第8話 彼女の真実 2/2

 美希から生前の境遇を聞き出した次の日。


 宣言した三日間の期限まであと一日となっていたが、昨日美希に言ったように良吾は美希のいるアパートではなく、高校の校舎二階にある一室にいた。


 カウンセラーとしての勤務中だが、ちょうど授業から解放された生徒たちで騒がしくなるお昼休みの時間帯のはずなのに良吾の部屋は静まりかえっている。


 もしこの学校で人気のない場所を答えろと言われたら、トイレの次に挙げられるだろうなと良吾は目の前のパソコンの画面を見つめながらぼんやりと思う。


 そうして誰も邪魔することもない部屋でパソコン画面を眺めていたが、途中で作業を切り上げて古びた椅子の背もたれに身を預ける。

 ギシッと嫌な音が鳴ったが、気にせず伸びをすると中庭に木陰のベンチで仲良く弁当を囲む女生徒たちの姿が目に入った。


 彼女らが楽しそうに笑いあってお喋りをしているのを見て、あの少女にもああやって仲の良い友人との思い出があるのだろうかとふと思ったが、良吾はすぐに考えを放棄してパソコンの傍らに置かれたコンビニ袋から購入したサンドイッチを取り出して機械的に口に運ぶ。


 いつもは食費を節約するために適当な冷凍食品を詰め合わせた弁当を作ってくるのだが、今日は朝から遅刻してその暇がなかったのだ。

 恐らくは昨日、少女の身の上を聞いたことが原因だろう。


 基本的にどんな霊も問わず、彼らがこの世界に留まる理由は怨恨などの負の感情であることが多い。

 特に地縛霊はその傾向が強く、事実、学生時代に出会った地縛霊のそのほとんどが何らかの負の感情を抱えてこの世に留まっていた。


 だが彼女の話してくれた理由はそれを覆すかのように負の面はなく、むしろ明るく暖かいものだ。


 本当にあれは真実なのか。

 それが良吾には引っかかったのである。


 そんな胸の引っかかりと向き合っているうちにサンドイッチを食べ終えてしまった良吾は、頭の中に広がるもやを振り払うように再びパソコンに目を向けた。

 その画面には文字列がずらっと並んでいる。


 これらは全てここ十年の間にこの街で起こった殺人事件などのピックアップした個人が運営しているホームページだ。


 あまりにも膨大なので普通にこの中から事件を調べようとすれば途方もない時間がかかるが、今は彼女自身から聞き出した前原美希という名前がある。


 良吾はそのサイトの検索欄の部分に彼女の名前を入力し、検索をかけた。

 結果、三件ほどがヒットし、良吾はそれらをじっくりと読んでいく。


 名前を手掛かりに調べていけば彼女の生前を知ることができ、幽霊としてこの世に留まっている理由も理解できるはずだ。


 そして最後の事件を目で読んでその事件の名称をコピーし、大手検索サイトのホームページでさらに情報を引っ張り出し、その情報を精査して信頼の置ける情報のみをプリントアウトした。


 それらがすべて終わる頃には良吾の勤務も終了していたが、彼は印刷した資料とビジネスバックを持って市の運営する図書館に向かう。


 彼は図書館でもネットで調べたその事件に関する書籍や雑誌、はたまた新聞の記事など資料となりえる情報を片っ端から引っ張り出し、それらを次々と読んでいく。


 一度見た資料を人よりいち早く記憶し、頭の中で再び組み上げることができる平凡な良吾の特技だ。

 その速度は凄まじいものがあり、それを見た司書たちがギョッとした目を向けていた。


 それから数時間後、閉館時間が迫る中で全ての資料に目を通した良吾が疲れたように背もたれに身を預ける。


 机にはページを開いたままの一冊の本があり、良吾はそれを一瞥してから呟く。


「そういうことか……」


 得られた情報から状況を推理、仮定し、真相を理解した良吾はポケットに突っ込んでいた端末を取り出すと電話をかける。


「教授。お願いしたいことがあるんです」


 電話に出た教授に良吾は単刀直入にそう告げた。

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