第17話 死した聖剣、白き世界の先で…… 2/2

 扉が開かれた瞬間に迫った拳など避けれるはずもなく、俺はそれを顔面で受け止める。


 バキッと何かが折れるような異音がした後、声を上げる暇もなく吹っ飛ばされ、ゴムボールのように地面を跳ね返った後、柵に背中を強打する形で停止した。


 その光景は我ながらギャクマンガのようだった。


「ゲフ…………」


 なんとも無様な呻き声を漏らしつつ、どうにか気絶せずに意識をしゃんとさせようとする俺。


 どうやら本物の肉体ではないのは本当のようで、確実に折れたであろう鼻がなんの違和感もなく繋がっている。


 殴られた痛みは全く消えないが。


 痛む鼻先を押さえながらノックアウト寸前のボクサーの如き俺の前にカツンとあからさまな靴音が響く。


 殴った相手に文句を言おうとぐらつく視界で睨もうとしたが、相手の顔を見た瞬間、俺は睨むどころか逆に目を見開いてしまった。


 目の前にいたのは鮮やかな赤髪にエメラルドのような目を持つ女性だった。


「…………ルナ?」


 考えるよりも先に名前が出る。


 だが記憶にあるルナとは雰囲気が随分と違っており、胸も含めて全体的に成長しており、ただ伸ばしていただけだった髪も編み込みなどが入っているおかげか前より随分と女っぽくんqっていた。


「へぇ、疑問符なんだ。私の名前の聞くのに」


 少女のあどけなさが抜けた顔でこちらを見下ろすルナの口からひどく冷たく乾いた声が漏れる。

 妙な圧力に俺はわずかに居心地悪そうに身じろぎし、変な汗をかいてしまう。


「い、いや! わかってたよ。あまりに綺麗だから一瞬判断が遅れただけで――」


 言葉の途中ながらルナは俺の白装束の首元を掴むとそのまま持ち上げて柱に押し付けた。

 余りに勢いが強くて、肺の空気が口から軽く漏れる。


「長すぎるし、遅すぎるのよッ。私が……、私がどれだけ待ったと思ってるのよ」

「…………」


 独り言のように呟きながらルナは俺を見た。


 その目には単純な怒り以外にも様々な感情が混ぜ合わされて複雑な色を作り出している。


 俺はギリギリと装束を締め上げられる首元の手を感じながら、彼女を真っ直ぐに見返す。


「ルナ、俺は――」

「だからもう数発、殴らせろ」

「え? それはちょっと勘弁してもらえません……?」

「無理。これは決定事項」

「ちょッ、マジでやめて! シャレになんないから!」


 真顔で拳を握るルナに俺は冷や汗をダラダラと流しながら必死に制止する。


 ちなみに視界の端には雪がいるが、彼女は口元を手で押さえて驚き半分面白半分といった表情でこの修羅場を傍観しているだけだ。

 人数として数えてはならない。


 何とかあれやこれと言ってルナをなだめてから、俺はかしこまってからさっき言いかけた言葉を告げる。


「すまない。長い間待たせてしまって、お前がこうなるのも分かる。

 俺の責任だ。悪かった」


 そう言って俺は謝罪した。


 ありきたりだが、今の俺にはこの程度の言葉を言ってやることぐらいしかできない。


 ルナはしばらく俺を持ち上げたままだったが、装束を掴んでいた手から力を抜く。

 同時に俺の体はストンと落ちるが、両足が地面につく前にルナが俺を両手で抱きとめる。


「…………会いたかった」

「……すまない、長い間君を一人にした」


 そう呟くと俺は彼女のされるがままになったが、肩口に顔をうずめてみると、聖剣の頃には感じることが出来なかった彼女の匂いを感じとることが出来た。


 こうしていると、まだ別れる前の頃を思い出す。


 あの時からルナは成長したようだが、肝心な部分は変わっていないようだ。


 互いに抱き合いながらチラリと目だけを動かして見ると雪の姿がなくなっている。


 どうやら空気を察して立ち去ったらしい。

 優秀な人だ。


 俺は抱擁を解いたルナの手を引いて彼女のいた部屋に入り、傍に寄り添い彼女に話しかけた。


「なぁ、俺が消えた後の話を聞かせてくれるか?」

「その前にもう一回、あの時の最後の言葉を言って」


 ルナの言葉に彼女がどんな言葉を欲しているかを理解した俺は僅かながら面食らう。


「聞こえてたのか?」


 そう訊ねた俺を見たルナはいままでに見たこともない悪戯っぽい笑みを返してくる。


 呟いた一言が聞かれていたことと、いままでに見たことない表情をされて俺は顔が赤くなるのを感じた。


 これまでクールに振る舞ってきた分、とてつもなく気恥ずかしい。


「ここで言うのか?」


 ルナは頷く。


 あの時、俺があの言葉を言えたのは場の雰囲気で押し切ったからで、今の状態では口にするのも憚られた。


 そんな俺の様子をみて、ルナがこちらを覗き込む。


「ダメなの?」


 そんな至近距離で上目遣いにお願いされてはちんけなプライドなど吹き飛ぶ。


 俺は真剣な眼差しでルナの肩を掴んだ。

 つくづく俺は彼女に甘い。


「愛してるよ。ルナ」


 その場の雰囲気ではない。

 自分の言葉で俺は彼女に告げ、口づけをしたのだった。



◆◆◆◆◆



 最終話まで読んでいただきありがとうございます!


 無口系ながら感情の見え隠れするからルナ可愛い!

 アルブいいぞ! もっと愛して愛されてもらえ!


 と思いましたら、ぜひ★評価とフォローお願いします!


 そしてこの後、再会した二人を描いたEXエピソードもありますので、是非そちらもご覧ください!

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