【Second Season】第五章 夜のテレビは脱皮する BGM#05”Killer Stunt”.《010》


「……やった」


 そんな声があった。


 猫背にリュックの少年だった。


 普段大きな声を出すのに慣れていないのだろう、どこかひずんだ調子で、それでもありったけの力を込めて彼は叫ぶ。


「勝った。勝ちました! ぼくが一抜けです、これで賞金の一〇億スノウはぼくのものだあーっ!!」


「あら意外な展開。失速しましたねえ、スーパーアンサーさん。他にも優勝候補が軒並み自滅して勝手にリタイアしちゃったからでしょうか。意外なダークホースです!!」


 バニースーツと理知的なメガネをアンバランスに組み合わせた少女、バニーKは口元に手をやって小さく笑いながら、


「……ただ大丈夫なんですかー? 約束通り優勝賞金は電子で入金いたしますけど、いきなり大金を掴んだディーラーさんは周りから狙われるっていうのは常道ですからね」


「は、はは。そうでしょうね。ぼくは扱い的にはデッドを喰らっている身の上ですから。これを利用して『元の力』を取り戻そうとしたら、周りのライバル達は蜂の巣をつついたような騒ぎを起こすでしょう。何としても、再び借金地獄に落とすために」


「おやまあ、想像以上に壮絶なライフスタイルを送っているご様子。もしよろしければ広告スポンサーさんの警備会社とアクセスなさいますか?」


「いえ結構。その程度ではどうにもなりません」


 ガッシャ!! という禍々しい金属音があった。


 一応は持ち物検査くらいしているだろうに、陰気な少年の袖口から小さな護身用拳銃が飛び出した音だった。


「あとこの動画放送局の建物内も含めて、しばらく周辺エリア一帯は鉛弾と走る凶器が飛び交う事になりますからお気をつけて。銀魅ぎんみ、準備を」


「……あ、さっきからずっと気になってもじもじしていたんですけどこれフリードリンクなんですか? うふふ、カップに氷詰め放題。うふふふふ……」


「銀魅」


「……あばあばば照明係の本気の舞台照明を当てないでください溶ける溶けます真面目にやりますから……」


 相棒とコントを続けている場合ではない。


 Mスコープは司会進行のバニーKの方へ視線を振って、


「流れ弾に当たってフォールしたとしても、ぼくの方ではケアできません」


「ちなみにー、危険度の方は?」


「本日も快晴ですがところによりにわか雨の恐れがあります、くらいですかね?」


「そんな訳で優勝者のMスコープさんには今夜の天気予報までやってもらいました☆ 半島金融街湾岸部にお住まいの皆様は鉛弾の雨にお気をつけて。クイズプラチナビリオン、今回はこの辺りで幕引きとなりますっ! それでは皆様、来月もまたこの時間にお会いいたしましょう! あでゅーでーす!!」




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