最終章4話 この姿じゃ信じられんのも無理はない

 暗闇の中、神奈川県のサービスエリア裏に着陸したグラットン。

 フユメ、シェノ、使い魔、途中で合流したアイシアとともに、俺はグラットンを降り、サービスエリアへと向かった。


 真夜中、トラック運転手ぐらいしかいないサービスエリア。

 俺たちはフードコートに集まり、のんきな時間を過ごす。


「シェノさんシェノさん! 今日もお美しいですわ!」


「あっそう。なんでも良いけど、もうちょっと離れてくれないかな」


「つれないですわ。だけど、そこがシェノさんの魅力ですの! ああ! いつかシェノさんと映画デートがしたいですわ!」


「はぁ……」


 お手上げ状態のシェノは、テーブルの上に突っ伏せてしまった。

 だからといって、アイシアのシェノへのが止まるわけではないのだが。


 使い魔をぬいぐるみのように肩に乗せたフユメは、紅茶を飲みながら辺りを見渡す。


「メイティちゃんたち、なかなか帰ってきませんね」


「だな」


 ここにやって来た理由は、メイティたちと合流するためだ。

 なんでサービスエリアで合流なのかは、俺がエージェントを気取りたかったからである。それだけである。


 フユメの言う通り、メイティたちの到着予定時刻はすでに過ぎていた。

 異世界にいる魔王の魔核を退治するため、ニミーと同盟軍兵士数人を連れたメイティに、何かあったのだろうか。


 まあ、心配する必要はないだろう。


「にしても、驚いたよ。ニミーの使える転移魔法は、高速で移動するものも転移させられるし、高速で移動する場所にも転移できる、便利なぶっ壊れ機能だったなんて」


「はい、私も驚きました。ただ、ニミーちゃんは転移魔法以外は使えません。全ての魔力を転移魔法に込めていますからね」


「他の魔法まで使えたら、いよいよ俺の存在意義がなくなってたな」


 のんきに笑う俺とフユメ。

 すると、アイシアを必死で振りほどこうとするシェノの背後に、色違いの帽子をかぶった、2人の小さな女の子が現れた。


「お、噂をすればだ」


 ようやくの『ステラー』の勇者のご帰還である。


「……ソラト師匠、ただいま……」


「ただいまー!」


 物静かなメイティと、元気に手を振るニミー。

 それだけならば、かわいい光景であった。


 しかし2人の背後には、青白い肌に巨大な黒目を持つ4人の同盟軍兵士が立っている。

 おかげでフードコートがざわついてしまった。


「なんだあれ!?」


「宇宙人!?」


「いやいや、UMAかもしれないぞ!」


 宇宙人が正解です。

 あの4人は紛れもなく宇宙人です。


 なぜ、よりにもよって一番宇宙人っぽいヤツらを連れてきてしまったのだろうか。

 このままではマズイ。なんとか誤魔化さないと。


「さ、最近のコスプレ衣装はレベルが高いなぁ! まるで本物みたいだぁ!」


 とりあえずテキトーなセリフを発動。

 それに隠れてフユメが兵士たちに言う。


「兵士さん! 異星人っぽさが隠せてません!」


「ああ、これはすまない」


「我々はグラットンで待機していた方が良さそうだ」


 人々の注目を集めながら、4人の宇宙人たちはそそくさとフードコートを去っていく。

 物分りの良い宇宙人で助かった。


「「ふう……」」


 一瞬の騒ぎであったが、どっと疲れた。

 明日のSNSが心配だが、ともかく宇宙人騒ぎはこれでお終い。

 大きなため息をついた俺とフユメに、メイティは報告を開始する。


「……異世界『ナイト』の、魔王の魔核、追い払った……人助け、忙しくて、ちょっと遅れちゃった、けど……」


「魔王の魔核退治だけじゃなく、人助けまで!? さすがです、メイティちゃん! もう私たちの助けがなくても、立派に戦えますね!」


「……うん……でも、少し、寂しかった……」


「ふわわ! 私たちはメイティちゃんを1人にはしません!」


「……うにゃ……」


 疲れなど吹き飛ばし、メイティをモフモフするフユメ。

 対するメイティは、これといった抵抗を見せない。きっと今頃、隠されたメイティの尻尾はユラユラとしているのだろう。


 報告は終わった。俺とメイティは順調に魔王退治を進めているようだ。

 しかし、世界を救おうとなんであろうと、ニミーはいつも通り。


「おねえちゃん、ニミー、あれたべたーい!」


「どれ?」


「あれだよ!」


 輝かしい笑みを浮かべ、ニミーはシェノの手を引き売店へ。

 お姉ちゃんであるシェノは、わずかに困った顔をしながらも、ニミーについていく。


「ニミーちゃんのお世話をするシェノさんも、見ていて飽きませんわね。ムフフ」


 とろけた視線でシェノを眺めるアイシアは、そう言って意味深に笑った。

 その視線に気づいたのか、シェノはどことなく体を震わせている。

 俺とフユメは、苦笑いしながら距離を置いた。

 シェノに対する愛を爆発させたアイシアに近づけるのは、メイティぐらいである。


 ところがだ。

 今日はもう1人、ニヤけたアイシアに近づける人がいた。


「おい……アイシアか……?」


 それは、どこにでもいるようなおっさんのセリフ。


 トラックの運転手だろうか?

 なぜトラックの運転手が、アイシアの隣に立っている? そもそも、なぜトラックの運転手が、アイシアの名を口にした?


 当然だが、アイシアの反応も俺たちと同じだ。


「どなた様ですの?」


「俺……ワシじゃ! お前のジイちゃんじゃよ!」


 余計に意味が分からない。

 彼の言うことを真に受ければ、これはアイシアのおじいさん、つまり行方不明であるサウスキアの先代王フセペの発見ということになる。

 意味が分からなすぎて、俺たちは呆然とするだけ。


「この姿じゃ信じられんのも無理はない」


 さすがの運転手も、俺たちの反応の意味は理解してくれているらしい。

 ここで口を開いたのは、人差し指を立て運転手の顔をじっと見たアイシア。


「もしあなたがおじい様だとすれば……サウスキア城の主柱の数は?」


「162本じゃ」


「広間の窓が1枚だけ色違いの理由は?」


「ワシが酔って窓を割ってしまったのを戒めるためじゃ」


「お父様にも隠しているわたくしの宝物は?」


「アイシアの父さんと母さんに内緒で買った、ヤーウッドの超精密模型じゃな」


 運転手の流暢な答えに、やっぱり俺とフユメは呆然としたままだ。

 他方、メイティは頬を緩め、アイシアの手を握る。


 肝心のアイシアは、幽霊でも見るかのような顔。


「信じられませんわ! おじい様!」


「アイシア!」


 満面の笑みを浮かべたアイシアは、運転手――フセペに勢いよく抱きついた。

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