Part2 新兵器!

 ヒノクニ――


 それが、俺たちが住んでいる連盟政令国家である列島の名前だ。


 ガイア連盟の結成によって、世界の言語や政治経済は統一されたが、地域の名称などに関しては古い時代ものを変化させてしようとしている。


 元々は、ニホン……“カンジ”では、“太陽の国”を意味する名前であったらしい。古い文献では、“太陽が生じる国”と称されてもいた。


 連盟政令国家の領土は、現在ではブロック・セクション・エリアと区別されており、最も大きい括りがブロックだ。


 俺の家は、関東ブロック第三セクションGエリアにある。


 テクストロはブロックごとに開催され、俺は関東ブロックでの優勝、そしてルカ=マーキュラスは東北ブロックで優勝を飾っているらしい。


 俺は、秋の大会でのダメージが残っていたのでヒノクニ・イーストサイドの大会――関東・東北・北海ブロックから上位ランカーが出場する――は辞退した。

 若しこちらに出ていれば、ルカと当たっていた可能性は高い。


 因みに、イーストサイドの大会に、関東ブロックからは上位五名が出場する事になっていて、その内の俺を含めた二名が参加を取りやめているが、もう一人はタクマである。


 タクマは大会の翌日に、別のブロックに引っ越してしまったらしい。理由は分からないが、参加の意思を表明しなかった為に資格がなくなり、関ブロからイーストサイド大会に出たのは三位の選手二名と、四位の選手四名から三人を選んだものである。


 お陰で……と言っては悪いのだが、関東勢は芳しくない結果であったらしい。


 さて、兎に角俺は、ルカ=マーキュラスによって呼び出され、RCF用のグラウンドに移動した。


 グラウンドの周囲には、特殊な磁場を発生させるフェンスが立てられている。これによって、例えばインパクトマグナムやレーザーライフルのような武器の被害を、グラウンドの外に出さないようにしているのだ。


 俺とルカは、広いグラウンドの真ん中で、一〇メートルくらいの距離を置いて向かい合っている。


 グラウンドの中にはこの二人以外にはいないのだが、フェンスの外側には多くの生徒や教師までもが出張って来て、様子を窺っていた。


「もう一回訊くけど――」


 と、俺は言った。


「何よ?」

「どうして俺と戦いたいんだ?」

「あんたが、強いから……」

「強い?」

「あんたと戦えなかったのが、悔しいの!」


 イーストサイド大会の事を言っているのだろうか。


「あんたの話は聞いてたわよ。凄く強い奴がいるって」

「だから、俺と戦いたかったのか? 変わった子だな」

「そうかしら。強いあんたと戦って、勝てば、私はもっと強いって事じゃない?」

「そりゃ……そうかもしれないけど」

「証明したいの、私は、私の強さを……」

「――」

「それなのに、あんたは、あの大会に出て来なかった!」

「……調子が悪かったんだ」


 イーストサイド大会は、秋のテクストロから数えて一ヶ月後、地域によっては雪が降り出している時期に開催された。


 その頃になっても、タクマとの戦いのダメージは全快とは言えず、〈アクセル〉のオーバーホール作業にも手間取っていたので、都合が合わなかったのだ。


「そんなの、私だって同じよ!」


 どうやらルカも、東北ブロックでの優勝はかなりぎりぎりであったらしい。この時に本調子でなかったのは準優勝者の方で、そこまで勝ち上がればイーストサイド大会に出られると踏んで、幾らか手を抜いていたというのだ。


 一方でこのルカは、そういう事が分かっていても全力で打ち向かい、身体やテクターに負担を掛けてしまっていたという。


 だからなのか、一回戦は勝ち進んだものの、二回戦では格下と見えた選手に惜しくも敗北を喫したとの事だ。


「でも、今はサイッコーのコンディションなんだから! あんたにだって、敗けないわ」


 との事だった。


 まぁ、彼女がそう言うのであれば、その通りなのだろう。

 そして、実力の高い選手とやり合えるというのは、どういう形であっても悪い経験ではない。


「御託はこれまでにしようか」


 俺は言った。


「続きは言葉じゃなくて、これでやろうぜ」


 俺は、二つの黒いカプセルを取り出し、コンヴァータを腰のマーカーベルトにマウントした。

 ルカはそれまでの、烈火のような勢いを納めて、涼やかに微笑んだ。


 互いにコンヴァータにカプセルをセットして、音声認識を開始させる。


「着甲!」


 ルカのコンヴァータから、白と黒の金属粒子が吹き出された。

 白い粒子はスキン・アーマーを形作り、その上に黒い粒子がトリコロールに分散して装着される。


 胸の鮮やかな蒼色に、装甲各所に差し色として赤が使われている。鎧を縁取る黄色いパーツだが、特に多く使用されているのはその特徴的な頭部であった。


 顔に当たる部分を、エメラルドグリーンの窓が覆っている。その周囲に、猛禽類の横顔を現したような左右非対称のヘルメットが被されていた。


 俺のモニターに、Raptic Braveと表示されている。


〈ラプティック・ブレイブ〉――


 そういう名前であるらしい。

 その〈ラプティック・ブレイブ〉を装着したルカは、


「あッ」


 と、声を上げて俺を指差した。


「狡い! データと違うじゃん!」


 ……そんな事を言われてもなぁ。

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