かつて悪役に焦がれた人に薦めたい一作。あとはもちろん百合好きにも。

ある物語に対して、主人公やその味方である人よりもむしろ悪役に心惹かれたという経験はないだろうか。
そして、志半ばに倒れたかの人のあり得たかもしれないもしもを夢見たことはないだろうか。

本作はまさしくそういう作品であり、劇中の乙女ゲーム「Revolution」の『悪役令嬢』クレアと、彼女に心惹かれた転生者の主人公レイのための新たな物語だ。

作者は実際にこの世界を訪れたことがあるのではないか。
そう思うほどに精緻に描かれた「ゲームが実体化した世界」は、まさしくレイにとって現実として現れていることを知るのに十分に描かれている。

考えてみてほしい。
「ゲームが現実になる」ということはそのプロットがいうなれば運命として確かに存在するということだ。それが好ましいものであれば幸福だろう。
だが、そうでなければ。
たとえば、愛する人に対してそれが敵になるのなら。

意外に思われるかもしれないが、悪役という言葉は、必ずしもその人自身が悪徳なる人物であることをさす言葉ではない。
善悪の基準となる主観が先に存在し、たどる道筋が存在し、その中に果たした役割がその人を悪役かどうか決定づける。
筋書きがあってはじめて悪役は成立する。

クレアは「Revolution」の悪役令嬢ではあるが、レイにとっては推しだ。
彼女の視点から魅力的に描かれる愛おしき悪役令嬢は、読み終える頃には私たちにとっても同様に愛おしく見えることだろう。

2月の終わりを以って本編の完結を果たし締めくくられた100を超えるエピソードを今これから読むというのは中々大変かもしれない。
だが、軽妙で読みやすく、それでいて豊かに描かれた文章はその負担をほとんど感じさせないはずだ。

少なくとも、本作のレビューを目にとめたような人間なら、読んで後悔することはないだろう。