第3話

戦場は、思っていた以上に激しかった。



それもそうだろう、女性と息子達が生きていた時代は終戦間際。

負けるかもしれないと焦ったこの国が、一か八かの掛けで特攻隊なる部隊を投入しているくらいだ。



当然、戦争も激化するし死者も増える。



「全く、相変わらずうるさいなここは……」


耳をつんざくばかりの飛行機の音と、無差別に落とされる爆弾。

煙を吸わないよう、ハンカチで口元を抑え移動する。

爆弾をまともに喰らっては、流石の俺もただじゃすまない。



「ちゃんと持ってきておいてよかったな、相棒」


相棒とは、背中に背負った等身大の竪琴のことだ。

風の力を秘めるというこの不思議な竪琴は、楽器としてはもちろん、武器にも盾にもなる。


物騒なこの時代、丸腰でもそこそこ戦えるが、竪琴があると戦闘が俄然楽になる。

何より俺は体質上火に弱いので、こういう火薬を扱う戦場では、不測の事態に備えて絶対に竪琴が必要だ。



「それにしても、武器がないと生きていけないなんて物騒な時代だな」


周りの惨憺たる状況を見ながら、思わず呟く。


俺は生い立ちの関係上、自分の生きる『時代』というものが存在しない。

つまりどの時代に所属しているとも言えるし、所属していないとも言える。



要は俺自体が時間概念のない、曖昧な存在。



だからこそどれだけ時間が経っても姿は変わらないし、タイムリープする力を使って、使者として必要最低限の時代介入も許される。


ただし、曖昧な存在故に関わった相手の記憶には残らない。

せいぜい残っても『誰かとあの時話した』程度だ。



帰る時代もなく、覚えてくれる人もいないことを寂しいと思わなかったことはない。


『何処かの時代の人間』として普通に生きていたらどうなっていただろうか、普通に生きるならどの時代の人間になりたかったか、と考えを巡らせたこともある。





何処でもいいと思ったが、争いの絶えないこの時代で生きていきたいとは思わなかった。

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