第8話 王族への敬意

 「Revolution」は恋愛シュミレーションゲームである。

 そうであるからには、恋愛の要素がある訳だ。


 以前にも言ったとおり、私は攻略対象の男どもには興味がない。

 クレア様を愛でることが出来ればそれでいいのだ。

 つまり、攻略対象との接し方も、そこを基準に考えることになる。

 クレア様と一番多く接することが出来るルート――それはつまり第二王子のセイン様ルートである。

 私としてはぜひともセイン様ルートで行きたいのだが、現在ちょっと困ったことになっている。


「おい、レイ。聞いてるか?」


 艶のあるバリトンが響いた。


「……すいません、聞いてませんでした」

「ハハ、面白いヤツだな。いいぞ、許す」


 カラカラと笑うのは第一王子のロッド様である。

 周りには羨望のまなざしを向けてくる貴族のお嬢さんたちが遠巻きにしている。

 いくら貴族とはいえ、第一王子相手ではそうそう気軽に話しかける勇気はないらしい。


 試験からこちら、私はロッド様に目をつけられていた。

 原因は試験の成績である。

 ロッド様攻略のためのフラグの一つが、試験で優秀な成績を修めることなのだ。

 これによって、ロッド様がヒロインに興味を持つようになり、以降、ちょいちょいちょっかいを出してくるようになる。


 現在進行形でそれを味わっている私なのだが、先ほども書いたように困っている。

 視線を後ろに向けると、座席の最後列でセイン様がこちらを面白くないような視線で見ていた。


(クレア様に勝つためだったとはいえ、ちょっと面倒なことになっちゃったなぁ……)


 試験の成績が良すぎると、セイン様の好感度が下がるのである。

 セイン様はコンプレックスの塊なので、自分より能力のある人間が苦手なのだ。

 本当に愛すべき面倒くささである。


「ロッド様、そのような身分の低い者に、気軽に話しかけなさらない方がよろしいのでは? 高貴な血が汚れますわよ?」

「あ、クレア様!」


 なじみ深いキャンキャン声に、私の気分が明るくなる。

 遠巻きに伺っているお嬢さんたちと違い、クレア様は堂々とロッド様に話しかけて来た。

 クレア様の家格を考えれば自然なことなのだが、それでもやはりさすがクレア様と思ってしまう。


「身分は確かに平民かもしれないが、こいつには能力がある。それに反応が面白い」

「ロッド兄さんの悪癖だね。レイ、無理してつきあわなくてもいいんだよ?」


 ユー様もやってきた。

 ユー様は試験について特にフラグはないから、特に反応に変わりはない。


「大丈夫です。ロッド様が構って下さったおかげで、クレア様が話しかけて下さいましたから!」

「レイはもうちょっと王族の方に対する敬意を覚えた方がいいと思うわ」


 呆れ声で言うのは、隣で静かに自習をしていたミシャである。

 基本的に、ミシャはいつもヒロインのそばにいて、色々とアドバイスをくれる。

 逆に、いつも一緒だから、ユー様ルートでは色々と修羅場ることになるのだが。


「王族に対する敬意はあるけど、それよりもクレア様に対する愛が深すぎてね?」

「って、言ってるが、どうだクレア?」

「平民に何を思われようと関係ありませんわ。ちょっと調子に乗りすぎだとは思いますけれど」

「そうですか! 罰として罵って下さい!」

「なんで嬉々としていますの!?」


 そんな平常運転のクレア様と私を見て、


「ハハ! やっぱりお前は面白いな!」


 明るく笑うロッド様。

 うーん……どうしようか。


「ロッド様」

「なんだ?」

「私はクレア様にしか興味がありません」

「そうらしいな」

「なので、私のことは放っておいて頂けると」


 と、こちらから距離をおいて欲しい旨を申し出てみた。


「ちょっとレイ!」


 ミシャが慌てたような声を上げる。

 さすがに不敬すぎると思ったのだろう。


「ロッド様、申し訳ありません。レイはまだ王族の方への接し方が分かっていないのです」

「いいえ、今のは聞き捨てなりませんわ。知らないでは済まないことだってありますのよ? 少し試験が上手く言ったからといって調子に乗って」


 すかさずフォローしてくれるミシャと、ここぞとばかりに噛みついてくるクレア様。

 うん、これはさすがにクレア様が正しい。


「まあ、クレアの言うことも一理あるっちゃあ、あるんだが……」

「そうでしょう? どうかこの者に厳罰を」

「だが、ここは学院だ。今のオレは王族である前に、一生徒だからな」

「そんなきれい事を――」

「なにより」


 クレア様を遮って、ロッド様は言った。


「このオレが許している。未来の王が言うことだ。文句はあるまい?」


 そう言い放ったロッド様は、まさしく王の風格だった。


「……っ! ……分かりましたわ」


 悔しそうに引き下がるクレア様。

 もちろん、王位継承権こそ一位であるものの、ロッド様はまだ王子で必ずしも王の座につくとは限らないのだが、それを指摘するにはクレア様は貴族過ぎた。

 普通に話しかけることは出来ても、もの申すことはよほどのことでない限り出来ない。


「クレア様」

「……ふん。なんですの? ロッド様のご寵愛があって良かったですわね」

「いいえ」

「?」

「クレア様は筋を通そうとなさっただけです。私はクレア様を尊敬します」


 クレア様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

 陥れようとした相手にフォローされるとは思わなかったのか、


「ふ、ふん! いい気にならないことですわ! わたくしはあなたを決して認めませんから!」

「はい! 認められるように頑張ります!」

「わたくしは認めないって言ってますでしょ!」

「私は認められるように頑張るって言ってます!」


 ぎゃーぎゃーと言い合うクレア様と私。


「ホント、仲いいよな、お前ら」

「はい!」

「よくありませんわ!」


 今日もクレア様は可愛い。

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