【Third Season】第七章 イノチ売りの少女 BGM#07”Girl in Trash Can.”《002》
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コンクリートはともかく、中身の鉄筋をまとめて切断されたのはまずい。ひとまずトレーニングは切り上げて、ビルの外へ出る事にする。
「ひい、はあ。な、何でエレベーター使っちゃダメなのよお?」
「良いトレーニングになるだろ。ミドリ、育てているのは筋力じゃなくて姿勢だ。手すりにすがって前のめりにへばると余計にスタミナなくすぞ」
バイクを駐輪場に置いているミドリといったん別れたタイミングで、徒歩のカナメは太股に巻いたホルダーからスマホを取り出した。ツェリカに任せたクーペは修理中だ。相手は普段から付き合いのある人物ではないが、こういう時は仕方がない。
「フレイ(ア)」
『はいはい』
「任せておいた件について進捗を聞きたい」
『わたしはあくまで質屋だよ。兵隊の運用、つまり人身を商売のネタにするつもりはないんだけどね』
「俺もあんたと商売をしているつもりはない。だがあんたには貸しがあったはずだ」
『それはどんな?』
「ここ最近も。忘れたとは言わさないぞ。おつまみ感覚でハイパー重たい眼帯ゴスロリ女に手を出して逃げ回っていた時、誰があんたをペイント弾で狙撃して死んだふり作戦に手を貸してやったと思っているんだ」
『うぐっ、そっ、その話はアンタッチャブルというか、君とわたしの仲だろうっ?』
「ちなみにあの超重眼帯、あんたの三文芝居なんか全然信じてないぞ。そりゃ崖に落ちていって死体の確認が取れないヤツなんて生きてるに決まってる。撃った俺に殺意を向けられる事がないのが何よりの証拠。週刊誌のフリーカメラマンの立場を守るって名目で一つの箱にまとめて、実質的に自分の耳目となるストーカー組織を作っている。何だったらあのどんより雨女にあんたの連絡先を渡してm
『分かった分かった、やるよ! あれは非常に残念な恋の終わりだったんだ、きちんと終わったからにはそっちの都合で勝手にコンティニューなんかしないでおくれ!! 頼むからっっっ!!!!!!』
外でのんびりもしていられない。
レーザーで直接切り裂かれたのは三〇階のジムの辺りだが、付随して建物全体のどこにどれだけ損傷が広がっているかは分からなかったのでエレベーターは使えなかったが、おかげでたっぷり一時間以上もかけてしまっていた。
『しかしそこまで焦る理由は?』
「レーザー兵器の『#閃光.err』についてはそちらでもある程度は調べているんだろう、あちこちで被害を出しているからな。あの武装コンテナを早い段階で押さえておきたい」
『ふうん。それで?』
「タカマサはコンテナ型の『遺産』をトレーラーで引きずるなりヘリでぶら下げるなりして街を移動し、高出力のレーザー兵器で発言力ばっかりで実力のないノイズ発生源のディーラーへ辻斬りを繰り返している。本物を見つけるための下準備、クロスワードパズルを埋めていく感覚でな。普通なら後を追えば簡単に隠れ家が見つかりそうなものだが、実際にはそうなっていない」
カナメは早口で先を続けた。
「つまり、コンテナの外装については頻繁に交換しているんだ。それも常夏市の中でも下層の意味で厄介なスラム街、第三工業フロートを経由してな。タカマサのトレーラーやヘリは必ずあそこのコンテナヤードを経由して、一度シャッフルしてから外へ出ている。コンテナの外装なんか中身の精密機器ユニットだけ抜いて詰め替えればいくらでも見た目は交換できるからな。つまり元のトレーラーやヘリだけ追いかけても意味がない。積み替える瞬間を押さえ、本物の『#閃光.err』を引きずっているマシンはどれか、そいつがどこへ帰っていくかをきちんと尾行しないと……」
『そうではなくて。頭数が欲しいならミドリ君の手でも借りれば良いのでは?』
カナメはわずかに黙った。
それからゆっくりと、確認を取るように言う。
「……頼めると思うかよ?」
『彼女も霹靂、だったか』
「ああ」
『君がその子を大切に扱いたいのは分かったよ』
「ツェリカも潰れた愛車を直すのにかかりきりで頼みを聞いてくれない。例のスラム街は一人で攻略できるエリアじゃないし、今回ばかりはよその人材に頼るしかなさそうだ」
『なるほどね。表に車を待たせている、かなり目立つ青いSUVだ。ナンバーを教えなくてもすぐ分かるだろうね。そちらに乗って、後は君の好きなように使ってくれたまえ』
スマホの通話を切って表通りに出ると、確かに。
スカイブルーの四駆が路肩に停めてあるので、そちらに回って後部ドアをノックした。相手の返事は待たずにそのまま乗り込む。
「無茶に付き合わせてしまって済まない。これから第三工業フロートに……」
言いかけた時だった。鼻の頭がピリついた。
ガシャシャ!! という鈍い金属音があった。
左右からいきなり銃口を突き付けられた音だった。
カナメが後部座席に腰掛けた途端、さらに外側から人が乗り込んできたのだ。
よくよく見れば、どちらも覚えのある顔だった。
退色した桜のような色合いの髪を一本三つ編みにした少女に、猫背にリュックのオドオド少年。
『
ちなみに運転席でハンドルを握っているのは、雪女型のマギステルスか。
後部シートの真ん中。居心地の悪いハズレ席でカナメは呻く。
「……おまえたち」
「わ、訳あってフレイ(ア)の下で働いていましてね」
猫背の方が口を開いた。
「そしてフレイ(ア)から伝言を頼まれていますよ。合流次第、好きなようにして構わないとね。わたしは、恋する者には全て平等に手を貸すと」
甘く見ていたのだ。
あの変態野郎と余計な仲間意識が芽生えていたとは思っていなかったが、それでも。
フレイ(ア)は『財宝ヤドカリ』というチームをまとめる底知れない王であり、外からコントロールできるような安いモンスターではない。全ての『遺産』を集めてAI社会に打ち勝つ、そのためにタカマサとも敵対しなければならない……なんていうのはあくまでも蘇芳カナメの事情であり、あの色恋バカからすれば知った話ではなかったのだ。
人類の行方より、まず目の前の恋。
それで実際に世界経済を回してしまえる怪物。
思わず両手で己の顔を覆い、そしてカナメが絶叫した途端、ザウルスが彼の首の後ろを銃のグリップで殴りつけた。
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