EX 悪戯な聖剣、ハロウィンを仕掛ける 2/2
俺の手からプレゼントを受け取ったルナは箱を開く。
箱から現れたのは黒い魔女の衣装で、それを見たルナは子供のように興味津々な様子で魔女の衣装を見つめる。
「魔女の衣装なんて面白い。しかも私が知ってる魔女の衣装と違う」
「お前が知ってんのは魔女じゃなくて魔法使いだろ。
仲のいい仕立て屋に頼んで作ってもらったんだ。
ただの魔女コスじゃ面白くないと思って、服はお前のいた世界よりも俺の世界の仮装服に近づけてる」
俺とルナが一緒にいた世界には本物の魔法を使う魔法使いがいたが、彼らのほとんどは皆ダボっとしたローブを纏ったダサい格好だったのでまったく参考にならなかった。
そこで俺は生前いた世界のバニー服をベースに作ったらルナの興味を引くのではと思って作ってもらったのだが大正解だ。
ちなみに、仲のいい仕立て屋というのはもちろん生前や聖剣の頃の知人ではなく、このオーブに呼ばれている別の世界の英雄である。
なので、服には様々な能力があるらしいが、それをびっしりと文字で埋まったリストで渡されたので、読む気の失せた俺はひとつも目を通していない。
少なくとも着た人間に害になるようなことはないだろう。
ルナはそのプレゼントに子供のようにはしゃいでいたが、突然顔を俯けた。
「ありがとう。でも私いま返せるものなんて持ってない」
「いいんだよ。俺が勝手にやったことだしな」
俺が苦笑しながら答えると彼女は顔をパァッと明るくさせる。
「ねぇ、着てみてもいい?」
「あぁ、いいよ。後ろ向いてるよ」
そう言って俺はルナに背を向けた。
普通の男性ならここで女性に気を使って部屋の外に出るなりなんなりするのだろうが、聖剣時代に彼女の風呂に付き合わされたせいで、俺には女性が同じ部屋で着替えていても大丈夫な耐性ができてしまっていたのである。
「いいよ」
彼女の着替えはすぐに終わり、僅かな衣すれ音のあと、ルナの短い一言で振り向く。
すると目の前には、赤髪に映える黒のぴっちりとした魔女服を纏ったルナの姿があった。
「うん。よく似合ってる」
あまりのぴったりさに開いたまま塞がらない。
本当に拍手を送りたくなるくらいよく似合っており、肌の露出が多いことと服の素材の光沢が艶めかしいことを除けば、魔女だと言われても信じそうだ。
ルナは俺の反応に照れたように頬を赤らめた。
「ありがとう。じゃあもう一回後ろ向いて」
「え? あ、あぁ……」
彼女の意図が分からないまま、俺は再び後ろを向く。
すると突如背中にムニュッとした何かが押し付けられ、俺は数秒遅れてそれが彼女のなんであるかを理解した。
「ちょッ、ルナ。お前――」
「今は渡せる物がないからこれが代わり」
そう耳元で小さく囁かれ、俺の背筋がぞくりと震える。
彼女の両腕が俺の胸元に回ってきて、二つの柔らかい塊がさらに押し付けられていく。
このままではマズい。
雰囲気に流されてしまう。
そう悟った俺はすぐさまルナの両腕からすり抜けて後ずさる。
「わ、分かったッ。十分伝わったからッ!」
「ダメ。私が満足してない」
そう言ってルナは後ずさった俺との距離を詰めてくる。
止まる気配はまったくない。
完全にスイッチが入っていた。
このままでは性的な意味で襲われるのは明白だったが、そこで救世主がガチャっと扉を開けて入ってくる。
「失礼します。すいません。上からお呼び出しが――」
雪さんだった。
彼女はパッと見、ゾンビが魔女に襲われているようにしか見えないカオスな光景を見ても眉を少しばかり動かしただけで、数秒後には何事もなかったかのように頭を下げる。
「あら、これは失礼。お楽しみ中でしたか。それでは私は外で待っていますのでごゆっくりと――」
そう言って雪さんが静かに扉を閉めようとしたが、その前にルナがとてつもない敏捷性で引き止めた。
だがしかし、彼女は顔を俯けたままで一言も喋らない。
どうやら雪さんの介入で強制的に頭が冷えたらしいが、恥ずかしさで何も答えられないだろう。
代わりとばかりに俺が雪さんに話しかける。
「問題ないです。それよりも仕事ですか?」
「はい。ですが今回は特別な仕事だそうで直々に話があるそうです」
「ちなみに仕事の中身は?」
「詳しくは存じ上げていませんが、なんでもある人たちを呼び集めて欲しいそうです」
「分かりました。すぐ行きます」
雪さんは俺の返答を聞くとそのまま部屋を出ていく。
「さて、着替えてから行きますか。」
俺は顔を真っ赤にして固まるルナに話しかけたとも独り言ともつかない調子でそう呟いた。
◆◆◆◆◆
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