第4話 救済

 俺はそのまま街の宿に泊まった。しかし、思考はぐるぐる回る一方だった。邪神の巫女が、ルインだった。あの様子だと、ルインも自覚はなかったのだろう。

 しかし、これからルインはどうなってしまうんだろう。


 そんな思考に疲れ果て、眠りについたのは、もう日が昇り始めているころだった───。








「────────!!!」


 意識が覚醒していくと、何やら外が騒がしいことに気がついた。俺は嫌な寒気を覚え、いち早く着替えて街に出た。


 すると───。


「我らがルイン王女殿下は邪神の巫女、邪神の巫女だった!彼女は末裔や教徒とは別格!邪神復活の恐れがあるため、本日処刑されるそうだ!もう一度言う、王女は処刑だ!」




は───?




 そんなことをほざきながら新聞を撒き散らす男。異様などよめきを生む観衆。重くのしかかるような空気。


 なんだよ、それ。昨日の今日で、処刑だと?ルインは、何もしてないのに──?


 その事実を思考が受け付ける前に、体が勝手に動き出していた。


 向かうは牢獄。その最下層だ。








「な、なんだ、貴様は!」

「どけっ!」


 俺は警備の男達を蹴散らし、欺きながらどこまでも暗い牢獄を進んでいく。

 そして、とうとう死刑囚が収容されている区画までやってきた。


 俺は一つ一つの檻を眺めて行く。どの人間も歪んだ瞳や行動をしている中、一人だけ膝を丸くしてうずくまる、お淑やかな人間がいた。


「何諦めてんだよ、お前」

「え…………?は、ハガト?!」


 彼女は驚愕に目を見開き、飛びつくように檻の格子を掴んだ。その金色で綺麗な瞳の下には、色濃く刻まれた泣きあとが残っていた。

 俺は身を屈ませ、ルインにそっと告げる。


「ほら、とっとと逃げるぞ」

「え、逃げ、る……?」

「そうだよ」


 俺は言いながら剣で牢屋の鍵を強引に破壊し、扉を開けた。


「早く出ろよ」

「ダメ、だよ。私、邪神の巫女だし。それに、このまま逃げたら、ハガトまで重罪になっちゃうよ」

「ここに侵入した時点でもう大罪人だろ。それに、巫女だかなんだか関係ねぇ。お前は何も悪くねぇじゃねぇか。罪のない人間を咎める正義なんて、間違ってる」

「ハガト…………」

「ま、いらん罪を背負ちまったもの同士、テキトーに生きようぜ?」


 俺はそう言って、彼女に手を伸ばした。ルインは瞳に溜まる涙を一筋流し、笑顔で俺の手を握る。


「ありがとう、ハガト」

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