Part3 新戦法!
確かに俺が装着したコンバット・テクターは、〈アクセル〉ではない。
〈アクセル〉による高機動戦闘が、俺の身体の大きな負担になっていると考えた親父が、別のコンバット・テクターをあつらえてくれたのだ。
〈アクセル〉程の機動力はないが、その分、〈アクセル〉には足りなかったパワーと防御力にリソースを割いている。
基本カラーは、黒と紫、差し色に赤。
ヘルメット部分は〈アクセル〉とほぼ同じで、航空機のパイロットが着用するマスクとゴーグルを合わせたような形状である。
全体的に装甲が分厚くなり、〈アクセル〉よりも若干ながら高出力のブースターを背負っている。
各部に配置されたバーニアは、機動力を得ると言うよりは打撃の威力を加速させる為のものだ。
インパクトマグナムに代わり、取り回しが簡単なデュアルショーターという二丁拳銃を太腿にマウントしている。
前腕に装備された幅広の剣は、スライダーシールドを小型化したライオットスライダーだ。
「〈シャドー・ビート〉……? そんなの聞いてない!」
「人に見せるのは、初めてだからな……」
「狡い、狡い狡いズールーいー! 何よそれーっ」
地団太を踏む〈ラプティック・ブレイブ〉のルカ。
イツヴァは我儘を言う方ではなかったので、なかなか新鮮な女の子だった。
「狡かったら、やらないのか?」
「やるに決まってんでしょ!」
「だったら、文句は言わない事だな……」
「ふんだ! 初お披露目で調子に乗ってるんでしょうけど、その新品に、泥塗りたくってやる」
ルカが、そう言って構えを採った。
右手を前にやり、左手は太腿にあてがっている。
俺は彼女の鑑映しになるように、左手を前に出して構えた。
「レディ!?」
ルカのコールで、ゴーグルの内側のモニターでカウントが開始される。
「3!」
「2!」
「1!」
「テクストロ!」
それと共に、ルカは左手をさっと翻して、太腿から直接レーザーを放った。
俺は左腕を斜めにやり、腹部を狙ったレーザーをライオットスライダーでガードした。
ライオットスライダーの表面で、レーザーが弾ける。
〈ラプティック・ブレイブ〉の左腿の装甲は、〈アクセル〉や〈シャドー・ビート〉と同じでインパクトマグナムをマウントするホルスターになっているらしい。だが、〈アクセル〉のホルスターが横に展開して、銃を縦に引き抜く構造であったのに対し、〈ラプティック・ブレイブ〉は身体と平行に回転する軸が設けられており、ホルスターから抜かずとも銃撃する事が可能であるようだ。
その不自然な構えから、俺はこの事を予見して、左腕でのガードを考えたのだ。
しかしルカの方も、ホルスター撃ちが不発に終わる事は想定していたのだろう、動揺もなく、俺に向かって駆け出して来た。
無策に、真っ正面から、だ。
〈ラプティック・ブレイブ〉は、左のパンチを放った。
俺は右腕でガードすると、左のローキックを彼女の左脚の内側に、足払いのように仕掛ける。
〈ラプティック・ブレイブ〉は地面を蹴って跳び上がり、俺のキックを回避した。そうして、右足をふっと前に振り出すようにして、俺の頭部を狙って来る。
左腕を横にして、腕の小指側で受けた。
右のパンチで、中空の〈ラプティック・ブレイブ〉を迎撃する。
〈ラプティック・ブレイブ〉は俺のパンチを左の脛で受けると、後方に飛びずさった。
「戦い方、本当に違うんだね」
ルカが言った。
〈アクセル〉とのファイトスタイルの違いを確かめるのに、ああやって肉弾戦を仕掛けて来たらしい。
「これもなかなか捨てたもんじゃねぇぜ」
〈アクセル〉と〈シャドー・ビート〉では、そもそもテクターの種類からして異なる。
コンバット・テクターには、大きく三つの系統がある。
軽量化による高速戦闘を旨とした高機動型。
あらゆるパターンの敵を想定し、攻守に秀でた汎用型。
索敵能力や運動機能を支援する事に特化した、感知サポート型。
〈アクセル〉は、高機動型だ。
〈グランドファイター〉や〈シャドー・ビート〉、恐らく〈ラプティック・ブレイブ〉も、汎用型だろう。
感知サポート型は、コンバット・テクターの技術を医療に応用し、先天・後天関わらず運動機能や感覚器官に障害のある人たちの生活を支援するサポーティブ・ウェアから発展したものである。こちらはテクストロに出場する事が珍しいケースだ。
タイプが違えば、ファイトスタイルも違って来るのは当然だ。
〈アクセル〉では、パワーや防御力の弱さを補う為に、スピード特化の速攻を考えた戦法。
〈シャドー・ビート〉は装甲が分厚いので、相手の攻撃を受けてカウンターを取るやり方が良いだろう。タクマも〈グランドファイター〉を、そんな風に運用していた。
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