Part5 夢見る秋の夜

 テクストロは春と秋の年に二回、大規模なものが開催される。

 俺が参加したのは、秋のテクストロだった。


 初等低学年の部、高学年の部、中等部低学年、中等部高学年の部、成人部、とクラスが分かれている。


 初頭低学年とは、ガイア連盟による初等教育学科の一期生から三期生の事だ。


 俺が参加した高学年の部は、四期生から六期生。

 中等部低学年には七期生から九期生。

 高等部高学年には一〇期生から一二期生。

 そして成人部は、一三期生から、社会人四五歳までの年齢層が出場する。


 最近では、一期生と三期生とでは体格や技量の面で幅が大き過ぎる為、低学年を一期生と二期生にし、高学年から四期生を除外して三期生と合わせた中学年の部を作ろうという動きも出ている。


 これらの五クラスの中で最も参加人数が多いのは、中等部高学年だ。


 テクストロで好成績を残せば学校での評価に繋がる事は勿論だが、特に中等高学年の人間は将来に向けての進路を決めなくてはいけない時期だ。RCFは警察や軍隊でも必修科目であり、そちらを目指す人間はテクストロに出場する事が最低条件になっている。


 テクストロには、その競技の特性上、警察や軍隊の人間が視察にやって来る事が多く、そこで優秀な成績を収めれば自然とそうした進路が開ける事になる。


 だから、中等部高学年に所属する、特に一二期生の、警察や軍隊への進路を希望する人間は、積極的に参加するようになっている。


 俺は、今の所、そうした目標を持っている訳ではなかった。


 俺の夢は、親父がやっているように、コンバット・テクターの修理や改造をしてゆく事だ。


 その一方で、今回の優勝で気付いたように、RCFのエンターテイメント的な面を伸ばして、多くの人たちを笑顔に出来ればそれが良いのではないかと、思うようになっていた。


 要はRCFのプロ選手になる事だ。


 後でその事を、親父に相談してみよう――


 全ての試合を消化し、表彰式が終わった後、俺は親父やイツヴァ、タクマ、その姉のタクミ=ゴルバッサ先輩や部活の仲間たちと、簡単な祝勝会をやり、解散した。


 夜の風は冷たかったが、試合のダメージで火照った身体には程良いアイシングとなった。


「それじゃ、また学校でな」


 ゴルバッサ姉弟とは、そう言って別れた。


「夜道は危ない。送って行きましょう。最近、物騒な事件が起こっていると言うじゃありませんか」


 親父が言った。


「リムー……何とか、という事件の事ですね」


 ゴルバッサ先輩は眉を顰めた。

 ゴルバッサ先輩は、タクマの四つ上だった。快活な弟と違って、お淑やかで物静かな女性だ。中等部から俺たち初等部のRCF部のマネージャーをやりに来てくれているが、彼女自身はコンバット・テクターを授業以外で装着した事はなかった。


 そのゴルバッサ先輩が言ったのは、最近、町に出回っているというコンバット・テクター泥棒の使うという、リムーバブル・コンヴァータ、通称リムーヴァータの事だろう。


 コンバット・テクターは、コンヴァータに使用者の声紋を認証させる事で着甲される。コンヴァータとカプセルが、登録されたもの同士でないと作動しないのだ。つまり、俺の〈アクセル〉を昇華したカプセルを、タクマが自分のコンヴァータに装填しても、着甲されないのである。


 しかしこのリムーヴァータは、プロテクトを破り、相手が使用しているコンバット・テクターの所有権を自分のものにしてしまえると言うのだ。


「心配する事はないッすよ。姉ちゃんは、俺が守るんすから」


 タクマは、包帯を巻き付けた手で、同じく包帯を巻いた胸をどんと叩いた。


「もう、タクマ……変な事、言わないの!」

「だってよー、そうじゃなきゃ、こいつを持ってる意味がないだろ?」


 タクマは自分のコンヴァータと、二つのカプセルを姉に見せ付けた。

 ゴルバッサ先輩は困った顔をしながらも、四つ離れた弟を頼もしく思っているような顔だ。


「では、お気を付けて」

「はい。失礼します」

「じゃーな、イアン!」

「ああ、またな、タクマ」


 そう言って、俺たちは逆の方向へ歩いてゆく。

 途中でイツヴァが、


「パパ! 他の女の人に、“イロメ”使ったら駄目だよ!」

「たっ……イツヴァ、何処でそんな言葉、覚えて来たんだぁ?」


 と、ませた事を言うので、親父は驚いてしまったようだった。


「イアン! お前かぁ?」

「違うよ! 母さんだろー。親父が何か、変な事やったんじゃないの」

「何ィ? 良いかイアン、イツヴァ、俺と母さんはな……」


 自宅を目指す秋の夜は、そんな風にして過ぎて行った。

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