言えなかった一言

こんなに好きなのに。

君を一目見た時から僕の心は君一色に塗り替えられた。

その姿を目にするだけで鼓動は高鳴り、言葉は出なくなる。

手に汗がにじむ。

無邪気に笑う君のその笑顔が僕の心を苦しめる。

目を閉じればその笑顔が浮かびだす。


彼女には好きな人がいたのだろうか?

もし、いたとするのなら、どんな男性ひとだったんだろう。


海風が長い彼女の黒髪をたなびかせる。

白い空の雲が写し出されているような海の色。

僕の目には彼女の姿はっきりと見えている。

だけど誰一人彼女に声をかけることはない。


彼女はもうこの世の人ではないからだ。

その姿は僕にしか見えない。

永遠の僕の彼女。

声をかけたくても、僕の声は彼女に届くのかさえも分からない。


いつも微笑み、あの海を眺めている。

長い髪をたなびかせ、光り輝く光に包まれながら。


一言、一言でよかった。


「好きだ」


その一言を伝えたかった。

ただそれだけで僕の想いは晴れたのかもしれない。

でも、その一言を伝えることなく君はこの世から消えてしまった。


どうして僕は君にあの一言が言えなかったんだろう。

いまさらどんなに後悔しても、もう君は戻らない。

僕の前には、もう戻ることはない。

あの時言えばよかった言葉。

たった一言の言葉。


今も、僕は彼女のその姿を見続けている。

いつまでも。

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