君とまた出会うことができるのなら

まもなく22番線に電車が参ります……。

ヘッドホンで音楽を聴いていた。

ホームに電車が入る。カタンカタン。

目の前に電車の影を感じた時。

ふっと、背中を軽く押された感じがした。そのまま私の記憶は、意識は途絶えた。


うっすらと目に映る白い天井の色。

規則正しくなる電子音。

その音を頼りに私の意識は戻ってきた。

「ここは?」

「……どこ?」

見知らぬ部屋の中で私は目を覚ました。

カラカラと、扉が開く音がする。

私の視界に若い男性の顔が映った。


「ようやく目覚めましたか。随分と長い間眠っていましたね」

その人はにっこりと笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んでいた。

「誰?」

「誰って、私は医師です」

その微笑みとは裏腹に、淡々と事務的な言葉が返ってくる。

「医師っていうことは、ここは病院?」


「はい、そうです」


あの時私は駅のホームで……そのあとの記憶が、すっぽりと抜け落ちたように無い。

「あなたは駅のホームで倒れて、そのままずっと意識がなかったんですよ」

ずっと意識がなかった?


「どれくらい私は……」


その医師は淡々とこう答えた。

「あなたが生きていられる人生分です」


生きていられる人生分。と、言うのは、どれくらいをさすのだろう。

「私が生きていられる人生分って、どのくらいなんですか」

「そうですね、ざっと、60年は過ぎていますね」


「え!、60年」


60年って簡単に言うけれど、私にとっては途方もない数字だった。

どうしてそんなに、私はいったいどうしたらいいんだろう。

信じがたい年数の告知に呆然となりながらも、その男性医師は言う。

「無理もありません。すぐに現状を理解しろって言うのが酷な話ですからね」

彼は軽く笑みを交えるが、その言葉は淡々とした事務的な言葉に近かった。

まるでロボットのような感じがする。

でもその見た目は、普通の人間だ。


そのロボットのような彼に「私はこれからどうすればいいんですか?」と、尋ねた。

「これからの事は何も心配する必要はありませんよ。貴方をずっとみまもってくれている人がいますからね。先ほど連絡が行ったはずです。もう時期ここに来るでしょう」


「私をずっと見守ってくれている人」

それは誰なんだろう。


私の親? もう親は生きてはいないだろう。だとするならば誰だろう?

謎ばかりが私の頭の中を駆け巡る。

私は未来に今存在している。

静かに戸が開く音がした。

ゆっくりとカーテンから現したその人の姿を見て私は涙を流した。

彼は、昔のままだった。

蘇る記憶に彼の面影が重ねあう。


私は未来から過去にリープして事故に遭った。

彼は私が今よりずっと先の未来で愛した人だった。

過去に戻った彼を想い過去に向かった私を彼はずっと見守ってくれていた。

あのたった1年間の間愛しあっただけなのに。


時の流れは矛盾を引き起こす。

私が愛した人は過去から来た人だった。

彼が愛した人は未来から来た私だった。

私たちの想いは時を超えてまた触れ合うことが出来た。


「ありがとう……七倉光躬ななくらみつみ。また会えてうれしいよ」

彼は満面の笑顔で私にそう言った。


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