第1章26話 せめてボッズの頭にレーザーを撃ち込んでやる
「クソッ! バゾ! 俺様を守れ!」
銃口を向けられる立場になり、焦りを含んだボッズの叫び。
この叫びがボッズの命を繋いだ。
突如として執務室の壁が破壊され、振り下ろされたトンカチのような勢いの筋肉男――バゾが、シェノに突撃したのである。
バゾの勢いはシェノも止められず、彼女は宙を舞い壁に叩きつけられてしまう。
続けてバゾは、地面に倒れたシェノを持ち上げ、執務室の出入り口に向かってシェノを投げ飛ばした。
出入り口の扉は開けられており、シェノは廊下に、そしてエントランスに投げ出される。
吹き抜け状のエントランスにはボッズの部下たちが集まり、2階から落ちてきたシェノを殺そうと一斉に武器を構えた。
もしシェノが丸腰であれば、彼らが命を落とすことはなかったであろう。
しかし地面に倒れていたシェノは仰向けになり、持っていた銃を彼らに向けた。
シェノは最も早く引き金に指をかけた男の足を撃つ。
右に立つ男の足を撃つ。
隣に立つ男の胸を撃つ。
左に立つ男の足を撃ち、その隣の男の胸を撃つ。
必ずしも相手を死に追いやる攻撃ではない。だが、相手の動きを抑えることは可能。
次々に倒れていくボッズの部下たちとは逆に、シェノは立ち上がった。
立ち上がり、エントランスに置かれたソファやテーブル、彫刻や銅像を伝い、ボッズを殺そうと走る。
「あそこだ! 殺せ!」
「撃て!」
騒ぎを聞きつけ、ライフルを持ったボッズの部下たちが集まってきた。
断続的に放たれるレーザーに行く手を遮られ、ソファの裏で動きを止めるシェノ。
この隙に、ボッズはバゾに連れられ執務室を去っていく。
ライフルを持ったボッズの部下たちは、少しでも早くシェノの息の根を止めようと、ソファの裏側に回った。
ソファの裏側に回ったボッズの部下を待っていたのは、シェノの銃口。
足を撃たれ、地面に倒れ込み、頭をレーザーに撃ち抜かれ、部下の1人は命を散らす。
シェノはボッズの部下のライフルを奪い、ソファの裏から体を乗り出した。
銃声から敵の居場所を把握していたシェノ。彼女のライフルから放たれた赤いレーザーは、ボッズの部下たちの胸を、首を、頭を貫通、赤い液体を床にばらまく。
残る敵はあと4人、というところで、シェノの持つライフルが白い煙を吹き出した。オーバーヒートだ。
オーバーヒートした銃など重りでしかない。
シェノは敵に向かってライフルを投げつけた。敵にとってしてみれば、大きな果物を投げつけられたようなもの。投げつけられたライフルによって、敵の1人が体勢を崩した。
即座に拳銃を手にしたシェノ。
彼女は敵の1人の足を撃つ。
別の1人の胸を撃ち、頭を撃つ。
別の1人の頭を撃つ。
バランスを崩した敵の胸を撃つ。
先ほど足を撃った男の頭を撃つ。
時計の秒針もほとんど動かぬうちに、4人の敵は魂をなくした肉となり果てた。
――逃がさない。
階段を上り、再び2階の廊下へ。
おそらくボッズは屋敷の裏口に向かっているはず。ボッズを始末するため、シェノは廊下を歩いた。
廊下には、自分たちのボスを殺させまいと、あるいはボスから謝礼をもらおうと、ボッズの部下たちがシェノに襲いかかる。
だがその誰もが、シェノの敵としては力不足であった。
廊下に飛び出す3人の男たち。
シェノは1人目の頭を撃ち、2人目の腹と胸を撃ち、3人目の胸と頭を撃つ。
背後に現れた4人の男女。
シェノは1人目の足を撃ち、2人目の肩を撃ち、突如として開けられた扉の裏に隠れ、まだ無傷な3人目と4人目の頭を撃つ。
突如として開けられた扉からは1人の男が飛び出し、シェノにナイフを振り下ろした。
シェノは拳銃を捨て、男の腕を掴み、自分に向けられていたナイフで男の胸を刺す。そのまま拳銃を奪い、胸を刺され血を吐く男の頭を撃ち抜いた。
シェノは間髪入れず、足から血を流す1人目の頭を撃ち、肩を押さえる2人目の胸と頭を撃つ。
少し廊下を進むと、前方から2人の敵。
シェノは短く確実に、2人の頭と胸を撃つ。
十字路に差し掛かると、左右からそれぞれ3人ずつの計6人の敵が殺到した。
シェノは左から来た1人の腕を掴み、その過程で右から来た1人の足を撃ち、腕を掴んだ男の腹にレーザーを撃ち込み、その男を盾に左から来た2人の頭を撃つ。
そして振り向きざまに1人の頬を銃で殴り、その男から拳銃を奪い、別の1人の腹を撃ち、頬を殴った1人の腹を撃ち、崩れ落ちる2人の頭を撃つ。
最後に、先ほど足を撃たれ地面でのたうち回る1人の頭を撃つ。
屋敷の庭に面した長い廊下では、ボッズの部下たちが待ち構えていたようだ。バゾを先頭に、十数人もの男たちがシェノに銃口を向けていた。
シェノは1人の頭を撃ち、バゾの腹を撃つも、バゾは平気な顔をして機関銃を発砲。蜂の巣にはなるまいと、シェノは近くの柱の裏に隠れる。
だが、振り返るとそこには、ボッズの次男率いる十数人の男たちが迫っていた。
いくらシェノでも、多勢に無勢。彼女は明らかに追い詰められている。
「あいつを殺せ! あんな小娘に、パパを殺されてたまるか!」
ボッズの次男が気勢を上げ、シェノの隠れる柱にライフルを撃ち込むと、部下たちも彼に続いた。
シェノは反撃し、1人の頭を撃ち、別の1人の足を撃ち抜く。
一方、ボッズの部下たちが放ったレーザーはシェノの脇腹を擦り、左肩を貫通した。
衣服に生暖かい血が染み込み、激しい痛みに耐えるシェノは、なおも1人の胸を撃ち、また別の1人の頭を撃つ。
接近戦は無理だと判断したのだろう。ボッズの部下たちは、シェノに向かって手榴弾を投げつけた。
甲高い音を立てて床に転がる手榴弾。シェノはそれを手に取り、持ち主に投げ返す。
廊下を舞った手榴弾は、着地を待たずに破裂。
爆炎と衝撃が廊下を揺らし、散らばった破片は床や壁、天井を食い散らかした。
床に伏せたシェノの背中にも、破片は突き刺さる。
とはいえ、ボッズのボスたちは油断できない。
手榴弾が破裂して間もなく、シェノは拳銃の引き金を引き、2人の男が命を落としたのだ。
「あの小娘……まだ生きてるのか!?」
「ヤツは傷だらけだ! 怯むな!」
「数で押し潰せ!」
なんとか勝利を手にしようと叫ぶボッズの部下たち。
さすがのシェノも、傷の痛みと疲れで反撃ができない。
――せめてボッズの頭にレーザーを撃ち込んでやる。
たったそれだけの願いのために、シェノは廊下の敵に背中を向け、窓を割って庭に飛び出した。
この庭さえ突破すれば、逃げるボッズに追いつけるだろう。問題は、庭を走り抜ける前に、撃ち殺される可能性が高いということ。
強烈な敵愾心が、シェノの背中に集中する。数十の銃口が、シェノの命を狙っている。
やはり無謀であったのだ。1人でボッズを殺し、ニミーの安全を確保するなど、シェノの夢物語でしかなかったのだ。
庭に育つみすぼらしい草花に、シェノの血が滴る。
殺意と絶望を胸に、シェノは庭を走ることしかできない。ニミーの無事を祈り、シェノは残された獣の道を進むことしかできない。
それでも良いとシェノは思う。宇宙のような先の見えない闇の中で、あの2人は、シェノにかすかな光を見せてくれた。ニミーの未来を明るく照らしてくれた。ならば自分は、ボッズを殺すだけ。ボッズを殺せれば、シェノはそれで満足だった。
ただし、これで満足できない者もいる。
空から降り注ぐ青のレーザー。シェノを狙っていたボッズの部下たちは、そのにわか雨のようなレーザーに撃たれ、豪快に吹き飛ぶ。
何事かとシェノが空を見上げた時、彼女の頭上を無骨な船影が飛び抜けていった。
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