ブラザー、神を讃えようぜ。
柳なつき
カーフリィの兄弟たち
「よお、兄弟。隣、いいかよ?」
返事などしなかったのに、勝手に隣に座られた。
たしかにこの巨大な柱なら二人で並んでもたれかかってもありあまる、けど。
天にも届くほど高く、世界樹のごとく太く、天使の衣のごとく純白な。
そんな柱を背もたれにするとまるで神の
それだっていうのにまあへらへらと話しかけられたので、僕は
花の
やはり、こういうヤツはいる、か。まあ、仕方ない。……神の御許においてさえ、人間というのは群れで暮らさねば生きれないのだ、そのことは、……僕だって重々承知しているのだし。
パタン、と閉じた本の装丁は大層
装丁は古めかしく、筆者は遥か昔の人でも、この本に書かれている知恵も知識もまったく色褪せてないって、僕は知ってる。
そう、僕なら。……いや、僕くらいしかわからないだろう、ここにいる修道士の卵たちのなかにおいてさえも。
「なんだよその本、汚くねえ? カビてんじゃねえの?」
彼の、いかにも軽率そうな風貌を直視することさえかすかな嫌悪を覚え、僕は今僕を取り巻くこの状況を俯瞰することで結果的に視線を逸らすことに成功した。
天井は高く、空間は広々として、家具も調度品も重厚でありながら繊細。
きっと、天の国に似せている。
神の御許で、天使のごとく生きる僕たちのための部屋。この修道院の建物すべては、結局のところそういうこと。
夜七時の、レクリエーションホール。
様々な救済の根拠が御伽草子のように描かれたステンドグラス。
紫色を基調としている、――すくなくとも、今この時間帯においては。
修道院のレクリエーションホールは純白のセメントと大理石でできている。……
時間帯によってまったく異なる人工月の光。それと連動するかのように修道院全体のライトアップの色調が変わり、より救済に近づくことを、ここの修道院――カーフリィ聖リリアナ修道院は神に対する誠実さと誇りとしている。……建物の設計者はまあどうも、上等な設計士だったんだろうな。
高貴で落ち着く、紫色。
あるいはそれが示すのは、芳醇な救済をも示す
「……つか、みんな初日からトバしすぎじゃんよなー。わいわいしやがってよー、もしかして入院前にクローズドネットでオフ会とかやったあと来てんじゃねえのか? 神サンの御許に、ってな」
あちらこちらでできあがる、人の群れ。グループ。男子のみだ、ここでは当然のことだけど。
四月二日現在、今日生まれのやつとかがこのなかにいなければ、全員が僕と同い年の十二歳であるはず。
ここにいる全員が修道院で十三歳の誕生日を迎えるということだ、――もちろん、そのあいだに神に見棄てられなければだけど。
入院前のクローズドネットやオフ会による交流か、
……まあ、それは充分に、ありうる。
テクノロジーの発達した時代だ。入院前にテクノロジーによって知り合って、そんでここにおいては出会いではなくてついに
僕はテクノロジーでも現代倫理でもなく神の国の
……もちろん、必要上のスマホ型デバイスは所有しているけれど。
「はーっ、初日からツイてねーの。……っつかよ、おまえ話聞いてる?」
さあ無視無視、早いとこ僕がこの集団においてのそういう対象ではないってことに気づいてくれ、と本を開こうとしたら――その手首を、ガッと、掴まれた。
意外なほど青く透き通った瞳がすがるように僕を見ている。
「話、聞いてくれ、っつってんだよ」
「……いや、言ってなくない?」
一方的にしゃべりかけられていただけだ。
「いいじゃんよ。さみしい、んだよ。いきなりこんなとこよ、連れて来られてよ」
……深い真理をたたえた湖面のごとき瞳に、草原の百獣の王のごとき金髪。
ああ、駄目だな僕、――人間相手に比喩のクセは控えなくっちゃ。
だってコイツもたぶん単に人間だ。どうしようもない、人間だ。
「俺、カイン。カイン・アイゼンハート」
「……ここに来たら、俗世の名字などもう存在しない。キミも、僕も、修道院の名前を暫定的に
「じゃ、おまえの名前はなに」
「タクミ。タクミ・カーフリィ。――もういちど訊くけど、キミは?」
「……ああ、カイン・カーフリィだな。よろしく、兄弟、……ところでここだけの話マジで神なんていると思ってる?」
――ほら、その証拠に言うことが幼稚で罪人でどうしようも、ない。
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