第4話 回想する聖剣、赤髪乙女と生活する 1/3

 夕暮れ。


 赤い夕日の光が木々の間から差し込むなか、魔物が四頭。

 風のような速度でこちらに向かって駆けてきていた。


 俺はそれを感知しながら、使い手であるルナにそのことを伝える。


「ルナ。左から来るぞ、回避しろ」

「ん、分かってる」


 くるりと夕日を受けて輝く赤髪を振って、ルナは迫りくる魔物達を迎え撃つ。


 直後、茂みの中から爛々と光る赤目と顎から飛び出た牙。

 そして黒色の体毛が特徴の狼型の魔物――黒狼が四頭同時に飛び出してきた。


 ルナはその飛びかかってきた黒狼たちを青みを帯びたエメラルド色の目でしっかりと捉えながら焦ることなく俺を横薙ぎに振り抜く。


 遠心力のかかった俺の刀身はズブリと一匹目の黒狼の首に食い込んで首と胴を切り離すと、そのまま襲いかかった他の三頭の首もやすやすと落としてしまう。


 魔物の四頭を一瞬で屠ったルナは刀身に残った黒狼の血を左右に切り払うことで落とし、俺を腰の鞘に戻すと軽く息を吐く。


「お疲れ」

「ん。アルブも」

「ありがとよ。殺した死体はアンデット化する前にちゃんと燃やしておけよ」


 俺がそう言うとルナは頷いて、ぼそぼそと口を動かす。


 するとルナの周りに転がっていた黒狼の死体が燃え上がり、その肉体を完全に灰にして土に返していく。


 死体が完全に消し炭に変わるまでを見届けてからルナは手を合わせる。


「はい、お終い」

「よし。なら早く商隊の奴らをオルディナの町まで運んで仕事を終わらせよう」

「ん。家が一番落ち着く」


 鞘に収まった俺を腰に帯剣するルナは再び頷くと足取り軽やかに去っていった。



―――――



 その日の夜。


 俺とルナは本拠地にしているオルディナへと向かう商人の一団を護衛するという任務クエストを終え、大通りを歩いて帰宅の途についていた。


 あの洞窟で出会ってから既に二年が経過し、今の俺たちはこの町で一端の冒険者として活動している。


 冒険者と言っても迷宮などに潜る本格的なものではなく、拠点にしているオルディナの町のギルドに所属し、そこから出される依頼をちまちまと受けて生計を立てていた。

 なので傭兵と言ったほうが妥当かもしれない。


 そんな冒険者ルナは、大通りの店に売れ残りを出すまいと安売りされている商品に目をやりながら呟いた。


「今日の晩御飯、何にしよう……」

「この前鳥関係の料理を最近食べてないって言ってたんだから鳥の照り焼きとかいいんじゃねぇの?

 他にも唐揚げ、竜田揚げ、キノコのバター炒め……またはそこの通りを折れたところにある子猫亭で食べるのもいいかもな。

 あそこは鳥料理がうまいって話してたのを聞いたことがある」

「ん。でも今日は家で作る。お金が勿体無い」

「たまには贅沢しろよ。人間楽しいうちに楽しいことやっとかないと損だぜ」


 他愛もない話をしながら、ルナは鞘に収められた俺とまだ人通りの多い道を歩いていく。


 この二年の間に様々なことがあった。


 まず俺とルナは、出会って最初の半年ぐらいで出会った森に現れる魔物を狩りながらのサバイバル生活を送ることになる。


 何故すぐにオルディナのような近くの町に向かわなかったかというと、森は広大でどこから出れば町や街道に辿りつくか分からなかったからだ。


 子供であるルナの足で数日なのだから街道に出るまでそんなに時間はかからないだろうと俺は踏んでいたのだが、ルナの話だと途中で川に落ちたらしく、もといた街道あたりからはかなり流れてしまったらしい。


 俺たちは仕方なく街道を探して森を探索しながら、遭遇した魔物たちを狩っていった。


 後で聞いた話だが、なんでもルナが俺を見つけた森はかなり強い魔物が生息する場所として知られており、森を生きて抜けられるなら冒険者としては一人前だと認められるような危険な場所だったのだという。


 よくそんなところを武器も無しに一人で数日も彷徨ったものだと俺はルナの強運に驚かざるを得なかった。


 そんな場所のおかげでルナは戦いの中で様々な技術を習得していく。


 剣の使い方、肉の捌き方、調理の仕方、エトセトラ、エトセトラ……。


 普通なら何年もかかるであろう技術をルナは短期間で次々と身につけた。

 それも彼女の飲み込みの速さ故だろう。


 彼女は異様に飲み込みが早く、魔物と相対した時も恐れることはなかった。


 の扱いなど日ごとに技術が磨かれているのが分かったし、魔物に相対しても取り乱したり慌てたりることもなかったのである。


 なぜそんなに落ち着いているのかと聞くと、


「ドレイの時に学んだ。心を遠くにやれば苦しまないし、あまり痛くもない」


 という返答が帰ってきた。


 心を遠くにやる。


 それが幼い頃から奴隷として育ってきた彼女の処世術だったのだろうな、とその時の俺は思った。

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