見続けていた夢

夢を見ていたんだ。

そんな事はありえないことなんだから。

これは夢なんだ……。自分にそう言い聞かせていた。


「どうして?」

「この夢から覚めたくないんだ」

「覚めるのが怖いの?」


麻里乃まりのの手が僕の手に触れる。

温かい、彼女のその手から伝わる温かさが、僕の心をむしばむように襲い掛かる。

この夢から覚めれば、僕は彼女とはもう会うことはないだろう。


だからこの夢から覚めたくない。


どんなに僕の身体が侵されようとも、その温もりを感じることが出来るのなら

それでいいんだ。


その温もりは僕の身体を変えていく。

人間でいられる。もう長くはない。

僕は何になるんだろう?


「もう少しよ。明人あきと


そうだ僕は、あと少しで僕でいられなくなる。

それでいい。


それが君の望むことならば。

僕はそれを受け入れよう。


温かさが体中に行き渡る。

この夢の中で僕は君と一つになれるのかもしれない。

そんな想いが芽生えてきた。

あと少しなんだろう。君の姿が少しづつ霞む。


これは夢。

これは僕の夢。夢の中で起きていることなんだ。

変わりゆくその姿に恐怖はなかった。

温かさが伝わるのと同時に僕の中に、麻里乃が溶け込んでくるような感覚を感じる。


それは僕の命が燃え尽きる時。

永遠の夢の中で暮らせるその瞬間。


これは夢なんだ。

これから永遠と続く夢の中に、僕はずっといることが出来るんだろう。


あの日、僕の目の前で麻里乃は焼け死んだ。

空から振る、爆弾の炎にまかれ黒い炭になった。

一瞬の出来事だった。

あの時僕は夢を見ていた。現実という夢を。

その夢を僕はずっと見続けてきた。

そしてようやく、僕は麻里乃と同じ夢を見ることが出来るようになる。


そうこれは……夢の中なんだから。

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