時を経たこの想いを

俺は中学の時およそ一年間行方不明になった。

どんなに探しても俺の行方は見つけ出すことはできなかったらしい。

それもそのはず。

俺はその一年間を人生にとって一生をかけてもいいほど、尊い経験をした時間であったから。

俺の記憶にはその一年間の記憶は今も鮮明にのこっている。

そして、この俺に人を愛することを教えてくれた、一人の女性。

七倉光躬ななくらみつみ。彼女との出会いがなければ、今のこの俺の存在もなかっただろう。


「先生、そろそろお時間です」

「ああ、わかった」

授賞式のステージには多くの関係者、報道陣が集まっている。

もう一度、俺は彼女に会いたかった。

ただその想いだけで俺の人生は繋がっていた。


環並行時間移動。


時間の流れを行き来するこのシステムを、俺はようやく実用化することが出来た。

それはただ彼女に会いたいという、一つの想いから始まったものだった。

その一つの想い。それは俺が初めて知った、恋というものだ。


あの一年の間、俺は彼女と一生分の恋をした。

言葉では言い尽くせないほどの想いがまだ、この心の奥底にしまわれている。

愛していた。

そして彼女もこの俺を愛してくれた。

時の遠い流れを遮り、俺たちは大きな壁を乗り越え、共にその心をより合わせた。

あの時。

あの時偶然に、俺は未来へと引き込まれた。

そして俺を待っていたのは彼女、七倉光躬ななくらいつみだった。

彼女は突然未来に飛ばされたこの俺を、保護し助けてくれた。

あの時の俺より十歳年上の彼女は、大切にまるで壊れ物を扱うかのように接してくれた。

あの時、俺の心は壊れていた。だからそう感じたのかもしれない。

平凡に暮らしていた俺の家族、ある日突如に襲った出来事がこの俺の家族を引き裂き、崩壊させた。

世間のやいばはこの俺にも向けられ、俺はもう誰も信じることも、いや自分自身をも消し去りたいという気持ちでいっぱいだった。

そんな時俺はひょんなことから、この世界と一時の間逃れることが出来た。

自分の死を考えていた。

死ぬことだけを考えていた、そんな時彼女はこの俺をあの世界へと導いてくれた。

もしかしたら……、彼女はこの俺を未来から助け出してくれたのかもしれない。

あの時もし、俺がほんとうに死を迎えていたら。

あの世界は存在しえない世界となったのかもしれない。

俺が行った未来は、この俺が創りだした未来でもあるのかもしれない。

それなら、それでもいい。

ただ俺はもう一度彼女に会いたかっただけで、その先の未来にはなにも興味はなかった。

ただその想いだけで俺は、この研究に没頭したのだから。


あれから、すでに六十年という歳月が流れていた。


だが、彼女のいる世界はもっと先の世界だ。

一斉に俺に向けられるフラッシュの光。

光、光、ひかり……。

ぐにゃりと俺の目の前が揺らぎ始める。

今また俺は旅たとうとしている。


この俺がずっと行きたかった。いや、会いたかった彼女のいる世界に。


でも多分、俺は彼女のいる世界には行くことは出来ないだろう。

永遠とわに続く時間の流れの中に吸い込まれて、この生涯を無限という世界に今足を入れようとしているのだから。


もう一度、俺は彼女に会いたかった。

ただそれだけだ。



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