Part3 必殺! アクセルボンバー
「――っと」
俺は、ぱっと横に跳んだ。
それまで俺がいた地面を、深々と抉り取ったのは、〈グランドファイター〉のスライダーシールドだ。
スライダーシールドは、六角形の下半分を引き延ばしたような形状をしており、上に向ける幅広の面が盾、下に向いた鋭角な面を鈍器や刃物として使用する事が可能だ。
子供が使うものであっても、コンバット・テクター自体は兵器である。一定の衝撃を受けた時には、スキン・アーマーとメタル・プレートの間に充満したガスが爆発し、衝撃を緩和するリアクティブ機能が内蔵されているが、この一定の衝撃と言うのは一般的なコンクリートを陥没させる以上の威力を言う。
しかも俺の〈アクセル〉は、授業や訓練に使用されるテクターと比べれば頑丈であるが、テクストロに出場する為に調整されたものの中では最も装甲が薄い。
リアクティブ機能で緩衝しても、俺へのダメージは大きいだろう。
尤も、それをさせない為の全身のバーニアなのだが。
「逃げ足だけは速いみたいだな!」
タクマは俺を嘲るように言うと、レーザーライフルを俺に向けた。
〈アクセル〉のヘルメットの内側、俺の視界となっているモニターが、赤く明滅する。
レーザーライフルの軌跡を予想して、その場で跳躍し、高く舞い上がった。
〈グランドファイター〉は、俺を追ってレーザーライフルを頭上に向けた。
俺は全身のバーニアを細かく噴射して、連射されるレーザーを回避しつつ、地上へと落下する。
「でやっ!」
落下の勢いを加えた右のキックを、〈グランドファイター〉はスライダーシールドでガードした。
シールドの表面が僅かに陥没し、亀裂が走る。
俺は両足を揃えてシールドの表面を蹴り、月面宙返りを敢行した。
この際の衝撃で、〈グランドファイター〉がたたらを踏み、後退する。
着地した俺は、体勢を立て直してレーザーライフルを放つ〈グランドファイター〉に対し、右の太腿にマウントしたインパクトマグナムを発射した。
インパクトマグナムは、レーザーライフルよりも出力が低いが、圧縮ゴム弾とレーザーを使い分ける事が出来る。俺は圧縮ゴム弾を、〈グランドファイター〉のレーザーライフル目掛けて放った。
銃弾の速度で、早いのはレーザーの方だ。しかし、無反動であるが故に、銃撃を行なった直後も同じ場所にあり続けてしまう。
インパクトマグナムの圧縮ゴム弾は、レーザーライフルの銃身に斜め上から突き刺さった。その衝撃に腕を持っていかれた〈グランドファイター〉が、ライフルを手放してしまう。
俺はマグナムを発射した直後、反動を利用して斜め後ろに移動しており、〈グランドファイター〉の隙を狙って飛び出し、加速した。
背中の大型ブースターと、足底のバーニアを噴射して、両手を前に出して突貫する。俺は俺自身を一つの弾丸と化して、防御を無視した突撃を仕掛けたのだ。
アクセルボンバーと名付けた技だ
〈グランドファイター〉はひび割れたスライダーシールドを身体の前にやり、アクセルボンバーを受け止めようとした。
俺の両拳が、スライダーシールドに激突する。
亀裂が大きく広がり、シールドが弾け飛んだ。
俺は加速のままに〈グランドファイター〉の胸板に突進した!
タクマとの決勝戦までは、隠していた技である。と言うのも、ブースターによって加速して一直線に突撃するこの技は、一度見られれば種が十二分に割れてしまう。たった一度の必殺技なのだ。
それでも、親父との訓練では、並のコンバット・テクター相手ならば一発でリアクティブ機能を作動させ、テクターを弾き飛ばす威力を持っていると分かっていた。
だが、何と〈グランドファイター〉のチェストプレートはこれに耐えてしまった。
後で知った事だが、〈グランドファイター〉の頭部や胸、肩、腕、脚などは、メタル・プレートの上にゲル・ガードラングと呼ばれる柔軟な装甲が採用されているらしかった。このゲル・ガードラングは、外見は半透明で薄く発光しており、通常はメタル・プレートよりも硬いのだが、衝撃を受けると分子構造が変化して柔軟になる。
例えるなら、水と氷だ。氷は分子が結合しているが動いていないので、割る事が出来る。水は分子が流動しているので、割る事が出来ない。
ゲルというくらいなので、固体寄りの半固体状なのだろう。それもあって衝撃を吸収してしまうらしい。
〈グランドファイター〉はアクセルボンバーの威力で数メートル後退したものの、踵を地面に埋め込んでぐっと堪え、胸に突き立った俺の手首を掴んだ。
「ふんっ!」
タクマは腰を思い切りひねって、俺を横に投げ飛ばした。
ブースターの勢いもあって、俺の身体は景気良く別方向へ飛び出してしまう。
各部のバーニアを小刻みに噴射して減速しながら、試合場の下に落下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます