第15話 赤髪の少女と聖剣、魔王と対峙する 3/3
聖絶剣のような大出力の攻撃にはそれなりのデメリットがあるものだ。
本当なら聖絶剣を使ったあと、俺はしばらく体を休めなければならない。
そんな一撃を刀身に亀裂が入った状態で放ったのだ。
無事でいられるとは考えていなかった。
聖絶剣の威力に耐えられなかった俺の体は余った魔力を霧散させながら壊れ、剥離していく。
簡単に言えば自壊しているのだが、不思議と痛みはない。
相応の痛みがあるものだと思って覚悟していたが、今の俺が感じているのは全てを包み込むような――まるでお天道様の下で日向ぼっこをするようなそんなふわふわとした感覚だ。
そんな少しずつ壊れていく俺を見ていたルナが呟く。
「嘘……だよね。ねぇ、嘘だよね? 一緒に帰るんだよね? これからも一緒にいてくれるんだよね?」
かつてオルディナの町を出る直前に問われたのと同じ言葉。
あの時俺は絶対に一人しないと言ったが、今は何も言えることがなかった。
俺は黙ったままであったが、ポツリと母親に怒られた子供のように呟く。
「……すまん」
「ッ…………嘘つきッ!」
「…………」
そう叫んでからルナは強く唇を噛み、いままでに見せたことのない程感情を露わにする。
「嘘つきッ! 一緒にいるって壊れたりしないって言ったのにッ……」
そう言って俺に掴みかかろうとするのを、それをロクスが止める。
彼の複雑な表情から察するに色々と突っ込みたいがこの場は本能的に止めた方がいいだろうという判断だろう。
そうやってロクスの腕に制止されながらもルナは嘘つきと俺を罵りながらもがく。
訴えかけてくる彼女の目の端には光るものが溜まり、宙を舞う。
俺はただ黙っていたが、内心では彼女を鳴かせてしまった自分にひどく腹が立ち、同時に不甲斐ないと思っていた。
最初はそうやってひどく暴れていたルナだったが、やがて魔力切れのせいもあってすぐにぐったりとしてしまう。
俺は彼女に何かを告げてやりたかったが、本当に言いたいことは見つからず、口を噤むしかできない。
心が急く。
もうかなりの感覚がなく、意識もぼんやりしてきた。
だが俺は頭を振り、深呼吸をして平常心を保つ。
「すまない、訂正させてくれ。前にお前が俺を見捨てない限り俺も……、死が二人を分かつまでお前を見捨てないって言ったの覚えてるか?」
落ち着いた声で訊ねるとルナはぐったりと赤髪を垂らしたままこちらを向くことなく小さく頷く。
「悪いな、あれは正確じゃなかった」
「…………」
ルナは何も答えず、代わりに俺の体が崩れる音だけが木霊するが俺は続ける。
「本当はこうだ。
例え死が二人を分かとうとも、俺はお前のそばにいる。
俺がここで消えても、それは別れじゃない。少しの間休ませて貰うだけだ。
だからいつになるか分からねぇが会えるさ。これが……お前に言う最後の言葉だ」
そう言ってもルナは顔を見せてくれなかったが、俺の視界は既に白い世界に囚われてしまっていた。
最後に俺はルナのそばにいるであろうロクスに向けて叫んだ。
「おい、ロクスッ! 少しの間そいつを頼む。
意外に寂しがり屋だからたまに様子を見てやってくれ」
その瞬間一気に消滅に向かう感覚が襲ってきて、急速に世界が遠のいていった。
「待ってッ!」
ルナがそう言ったのが聞えたような気がしたが、それが本当に彼女の声なのかそれとも幻聴なのかの区別が出来ず、俺は最後の最後に言っておきたかった言葉を告げる。
「俺も、好きだったよ。ルナ……」
悲痛なルナの声に俺は一方的に告げると同時に、俺の全ては白い虚無の中に飲まれた。
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