第14話 赤髪の少女と聖剣、魔王と対峙する 2/3

「壊せるもんなら壊してみやがれッ、あるじ様よぉ」


 挑発的な俺の言葉を噛みしめるかのような悲痛な表情を浮かべたルナだったが、やがて決意を固めたように頷いて顔を上げると目を閉じて両手で剣の柄を持って掲げる。


 途端にルナの魔力が柄から俺に流れ込み、俺は聖剣としてその魔力を増幅し力を溜め込む。

 同時に周囲の魔力も吸い上げた。


 集まり出した周囲の魔力が蛍の光のように俺とルナの周囲を漂う。


 使い手の魔力を周囲の魔力と混ぜ合わせて、その溜め込んだ魔力を光の奔流として一気に放出する。


 このが俺が唯一持ちえる聖剣らしい能力だ。

 これだけは他の剣ではできないし、真似も不可能だろう。


 そんな一撃なのだから当然放つまでには時間がかかる。

 だが特撮ヒーローの変身のように敵がそれを待ってくれるはずはない。


 異様な魔力の高まりを感知したのか、ロクスたちの相手をしていた魔王がこちらの顔を向けた。


 そして拳による打撃だけでジョーンを吹っ飛ばすと、詠唱も行わずにつららのような氷の塊を周囲に生成し、ルナに向けて一斉に放つ。


 放たれた氷の塊たちはそのまま無防備なルナに迫ったが、到達する寸前で見えない壁にでもぶつかったように砕け散る。


 ロクスが障壁を構築する詠唱をし、ルナに飛来した氷塊を全て防ぎきったのだ。


 さらに魔王に吹っ飛ばされたジョーンが飛び出してきて、ロクスの張ったその障壁を踏み台にして高く飛び上がると大剣を魔王に叩きつける。


 さすがの魔王も重力も味方した剣を真正面から受け止めるのは無理らしく、すぐにその場を退くことで躱すが狙っていたかのように炎を纏った無数の矢が飛来し、魔王の姿が火に飲まれてしまう。


 ルークの魔術的な加工の施されたお手製の魔術矢で、並みの人間なら普通に跡形もなく燃やし尽くせるほどの火力を持つ。

 しかし、魔王は自らのマントを翻しただけでまとわりついた炎を払いのける。


 それを見てもルークたちは一切驚いたような顔は見せず、同じように持てる限りの力で魔術や斬撃を放ち続けた。


 魔王がどれだけチート的な強さを持っているかはもう理解しているし、これが付け焼き刃でしかないことを知っている。

 だがこの攻撃は魔王を倒すためのものではなく、魔王に攻撃をさせる暇を与えぬための時間稼ぎだ。


 ロクスたちはルナがこの一撃で決めることを理解し、そのための時間を稼いでいるのである。


 その思惑通り、ロクスたちが攻撃している間にルナは俺に魔力を注ぎ込み続け、周囲の輝きは一層増していく。


 俺はその流れ込む魔力に混じって彼女の断片的な記憶が見えていた。


 近くの町で魔王の情報を探った時のことやジョーンとルーク、ロクスと共に強くなるために迷宮に潜った時。


 王都に向かう街道でルークと対峙した時の記憶もあれば港町でジョーンと戦った時のものもある。


 そしてロクスと出会う以前、俺とルナが初めて出会った時。


 遡られていくルナの記憶に俺は懐かしさを覚えながら注がれる魔力を機械的に処理し、そして臨界点を突破した俺の刀身が光の奔流ともいえる光の刃を纏って長く伸びる。


 それはもはや光そのものであり、勝負を決する大技の準備が完了したことを意味していた。


 ルナはゆっくりと目を開け、倒すべき敵の姿をその目に収める。


 魔王もこちらを見て最後の悪あがきに魔術を行使しようとするが、もうすでに遅い。


「全てを断て。聖絶剣せいぜつけんッ」


 振り上げた聖剣の輝きに対して遥かに小さく短い技の名がルナの口から漏れ、そのまま剣が振り下ろされる。


 瞬間目もくらむくらいの光が俺の剣から解き放たれ、暴竜如く射線上にある物体を飲み込んで襲いかかる。


 爆ぜるような光の輝きは魔王に襲いかかり、その姿を一瞬にして飲み込んむとそのまま天高く伸びてやがて尾を引きながら収束した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 それを見届けてからルナは力なく地面にへたり込んで荒い息をする。


 他の面々も同じようにしていたが他の奴よりも身体的ダメージの少ないロクスがルナの元に駆け寄ってきた。


「大丈夫か、ルナ」

「……うん。大丈夫」


 なんとかそう絞り出すルナにロクスはお疲れ様とばかりに微笑む。


「倒したの?」

「あぁ、やったよ」


 そう言ってロクスが視線を向けた方向をルナも見た。


 目の前はまるで隕石でも激闘したかのように盛大に抉れており、廃城に大穴を開けている。


 言わずもがな、ルナが俺を使った天絶剣によるものだ。


 二人は目前の大惨事から再び視線を戻す。

 互いに見つめ合う視線には仲間同士友情や戦いの終わった後の空気の緩みとはまた違う何か熱っぽいものがあるように思える。


 もしなにも知らない人間が見ればカップルに見えるかもしれないな、なんてことを考えながら俺はわざとらしく咳払いをした。


「あー、少し甘い雰囲気のお二人さん? 悪いが時間だ」


 俺が冗談めかしたように言うとルナはキョトンとした表情で、ロクスは聞き覚えのない声で名前を呼ばれたことに目を白黒させながら俺の方を向く。


「あ…………」


 俺の姿を目に止めたルナの言葉にならない声を漏れた。


「剣が、消える……」


 言葉を紡げないルナの代わりにロクスが俺の現状を表すような一言を呟く。


 ロクスの漏らした通り、今の俺の体はボロボロと崩れていた。

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