第2話 お喋りな聖剣、みすぼらしい幼女と出会う 2/3
「あなた何者?」
胡散臭そうな表情と共に繰り出された質問に俺は平然とした顔で答える。
「人間だ、と言いたいところだが……、見ての通り今はただの剣だ」
「剣は、喋らない……」
少女のごもっともな答えに俺は一瞬は黙り込むが、会話に飢えていたのでめげずに話題を切り替える。
「それよりもなんでこんなところに? ここはお前みたいな子供が来るような場所じゃないだろ?」
「……逃げてきた」
「なにから?」
「嫌な人たちから」
俺が尋ねると顔を俯けて少女は呟く。
どうやら訳ありらしい。
普段の俺ならここで日本人お得意の空気を読むを発動して引くのかもしれないが、残念ながら今の俺に空気を読む気は皆無だ。
「ふぅん……。問題ないなら話してくれないか? 人と話すのは久しぶりなんだ」
「……別に、いいけど」
そう言うと少女は自分の身の上をポツポツと話し始める。
年齢のせいもあってか
少女はどこかの領主所有の奴隷だそうで、その中でも領主のお気に入りの一人だったそうだ。
他の奴隷たちと共に掃除や馬の世話、さらにはお気に入りの奴隷として主人の性処理の相手など実に様々な雑務をこなしていたらしい。
実に羨まし……不貞な領主である。
そして一週間前。
領主は所用で王都に向かうこととなり、領主は護衛と彼女を含めたお気に入りの奴隷数人と共に町の外に出たのだという。
王都までの旅は順調に問題もなく進んでいたのだが数日前、一行は街道で待ち伏せていた山賊に襲われてしまい、領主たちはその場で殺されたのだ。
彼女はその襲撃から命からがら逃げ出すことに成功。
そのまま森の中を彷徨い続け、この洞窟にたどり着いたらしい。
それらの話を聞いて俺が思ったのは、やはりこの世界は俺がいたのとは別の世界で奴隷の売買も行われているのかという実にそっけないものである。
もっとお人好しな人間なら彼女の負った運命に同情したり憤ったりするだろうが、これまた残念なことに俺は度の過ぎた偽善者でも清らかな聖人でもない。
ただの平凡な人間である。
と、そんなことを考えて俺は大事なことを聞いていないことに気づく。
「そういえば、お前。名前は?」
「名前?」
「そう、名前。自分自身を表す固有名詞のこと。分かる?」
少し挑発的な物言いになったが、少女は気にした素振りもなくじっと考え、やがて顔を上げる。
「……十八番」
「はい?」
「十八番。それが名前」
「本気で言ってんのか、お前……」
少女の返答に俺は一瞬聞き間違いをしたのだと思ったが、話している少女の顔は真面目そのものだ。
十八番という番号が自分の固有名詞であると真顔で答える少女に自然と俺の口調は呆れたようなものになった。
「あのなぁ……、それは名前じゃなくて番号だから。名前とは言わないから。
で、本当の名前は?
親からもらった名前くらいあるだろう」
そう訊ねると少女は視線を宙に彷徨わせる。
「親知らない。
私が小さいときに村のみんなドレイになってその時に死んだって、カトレアが教えてくれた」
「…………すまん、悪かった」
俺は速攻で素直に謝罪した。
地雷を踏んだのは明確であり、今のは完全に俺が悪い。
少女の言葉に出てきたカトレアというのは恐らく人名で、彼女の両親の末路を知っているということは彼女と同じ村の出身の奴隷だろう。
領主かもしれないが、妾というならともかくただの奴隷の家族情報を知っているとは思えないし、少女が主人を呼び捨てにするとも考えられないしな。
推察しつつ、俺は少女が謝罪を受け入れて何事もなく会話が再び始まるのを待ったが、そこでまったく予期していない言葉が返ってくる。
「気にしてない。どうせ死ぬんだし」
「……あ?」
少女はそう呟くと水辺の端に座り込んで長く伸びて汚れた髪の隙間からこちらを見た。
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