EX 悪戯な聖剣、ハロウィンを仕掛ける 1/2
俺の相棒――ルナ・シルフィエットは英雄である。
元は奴隷であった彼女は、十代の頃に喋る聖剣である俺――アルブと共に旅をし、数々の偉業を残した。
その中でも特に魔王討伐に関しては彼女のいた世界の人間なら英雄譚として一度は聞いたことがあるほどである。
彼女はその時に相棒である
そんな華々しい経歴を持つ彼女であるが、今は自室の扉の前に突っ立って唖然とした顔でこちらを見ている。
俺ことアルブは先ほどと同じことを言う。
「トリックオア・トリートッ!」
「…………」
しかし、ルナからはなんの反応も帰ってこない。
ここまで無反応だとまるで空気にでもなった気分だ。
「あのー、なんか
「……アルブ、ついに頭がおかしくなった。あなたの替えは利かないのに」
「おいッ、さすがにそれは酷いだろ……」
反射的にツッコミを入れるが、ルナは見てはいけないものを見てしまったとばかりに顔を俯けている。
俺が魔王との戦いで聖剣の姿を保てなくなり、このオーブに人の姿で呼び戻され早数ヶ月。
俺からしてみればほんの一瞬の別れだったが、何十年もの人としての生を全うした彼女からすれば長すぎる別れである。
そこからの再会を経たのだから、関係にそれなりの変化はあるのだが、俺に対する扱いがだんだんと雑で容赦のないものに変わってきているという形で表れているのが悲しいところだ。
まぁ、いままでの師弟や親子のような関係よりは喜ぶべきことなのかもしれないが、少し風当たりが強い気がするのは気のせいじゃないと思う。
「それで教えて?
全身に包帯巻いてグロテスクなメイクしてるの理由?
パッと見頭が狂ったか、邪神降臨の儀式をしてるようにしか見えない」
確かに今の俺の顔にはプロ顔負けのメイクが施され、体の方はあちこちに包帯を巻かれてミイラなのかゾンビなのかどちらともつかない格好をしている。
俺自身もルナの言葉に納得しかけたが、一歩踏みとどまって首をブンブンと降ってツッコミを入れた。
「ちょっと待て。その流れでなんでお前は頭が狂った一択なんだよ。つーか、ハロウィン知らねぇのか?」
「知らない。どこの奇祭?」
「俺の元いた世界の奇祭だよ。てか奇祭っていうな。
世の中には見えない鬼を退治するのに巻き寿司食って、豆を撒くもっと奇怪なイベントがあるんだから」
節分を引き合いに出してみたが、ルナはまったく理解しておらず無言でスルースキルを使用してくる。
俺より先に
ルナをジト目で睨むと、彼女は誤魔化すように咳払いをして話を本線に戻す。
「で、どんなイベントなの? そのハロウィンって」
「もともとは俺の住んでた場所から海を超えてずっと西の方にある地方が発祥でイベントさ。秋の食い物の収穫を祝って悪霊を追い出そうっていう宗教的な儀式だったらしい」
「儀式でそんな格好でするのならさぞ楽しそう」
ルナが皮肉のこもった茶々を入れてくるが、こちらもスルースキルを使用して無視してやる。
先ほどのお返しだ。
「まぁ、俺のいた時代じゃ魔女やお化け、狼男なんかに仮装したり、カボチャをくり抜いて顔を描いたりとほとんど形骸化してたな。
その中で仮装した子供が近所の家にトリックオア・トリート――お菓子をくれなきゃイタズラするぞって言ってお菓子をもらう風習があるんだよ」
「それでさっきやってたのがそれ?」
「ご明察。さすがは我が伴侶」
「とんでもない。我が夫」
茶化したように俺が返すと、ルナも芝居がかった調子で混ぜ返す。
やはり二十代中頃の見た目に反して中身がすでにその倍以上あるのでこうした演技が板についている。
ここら辺は俺が聖剣から時代のルナよりは大きく成長して大違いだ。
「つまりお菓子をあげなきゃ私はイタズラされるの?」
そう呟いたルナが首を傾げる。
その指には俺が嵌めているのとお揃いの銀色の指輪が嵌っていた。
「まさか。
俺のいた時代じゃ、ハロウィンの時期は大体の奴がお菓子かそれの代わりのものをあげたり貰ったりしてたからイタズラされる奴はいなかったよ。
というよりただの脅しで実際にやる奴はいない。
ついでに言えば、今回あげるのはこっちの方だし」
俺はそう言って、自分の隣に置いていた箱を取り出しルナに差し出す。
「これは?」
「まぁ、ハロウィンにちなんだプレゼントだよ」
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