」

「んー、俺はハンバーグかな」

「じゃぁ私は鶏むねで行こうかな。ヘルシーそうだし、満腹感もあるからね」

「満腹感を求めるのか? だったらハンバーグだろ」

「え、でもハンバーグ、カロリー高そう」

「なぁ、ハンバーグランチと鶏むねのランチどっちがカロリー高いんだ?」

「当店のハンバーグは赤み肉をメインに使用しておりますので、カロリーを抑えております。鶏むね肉のバジルソースソテーとカロリーは、ほぼ同じでございます」

「え、そうなの。どうしよっかなぁ。カロリー同じくらいならハンバーグも捨てがたいなぁ」

すかさずその反応を察したかのように。

「ハンバーグステーキは熱くしたステーキ皿でご提供しております。ソースはお客様の前でじかに、熱々のハンバーグステーキにおかけしております。ジュゥーとソースが音を立て、より風味よくお召し上がれます」


「んー確かにこの画像見ているだけで、おいしそうに見える」

「そうでしょ、そうでしょ。とってもおいしんですよ。当店のハンバーグは」

ちょっとはしゃいだ感じが可愛いかもしれない。


「ちなみにこちらが、お二つのランチのカロリー表示と原材料表示でございます」

「お、鶏むねランチに杏仁あんにん付いているじゃんか。俺、杏仁好きなんだよな」

「じゃぁ、鶏むねの方頼んだらいいんじゃない」

「でもさぁ俺ハンバーグ食いたいんだよな。お前鶏むね頼んで、俺に杏仁くれないか?」

「いやよ、私だって杏仁好きなんだもん」

タブレットに映し出されたAI店員に「なぁ、ハンバーグの方に杏仁付けられないのか?」

「何面倒なこと言っているの? そんなことできるわけないじゃない。そうでしょ」

「まことに申し訳ございません。ハンバーグステーキランチに、杏仁をお付けすることは出来ません。デザートとしてこちらのフルーツ杏仁豆腐を、ご一緒にご注文いただくというのはいかがでしょうか?」

AI店員の彼女が手にしながら写し出される、フルーツ杏仁豆腐を見て。

「わぁ、おいしそう。ねぇこのフルーツ杏仁豆腐も注文しちゃいなさいよ!」

「480円かぁ。ランチとドリンクバーをセットでコイツを一緒に注文したら千円越えじゃんか。ランチに千円越えはきついなぁ」

そんなことを言っている俺に、AI店員は

「合わせましてお会計は1380円でございます。お連れ様のためにも380円をおかけになられても損はないと思いますけど……」

おいおい、言ってくれるよな。こっちは給料日前で懐が寂しい時なんだよ!

例え380円でも今は厳しい!

向かいの席に座る彼女がじっと俺を見つめている。


「お連れ様が見つめていらっしゃいますよ!」

にこやかに、茶化すようにAI店員は言う。


「そうよ、380円ぐらいどうっていう事ないでしょ」

俺ら二人の会話が、こじれてきたのを感じ取ったのか? AI店員は。

「ご注文がまだお決まりになられておらないようですので、お決まりになられましたら、再度お呼びくださいませ。ちなみにランチお受けの最終ご注文時刻まで、あと10分でございます」

そう言うなりパッと、画面からその愛くるしい姿が消え去った。


あと10分! 急がないと……。


5分後、またあのピンポンと同じボタンを押した。

タブレットにあのAI店員が写し出される。

「ご注文はお決まりになられましたか?」

「はい……」

「ではご注文をどうぞ」


「ハンバーグステーキランチ、ドリンクバー付きで二つ」

「かしこまりました。ハンバーグステーキランチ、ドリンクバー付きでお二つでございますね。ご一緒にデザートのフルーツ杏仁豆腐はいかがですか?」

声をそろえて


「いりません!」


AI店員はそのままの表情で

「かしこまりました。12番テーブル担当『リンドバーグ』がご注文をお受けいたしました」

そのあとすっと画面から消えた。


消えた画面を見て俺と彼女は声をそろえて呟いた。


「なんか疲れた……」と。




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