光のなかであっかんべー
その後、僕はずっとカインにつきまとわれた。
もちろんカインも兄弟のひとりだから邪険に扱ってはいけないんだけど、
……なんか、こう、どうも。彼といると調子が狂う……この僕の調子を狂わせ続けた。いや、ほんと、あろうことか。あろうことかだよ。
入院式当日、紫色に染まっていたレクリエーションホールはふいにカンッと金色に輝いた。
視力を実質失うほどの強すぎる光のなかで、当然僕たちのやることは決まっていた――お祈りだ。
お祈りの時間が、やってきたのだ。
神さまは、月と親しい。もちろん朝には太陽と親しくて、昼になったらまっすぐ太陽を愛しなさって、夕方には太陽に別れの接吻をするから情熱の紅色に空は染まる、そして夜になれば月を愛しなさる、――僕たち人間がつくりあげた人工月さえも、だからきっと神さまは愛しているんだと……僕は物心ついたころにはすでに通っていた地元の教会で、人工月についてそう教わった。
人間は当然神の前に
――それなのにカインは!
「……な、えっ、なんだよこれ、どうすりゃいいの? つか、眩しくね? 目ぇ開けてらんね――ってうわ!」
眩しさのあまりほとんどなにも見えない状況だというのにどうすればそんなにピンポイントに僕の服の裾を掴めるんだよ、しかもそれ真新しい修練服だぞ、
そう思ったけどもちろんお祈りの最中だからそんなこと言えない、こいつ個人のためだけにそんな振る舞いはできない、だから僕はあくまでもお祈りの手も口もまったく中断せず、代わりに蹴りを一発ここぞというところに突っ込んでやった――いって、いってえ、と騒ぎはじめるので、黙れという気持ちを込めて、もう一発。……そうしたらちょっとは静かになったので、多少はこちらの意思が伝わっただろうか。
もちろん、すべては神の月の黄金色の支配する空間のなかでのできごとだ。……まあ先輩聖職者も含めて、そこにいる兄弟たちにはたぶんバレてはいないハズだった。
必要上のこととはいえ、いきなりこれからともに修練に励む仲間を蹴ってしまった……うん、ちょっと
実際、光が収まってからのカインは、恨めしそうにこっちを睨んでいた。
僕が一瞬だけ小さくあっかんべーをしてやって、ちょちょいと自分の目を指さした。……意味としてずばっと指さしてるのは、実際はカインの顔。
涙ぐんでやがんの、ってことに気づいたからだ。
カインは悔しそうに指の腹で涙をぬぐった――僕はこんどは顔の両側でひらひらと手を振ってやった。
もちろん、ふざけてるわけではないよ。もちろん。――神の御許にいるというのにちゃんとお祈りをしなかったカインに、腹が立っていたんだ。僕は、神のことならなんであれ、きちんとせねば気が済まないからな。
でも、これでまあカインは僕と距離を取って、適当なヤツに寄生すると思っていたのに――祈りを終えて清めも終えて、なんだかんだでその日は祈りのうちにレクリエーションホールでみんなで頭を垂れて神の御許の平穏のうちに眠った翌朝、そうほんと起きてすぐ、僕のその予想は――ぜんぜん外れていたことを、知る。
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