もう一度この愛を私に
青く澄みきった青空。私たちは小さな教会で永遠の誓いを結んだ。
白いタキシードに、カチンコチンになりながら、私の薬指に指輪をはめてくれた彼。
誓いのキスをした後、じっと私の目を見つめてくれる彼。
自然にうるおい、涙がこぼれた。
そっと、ベールをまたあげ、彼は耳元でささやいた。
「愛しているよ」と。
参列してくれたみんなの祝福を一心に受け、私は人生最高の幸せを感じた。
教会から出ると、空はどこまでも澄み切った青空が永遠のごとく広がっている。
私の隣には、彼がいる。
この青く澄みきった空の下、彼は私のこの純白のウエディングドレスをその目に焼き尽くすように見つめ。
その愛しい微笑みを私に浴びさせてくれる。
見つめ合う二人の瞳。その繋がった瞳を合わせるかのように私が高らかと、ブーケを青空めがけ投げたその瞬間。
私の視界から彼の姿が消えた。
私の横で崩れ去るように彼は、地面へと倒れた。
それが、彼と最後に一緒に居られた時だった。
カランカラン。
海で拾った貝殻で作った風鈴もどきが、夏の風に揺れ。音を放す。
「
「ありがとうございます。お母さん」
彼の遺影が飾られている仏壇のある部屋の障子を開け、廊下に面した縁側に座り込んでいた私の横にそっと麦茶が置かれた。
その傍にゆっくりと腰を下ろす義母。
「早いものねぇ。
呟くようなその言葉は、私の耳に自然と静かに入り込む。
縁側に面した庭の上には、あの時と同じような青い空が一面に広がっていた。
ひとの命なんて本当にあっけないものだと思った。
倒れた優斗のその姿は、今でもこの瞼に焼き付いている。
私の目の前で息絶えた優斗。
死亡宣告を言い渡された時、純白のウエディングドレスは涙で濡れた。
そっと触れる優斗の躰からはまだ、かすかな温かさが伝わっていた。どんなに優斗の名を叫んでも彼はそれに答えてはくれなかった。
あの愛おしい笑顔はもう、私に向けてくれることはなかった。
「優斗」
彼の名をそっと耳元で囁いた。
帰らぬ言葉に、私の心はガラスにひびが入ったかのような感覚に侵される。
「
義母が私の手をそっと包み込む。
「この1年ほんとうにありがとう。私はもう大丈夫よ。あなたもまだ若いんだから、もう自分の人生を歩んでもいいと思の。それにあの子、まだ婚姻届け出していなかったんだって。笑っちゃうわよね。普通式挙げる前に婚姻届って出すんじゃないの? 実際はまだ入籍していないんだから、あなたは自由なはずよ」
そう後でわかったことだった。優斗は婚姻届けを提出していなかった。
「俺が自分で届けに行ってくる。だから、俺に預けておいてくれ」
本当は二人で一緒に役所に行って、「おめでとうございます」て、たとえ業務的な感じでもその場で二人でその言葉を聞きたかった。
でも、彼は「必ず行くから」と、彼一人で行くと、譲らなかった。
それはどうしてなのかは、彼は話してくれなかった。
今思えば、……もしかして、そんなことはあり得ないけど。
こうなることをあなたはわかっていたの?
「ニャァ」
垣根の上にいる猫が私を見つめて一言泣いた。
「彼は、寿命だったんだ」
何処とからともなく、私に問いかけるように聞こえた言葉。
その言葉を聞いた私の意識は、囁くように私の身体を抜ける海風が持ち去るように、静かに薄れていった。
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