第6章22話 止められるものなら止めてみろ
地図に従い行動すれば、目的地到着までにそれほどの時間はかからない。
艦内列車を降り、明かりの少ない廊下を進めば、そこはもう戦闘指揮所の入り口である。
戦闘指揮所の入り口付近には魔物がうろついているが、だからなんだというのか。
「邪魔だ!」
俺は得意の
魔物たちを貫いた氷柱は、その勢いのまま戦闘指揮所の出入り口にまで穴をあける。
穴の向こう側では、帝國軍兵士たちが目を丸くしていた。
「な、何事だ!?」
「敵か!?」
モニター類の光にのみ照らされた部屋の中で、表情を強張らせる帝國軍兵士たち。
戦闘指揮所に足を踏み入れた俺は、とりあえず大声を出した。
「救世主のご到着だ! 艦長はどこだ!?」
面倒な説明は全てすっ飛ばし、さっさと艦長を呼ぶ。
もちろん、帝國軍兵士たちは俺とフユメに銃を向けた。
だが、この艦のトップはすぐさま名乗りを上げる。
「私がヴィクトルの艦長だ。裏切り者が我らに何の用だ?」
ドレッドにも負けず劣らず歴戦の勇士の雰囲気を醸し出す艦長。
この人は話の通じる人だと直感した俺は、単刀直入に言う。
「俺はハオスの虐殺からお前らを助けにきたんだ。これからヴィクトルの体当たり攻撃を止める。メインコンピューターの場所はどこだ?」
そんな俺の言葉に、艦長は目の下をピクリと動かした。
彼がどのような感情を抱いているのかは知らない。
それでも、艦長が決断を下したということだけは分かる。
「栄えある帝國が裏切り者に頼る日が来るとは……端末は持っているか?」
「ある。これだ」
「では端末の地図にメインコンピューターの位置を示す」
話の早い人だ。
数秒もしなうちに、俺の持つ端末の地図に、赤い目印が光った。
「随分と離れていますね」
「無駄にデカい船だからな」
全長16キロの巨大艦。移動するだけでも一苦労である。
加えて、俺たちは最悪の状況に立たされているらしい。
椅子にどっしりと座った艦長は、俺を睨みつけ言い放った。
「魔術師、止められるものなら止めてみろ。突入まで2分を切っている」
ちょっと何を言っているのか分からない。
「今、2分を切ってるって言ったか?」
「聞き返している時間などないぞ」
2分を切っている。つまり、120秒も経たぬうちに、ヴィクトルはボルトアに体当たりを敢行する。
それを止めるには、ざっと5キロ以上は離れている場所に2分以内で移動し、メインコンピューターを破壊する必要がある。
普通に無理ゲーだ。
無理ゲーを攻略するには、チート技を使うしかないだろう。
「ああ、もう! 面倒くさい!」
半ば思考を停止させ、とっさに両腕を突き出し、俺はマグマ魔法を放った。
両腕を突き出した方向は、地図から割り出したメインコンピューターの方向。
戦闘指揮所からメインコンピューターまでの間に人がいないことを祈りながら、俺は直接に、マグマ魔法でメインコンピューターを攻撃したのだ。
煮えたぎるマグマ魔法は戦闘指揮所の壁を溶かし、ヴィクトルを貫いていく。
「体当たりまで、あと1分!」
帝國軍兵士の1人の報告が耳に入り込んだ。
さすがにマグマ魔法もメインコンピューターに届いた頃だろうと、俺は魔法を中断する。
しかしカウントダウンは終わらない。
「残念だったな魔術師。貴様の攻撃は外れたようだ」
「マジかよ……」
微妙に位置がずれていたのだろうか。
もう一度マグマ魔法を使えば、メインコンピューターは破壊できるだろう。
それでも、標的が見えない状態でマグマ魔法を使えば、同じ失敗を繰り返す可能性がある。
確実に標的を破壊するためにも、できれば標的が見える位置から攻撃をしたい。
となれば、
「フユメ、ここで待ってろ! ちょっと行ってくる!」
「は、はい! えっと、どこにですか!?」
質問に答えている暇などない。
俺はグラットンから飛び降り、空を駆け抜けた記憶を五感に呼び起こした。
直後、俺の体はふわりと浮き上がる。飛行魔法だ。
続けて風魔法を使い、宙に浮いた自分の体を加速させた。
次の瞬間、俺は凄まじい速度で、マグマ魔法が作り出した穴を飛び抜けていく。
《体当たりまで、あと30秒》
ヴィクトル艦内に響き渡るアナウンスが、俺の緊張感をくすぐった。
だからなんだ。時速数百キロの中、体が崩壊しそうになりながらも、俺は飛び続ける。
必ず、ハオスの悪事を止めてみせる。
《体当たりまで、あと10秒》
そんなアナウンスと同時、俺は重力魔法を使って急減速を試みた。
わずか1秒程度での減速によって、内臓は全て偏り、俺は危うく死にかける。
それでもなんとかこの世に留まれた俺は、目の前にメインコンピューターがあることに気づいた。
なんという幸運。そして、なんというチャンス。
《――6、5、4――》
終焉の時は迫っている。
俺は両腕を突き出し、再びマグマ魔法を発動した。
「止まれ!」
放たれたマグマの糸は、迷うことなくメインコンピューターに絡みついた。
メインコンピューターには、オレンジ色の線が刻み込まれる。
マグマ魔法が、ヴィクトルの中枢を切り刻んでいるのだ。
攻撃を開始してから4秒後。ヴィクトルが体当たりを敢行する時間。ヴィクトルに動きはなかった。
変わらず、ヴィクトルはボルトア上空に浮かんでいるのだ。
「はぁ……なんとか間に合った……」
喜びよりも安堵が優先し、全身から力が抜けていく。
どうにかヴィクトルの体当たり攻撃を阻止するのに成功したようだ。
今度はゆっくりと飛び、戦闘指揮所に戻る。
「ただいま」
「おかえりなさい! ソラトさん!」
戦闘指揮所に戻った俺を、明るい笑顔が出迎えてくれた。
ただし、フユメ以外の人々の表情は複雑だ。
「本当に魔術師に救われることになろうとは……」
「帝國も落ちたものだ……」
「いや、我らは生き残ったのだ。名誉挽回の機会はまだある」
死を覚悟したものの、
本来ならば死んでいたはずの彼らは、生き延びた理由が気に食わないのか、皆一様に悔しそうだ。
彼らの命を救った俺としては、彼らの反応こそが気に食わない。
せめて、ありがとうの一言ぐらいは欲しいものである。
そんな俺の望みは帝國軍兵士たちには届かない。
モニターを眺めていた艦長は、にべもなく口を開いた。
「魔術師、格納庫で魔物と戦っているのは、貴様の仲間か?」
おそらく、彼が言っているのはシェノとメイティのことだろう。
「ああ。それがどうした?」
「ハオスが格納庫に現れた。貴様の仲間は苦戦している」
「なに!?」
フユメの次はシェノとメイティの危機である。
艦長の言葉を聞き、フユメは俺の手を引っ張った。
「ソラトさん、シェノさんとニミーちゃん、メイティちゃんを助けに行きましょう!」
「分かってる!」
まったくもって迷惑な奴だ。
次こそは必ず、ハオスの息の根を止めてやる。
俺とフユメは戦闘指揮所を後にし、格納庫へと向かった。
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