第12話 赤髪の少女、その他選ばれし者と語らう 2/2

「マズイ……」

「我慢しろ。昔、魔物の刺身食わされた時よりはマシな顔してる」


 スティック型の携帯食料を口に含んで顔をしかめるルナに俺はそう言ってやる。


 俺たちは街道沿いの比較的安全な洞窟付近で早めの昼食を取っていた。


 一応、先程までのゴブリン狩りまでの経緯を説明すると、たまたま向かっていた村への街道でルークがゴブリンの集団が移動した形跡を発見。


 痕跡を追っていくと、いかにも今から村を襲おうとしているゴブリン集団を見つけ、次の村を滅ぼされると食料の補給ができない俺たちは、ゴブリンたちを見事に殲滅して昼飯にありついている訳である。


 はい、お終い。


 まぁ、昼飯と言ってもそんな大層なものではない。


 ルナが口にしているのは各地を回る冒険者や旅人に向けてあちこちで販売されている携帯食料でものすごくマズイと評判の代物だ。


 もし俺の前世でそんなものが売られていれば誰も買わないし、誰かが別のものを開発しただろうが、この世界では短時間でエネルギーを摂取できるし、かさばらず持ち運びもしやすい。


 少なくとも魔物の肉などを調理して食べるよりは安全ということで、長旅をする人間には需要があるのだ。


 俺は聖剣なので食べたことはないが、ルナ曰く、ボソボソとした食感しかなく味と呼べるものもないため、まだ歯応えのある魔物の肉よりもはるかに劣る最低な物らしい。


 ちなみに他の面子は特に気にしたような素振りもなく携帯食料を口に運んでおり、港町暮らしだったジョーンは僅かに眉を寄せているが、ロクスとルークはもはや淡々と携帯食料を口に運ぶ姿が様になっている。


 おそらくロクスは長旅生活で、ルークは長い暗殺集団暮らしで舌が慣れきっているのだろう。


 確かにルナもオルディナの町にいた頃は町を離れて遠出することもあった。

 だが長距離を移動することはなく、大抵は商人などと一緒に行動していたため、ちゃんとした調理器具を使った料理が食べられていたので携帯食料のマズさダメージは他の面子よりも大きいのだ。


「なんだ、ルナ。また剣とお喋りしてんのかぁ?」


 そうしてルナがボソボソと携帯食料を食べているとジョーンが無駄にでかい声で絡んできた。


 ただでさえ飯が不味くて不機嫌なルナの眉間に一層皺がよる。


「黙ってて……」

「へっ、相変わらずお高く止まりやがって」


 一言言って、自分を無視したルナをジョーンは鼻で笑う。


 このパーティでルナ以外に俺が喋れることを知っている人間はいない。


 説明するのが面倒だという超個人的な理由もあり、郷に入っては郷に従えの言葉通り、俺はルナとしか言葉を交わさないようにしているのだ。


 それに加えて、ルナからも明かさないで欲しいとお願いされれば黙っているしかない。


 まぁ、そのせいで俺の危惧通り、パーティ内でルナは毎日剣に喋りかけている変な奴認定されてしまっているのだが、もう半年以上も一緒に行動しているので周りも扱いにルナの扱いに慣れてしまっている。


「さて、そろそろ行きましょうか。村まですぐでしょうし」


 そう言ってロクスが立ち上がった。

 他の三人もそれに続いて突き出た岩の渡り、すぐに街道に出る。


 そのまま一行は足を村のある方角へと向けて歩き出すが、歩き出してすぐに最後尾に着いていたルナがピタリと足を止め、振り返って上空へと目を向けた。


「おい、どうした?」

「なにか、来る」


 問いかけにそう答えたルナがじっと見ている空を俺も見上げるが、何も見えない。


 ただ所々に雲が漂ういつもの空だ。


「おい、ルナ! 何やってんだ。早く行くぞ」


 ルナがしばらくそうしていると背後からジョーンの声が聞こえ、彼がルナの腕を手荒く掴む。


 その瞬間、空になにか真っ黒いものが映り、ルナが頭を抱えるようにしてうずくまる。

 直後、反応の遅れたジョーンの眉間に空から飛来してきた一匹のカラスが突き刺さった。


「痛っててえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 まるでバケモノのような絶叫を響かせながら、ジョーンは半狂乱で暴れまわる。


 ルークとロクスが慌てて止めようとするが、痛みでジョーンが暴れるので二人とも近づくことも出来ないようだ。


 俺的にはむしろ今のは死ぬか気絶がするのがまともな人間の反応だと思うのだが、そこで痛みで絶叫するだけで済んでいるあたり人間離れしていると思った。


 それにしても、頭にビイィィンという擬音がつきそうな状態のカラスが刺さったジョーンの姿は滑稽で笑いを誘うものでしかない。


 だがいつまでもそうしているわけにもいかず、最終手段としてロクスが暴れるジョーンを魔法で一時的に気絶させ、大人しくなったところで頭に刺さったカラスの嘴を引き抜く。


 なんの抵抗もなく、人の頭に刺さったカラスを持ったロクスにルークが警戒しながら声をかける。


「それはなんだ?」

「うちの一族の使い魔だ。多分村からの通達か何かじゃないですかね」


 どうやら、ジョーンの頭に突き刺さったカラスは彼の村で伝書鳩代わりに飼われているものらしく、よく見ると足の部分に小さな紙が括り付けられている。


 それを外し、中身を開いたロクスが手紙の文字を目で追っていく。


「朗報です、皆さん。四人目が見つかったそうです」

「はぁ!? もっと早く教えろよ!」


 ジョーンが唐突に気絶から飛び起きてツッコミを入れたので、ルナが怯えたようにビクッとする。

 一瞬で気絶から回復できるあたりも本当に人間なのか疑わしく思えてきた。


 そんなジョーンを放置してルークがそっと口を開く。


「確かにそれは朗報だな。では何故そんな浮かない顔をしているのだ?」


 ロクス以外の面子の目が全て彼の方を向くと、確かにロクスは苦虫でも噛み潰したような釈然としない表情をしている。


 四人目の居場所が分かったのなら、喜ばしいことだ。

 この半年間俺たちはその四人目を探していたのだから。


 みんなの視線が自分に向けられているのに気づいてロクスは視線を泳がせ、頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。


「あー、えっと……実は最後の一人って俺のことみたいなんですよね」

「「「「…………は?」」」」

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